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獣人メイちゃん、ストーカーです!  作者: 小林晴幸
3.行商を開始する羊娘
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8.くまvsひつじ

森の中で、くまさんとひつじさんが。

そう言うとメルヘンな空気が漂うのに、実際は……



 この時、言うまでもないことだけど。

 明らかにメイちゃんは混乱していた。

 冷静な判断能力はなかった。

 でも、それでもかまわなかった。


 突撃かました羊さんの頭が、潜り込むように下側から前傾姿勢な熊さんの腹部に思いっきりめり込んだ。


「め、ぇ、ぇ、えええええええええっ!!」


 渾身の力で、そのまま全身の勢い込めて突き上げる。

 懐に潜り込まれた熊さんは、体格差のある羊さんを掴みそこねて後手に回った。


「……っしゃぁ!」


「おい、あの羊さんいま明らかに羊にあるまじき声あげたろ」

「どうやら取り繕う余裕がなかったようですね」

「やっぱ獣人か、あいつ!」


 なんか外野が言ってる気がするけど、今は気にしない!

 だってそんな余裕ないから!

 

 私に、リューク様達の行動をコントロールすることはできない。

 当然だけどね。

 リューク様達の考えに、干渉は出来ない。

 だってメイちゃんは只のひとだもの。

 だからこそ、思った。


 リューク様達の行動に指図が出来ないなら。

 だったら今の実力が足りないリューク様達を熊さんから遠ざけるのではなく。


 熊さんの方をリューク様達から遠ざけるっきゃないよね――!?


 だから私は、熊さんに頭突きをかました。

 勢いで、ふわっと熊さんの巨体が浮いた瞬間。

 更に前進!

 腹部に頭を、押し込むように!!


 そのまま全力ダッシュした。

 え? ここ森の中? 障害物だらけ?

 そんなもの、問題にはしない。

 だって熊さんが私の前にいるから、熊さんが何にぶつかってもノーダメージだし。

 熊さんの体が、ガンガン木にぶつかる感触がしたけれど。

 私は気にせず全力で駆け抜けた。

 何かにぶつかる度に、微妙に方向を修正しながら。


「ひ、ひつじさぁぁぁあああああん!?」

「ちょ、おま、どこ行くんだー!?」


 後方から、驚きと共に引き留める声がするけれど。

 今はそれを振り切って、熊さんをリューク様達から遠ざけることに腐心した。

 熊さんのでっかい前脚は、本当に懐に潜り込まれると弱い。

 腕が太く大きく、長すぎて内側に上手く届かない。

 生物としては欠点だらけだけど、元が『神』なので『生物』としては形状がおかしくても仕方ないのだろうけど。


 さて、それではひとつ。

 元神様を、倒すとしますか。


 リューク様達の前から遁走かましたメイちゃんは。

 いつどこで遭遇できるかもわからないレアな野良ボスに遭遇した、このチャンスをふいにすることも出来なくて……ここできっちり、倒す気になっていた。

 本来はリューク様達が倒すべきだけど……シナリオには関わらない野良ボスだし。

 ドロップアイテムさえ確保しておけば、後でリューク様達の手に渡るよう計らうこともできる。

 倒すにはそれなりの実力がいるけれど、でも。


 リューク様達をストーカーする為に。その為だけに。

 『ラストダンジョンを独力踏破できる実力』を目標に研鑽積んだメイちゃんを舐めるなよ!

 現実の、この世界に『レベル』の概念図はないけれど。

 それでもメイちゃんの戦闘力をレベル換算すれば、推定レベル60以上ー!!(セムレイヤ様調べ)

 ……そんなメイちゃんより明らかに強いヴェニ君やパパは何だって考えたらちょっと怖いけど。

 レベルで考えたら十分私に熊を倒せる実力はあるはずで。

 むしろ逆に考えよう。


 こんなとこで、熊一頭倒せないで。

 ラスダンでリューク様達のストーカーができるっかよー!!


 そんな気持ちを込めて、渾身の全力ダッシュを披露した。

 物理攻撃に強い熊さんを相手に、物理しか攻撃手段がない私じゃ決め手にかけるんだけど。

 でもそんなこと、今は考えない。

 後で、後で考えよう。

 なんならクリスちゃんを呼び出せばなんとかなる。

 今は、とにかく走るときだ。


 熊さんの全体重が、のしかかる。

 圧力を気持ちで押し返す。

 前に、前に、一歩でもリューク様達から遠ざかる!



 そうして気付いたら、現在地を見失っていた。

 やべ。


 広い森の中、人知れず現在地を見失う。

 人はそれを、わかりやすく一言で『遭難』と言う。


 傍らには、がんがん木々やら岩やらに全力激突&クッションにされて心做しかぐったりしている巨体の熊さん。

 どこかでフクロウがほぅと鳴いた。

 もうすぐ、日が暮れる。


「が、がぅ……」


 よたよた。

 ぐったりしながらも未だ闘争心を失わぬ熊が立ち上がる。

 とんだ災難に遭ったと、お疲れ気味なご様子で。

 熊さん自身も自分に何が起こったのかと困惑気味で、よくわかっていない様子。

 頭が回ってないな?

