曇りの日
その次の日は曇り
でも、いつ降ってもおかしくないくらいに
分厚い雲におおわれたどんよりとした天気
彼が来ているかは分からなかったけど
私はいつもの時間に、いつもの場面に向かった
近くまで行くと、彼の姿が見えた
遠目でも良く分かる、いつも通りの真っ黒な奇抜な格好は彼しかいないから
「こんにちは、道化師さん」
「はい。こんにちは、お嬢さん」
そう言って、彼はおどけた笑みを浮かべて私の方を見る
私が近くに座ると、いつもみたいに芸が始まる
ただ
いつもと少し違うことが起こった
「…お嬢さんは、この近くに住んでいるのかい?」
いつもは芸の途中で喋らない彼が
私に話し掛けてきたのだ
「ええ。ここの近く」
「そうかそうか、だからいつも来てくれるんだね。
他の子供達とは、遊ばないのかな?」
「近くにいないよ。だから、私はいっつも一人なの」
喋っている間も、彼は手を止めずに芸をし続ける
「一人は嫌い?」
「嫌いよ、大っ嫌い。だって、つまらないんだもん」
「………でもね、お嬢さん。
一人でも、進まないといけない時はあるんだよ?」
彼は、まるでさとす様に私に話しかける
それでも、彼の手は止まらずに
いつも失敗する最後の大技のところになっていた
「…道化師さんって、イジワルなのね」
「そうかい?初めて言われたよ」
そう言いながら、彼はいつも失敗するところを
見惚れるぐらいに、綺麗に成功させたみせた
そして、いつものおどけた笑顔を私に向ける
「………ずるい」
「そうかい?」
「ずるいわ、道化師さん
そんな事されたら、私もって思っちゃうじゃないの」
そういって私は立ち上がり
最後の最後で、彼ににっこり笑ってみせる
「バイバイ道化師さん。ありがとう」
そして、いつもの道とは逆の方向へと迷わずに向かって行く
後ろから、彼がいつもの笑顔で手を振ってくれている気がした




