第13話:動物園みたいな学校
「うわぁ……」
学校へ近付くにつれて、良太は頭が重くなってきた。
町行く人々を亜人や獣人と表現するなら、この学校の生徒達は怪人とでも呼ぶべきだろう。
豚怪人、狐怪人、猿怪人、鶏怪人、鼠怪人、驢馬怪人、蛇怪人、牛怪人、蛙怪人、栗鼠怪人、鼬怪人……
蜥蜴怪人、鵞鳥怪人、禿鷹怪人、鮫や孔雀、臭鼬の怪人もいる。亜人獣人は2割といない。
怪人どものデザインは醜悪なものから滑稽なものまで様々だが、どいつもこいつも風邪の時に見る夢から出てきたような面構えをしていて、目がおかしくなりそうだ。
こいつら全員を人間に戻すなんて、考えただけでも気が遠くなる。とりあえず今は遅刻しないことを優先するべきだろう……
「おっ、乞食くんじゃーん」
「うわっ、今日も給食を漁りに来たよ。恥ずかしくないのかねぇ」
佐藤院絢梧の取り巻きが、良太を見つけて絡んできた。
「寄るな、ハエ野郎」
良太の拳が一瞬で生徒二人の顎を叩き割った。
ハエとクソとガキが三位一体となった強烈な汚物がブンブン騒ぎながら近付いて来たのである。とても払わずにいられるものではなかった。
脳を頭蓋に叩きつけられた男子二人は、骨と歯が砕けた痛みを感じる間もなく五体投地して動かなくなった。
朝の通学路が静まり返った。
しーん、ひそひそ、ざわざわ、どよどよ。
「…………………ははっ」
音を取り戻していく世界。一人の女子が良太に声をかける。
「あーあ、やっちゃった! 今までせっかく我慢してたのに、これで全部台無しになっちゃったねぇ!」
彼女も佐藤院絢梧の取り巻きの一人だ。
少女はニヤニヤと笑いながら、これで特待生も取り消しだとか、それどころか警察のお世話になって少年院行きだとか、給食より臭い飯がお似合いだとか、それでも結局他人の金で生活する乞食なのは変わらないんだねとか、ってゆーかその眉毛はなんなのよ何処の部族のファッション? とか、そういうようなことを言おうとした。
まぁ、言う前に顎を叩き割られたのだが。
高価な化粧品で綺麗に整えられた顔が縦に拉げて上を向き、女生徒は後頭部から歩道に叩き付けられた。
周囲は再び静まり返った。
「……あ、あん、あんた、女の子に、なんてことを……」
殴り倒された女子の友人らしき少女が、掠れた声で良太に話しかける。
「は? お前らは蚊を潰すときに、こいつは血を吸うからメスなんだなとか、イチイチ気にすんのか?」
良太は面倒そうにそう答えた。蚊は恐ろしいのだ。伊達に最も人を殺した生物ではない。
息をするのも怖いくらいの静寂が訪れた。
遠くから響いてくる車のエンジン音が、やけに大きく聞こえる。
「で、まだなんかあんの?」
良太は話し掛けてきたクラスメイトに問い返す。
「い、いえ! 十分です! 失礼しました!」
彼女は直立不動で答えた。いい姿勢だ。なんだかんだで育ちは悪くないのだろう。
「あっそ、じゃ」
良太は度重なるタイムロスに舌打ちしながら学校へ向かう。
誰も、何も言わなかった。
良太の後ろ姿が坂の向こうへ消えると、通学路に悲鳴と絶叫が巻き起こった。