 それを見て取り、今がチャンス!とばかりに。


 熊さんがよたよたしている内にと、私は追撃を仕掛けた。

 前脚で、ガツガツと地を掻き勢いつけて突進だ!


「めぇぇえええええええ!!」


 そうして、更なる頭突きが熊さんの腹部を襲う。

 鳩尾なんてぶち抜いてやるぅ! そんな心意気をいっぱいに込めました。


「がぅ!?」


 しかし、熊さんも一度目の痛みが記憶にあった為か。

 突進されるや否や、咄嗟に身体が動いたみたいで。

 私の頭部は、熊さんが重ねた両掌に食い止められる。

 あ、爪が頭に食い込んじゃう。私の分厚い羊毛で防御しきったけれどもね!

 そのままずりずりと、力の比べ合いで。

 私の足が滑りそうになる。

 だけど熊さんの足は、確実に後方へと1mか2mか……私に押し込まれる。

 力の比べ合いじゃ、埒が明かない。

 後方に生えてる木々に叩きつけるには、突進力が足りなかった。助走が足りなかったな。

 勢いと脚力、そこから繰り出される突進力。これが私の武器。

 だけど立ち止まってしまったら、勢いもそこで止まる。単純な力比べとなると分が悪い。

 仕切り直すために、一旦離れたい。

 でも熊さんは、徐々に自分が押しつつあることに気付いたのか、離れる切欠を与えようとはしなかった。

 今、羊形態であることが悔しい。

 いつものメイちゃんなら、もっと上手くやれるのに。

 戦い始めてしまった今となっては、もう姿を変えることもままならないけど。


 若干のやり難さ、いつもと違う手ごたえ。

 無視するには大きい、メイちゃんの不利。

 これをどう撥ね退けようか。

 ゆっくり考える時間はない。

 そう、時間はない……ん、だけど。


 時間はなかった代わりに、思わぬ闖入者は現れた。


「う、うぉ……!? 熊と羊が戦ってる!?」

「マジで!? 羊つえぇ……普通、草食動物の瞬殺だろ。肉食だぞ、熊」

「馬鹿ね、熊は雑食よ。けどあれ【ミルクティー色のテディベア】じゃない!」

「だろ!? だろぉ!? だから言ったじゃん! さっき一瞬ちらっと、なんか駆け抜けてったって! バックステップで!」

「バックステップっていうか……お前さっき、背後に滑るように吹っ飛んで行ってたって言わなかったか」

「些細な誤差の範囲だ! っていうかさっきチラッと見えたのは、熊だけだったと思うんだが……羊なんてどっから現れたんだ!? え、こんなイベントあったっけ……?」


 口々に言う、その言葉。

 突然現れてナニ言うのー???

 なんか若干、聞き捨てならない単語がちょいちょい差し挟まれてる気がする……。

 横入するように現れた、見覚えのない(・・・・・・)3人の子達。

 あれぇー……? それこそ、『ゲーム』にあんな子達はいなかった、はずだけど。

 無視するにはあまりに存在感の大きい単語を、いくつも会話に散りばめて。

 え? 誰あの人達……?(初遭遇)

 状況から類推すると、めっちゃ見逃せないんだけど。

 でも、見咎められる状況でもないんだなー!?


 私の気が、見知らぬ三人組に一瞬逸れた、その時。

 見計らったように熊さんが押し込んできたー!!


「め、めえええええええっ!?」


 メイちゃんと熊さんが本格的にお山の中でお相撲状態はっけよいのこったー!? ←凄まじく混乱中。

 闖入者に気を取られて、不覚を取った。

 お陰でメイちゃん、絶体絶命……とまではいわないけどそこそこピンチだよー!

 熊さんからの思わぬ押し返しで、一瞬体制が崩れかけた。

 そこに畳みかけてくる、熊さん。

 異形の体が示す通り、体のバランス的に蹴り技がほぼない相手なのが、僅かに救いか。

 就き飛ばされるように距離を取り、たたらを踏みかける。

 そこに大きく振りかぶって向けられる、太い前脚から放たれる渾身の――


 まあ、避けるけどね。


 鈍重な体で、速度に関しては全然で。

 そんな熊さんが種族特性的に足の速さに自信があって、その上で速度に重点を置いて修行を積んできた私の速度に張り合えるとは思わないでほしい。

 大振りで向けられる攻撃は、むしろチャンスだ。

 重要なのは、タイミングを掴めるか。


 前脚が大きすぎる程に発達した体では、どうしたって大振りの攻撃になってしまうんだろう。

 攻撃が私に届くだろう瞬間を、冷静に測る。

 私はタイミングを合わせて、地面を蹴った。

 熊さんの攻撃を、飛び越えるようにして。


 そして――前の方へ、私の方へと突き出された熊さんの顎を狙って。

 

 私の回し蹴りが、空中で綺麗に炸裂した。

 





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