ちに繕う野花 十七
あまねく世の惨事の元凶を、ただの一点、『雪芒』に向けられる。
『雪芒』のような特殊な技能を会得する組織は『陰陽省』に少なからず存在するにも関わらず、『雪芒』のみ。
たった一人の人間が『雪芒』と選んだだけで、あまねく負の感情は『雪芒』に向けられてしまった。
氷月の殺害は、過失であった。
氷月を殺害した者は、明確なる殺害の意思を以てして、殺害したわけではない。
偶然と言ってもいい。あまねく負の感情に翻弄されながらも、殺害の思考だけは持ってなどいなかった。ただ、この国から追い出したかっただけ。それだけだった。
偶然、追い出そうとして投げた物が氷月の身体に当たった。当たり処が悪く、氷月は死亡した。氷月が死亡しては、追い出すという選択肢の他に、殺害という選択肢が加わった。『雪芒』を悪と決めつけた者たちの思考に。瞬く間に。増殖しては、選択肢はそれだけになった。なってしまった。
『雪芒』の滅亡の始まり。
幾度も幾度もやり直した処で、変わらなかった現実。
紅凪と仙弥が氷月が殺害される記憶を持っていた事で、トキが出現した事で、その現実は変わり得るのか。
否。
変わるはずがない。
いくら足掻いた処で、時の流れを変える事はまかりならぬ。
「そもそも変わらないって分かってるはずなのにねえ。本当に。相棒は何をしてんだか」
ヘルメットの額部分から前髪を生えさせた、フルプレートアーマーを依り代としてこの地に降り立ったカイは、眠り続ける氷月を守るように傍にい続けるトキを呆れた目で見つめたのち、そっとこの場を離れては、或る男の自室の扉を了承なく開き、気持ちは変わらないかいと話しかけた。
「ああ」
揺るがぬ男に、カイは渇いた大笑を浴びせた。
「オマエが引き込んだくせによくもまあ、見殺しにできるよ。普通、助けを乞わないか?せめて娘だけは助けてくれえって。泣き叫びながら縋ると思うけど。まあ。実の娘ではなく、養い子だからそこまでの情がないだけか」
「運命ならば、受け入れるだけだ」
「あ~あ。本当に可哀想。オマエなんかに引き取られて。オマエの恐怖に巻き込まれて。果てはあの若さで殺害されて。菱に引き取られた方がよかっただろうに」
「氷月を養子に迎え入れるのは、私だ。変わらない。私が、」
不意に言葉を途切れさせた男を追究せず、ポールドロン、コーター、ヴァンブレイス、リアブレイス、ゴーントリット、ベサギューを動かしては、両腕を軽く天へと掲げながら、カイは言葉を発した。
「ああビックリ。そこまで執着しているのに、相棒や紅凪や仙弥のように助けようとしないなんて」
「私に氷月を助けさせたいのか?」
「いやいや。オレは相棒の望みを打ち砕きたいの。氷月を助けられたら困るのよ。だけどねえ。流石に。可哀想だなあっと思っちゃって。助けたいとかはないんだけどねえ。あ。ごめんごめん。長居しちゃった。色々準備があるでしょ。オレは陰からこっそり見守ってるよ。頑張って、『雪芒』を滅亡させてね。オマエの望み通り」
忽然と姿を消したカイの残した高笑いが、谺していた。
部屋の中で。身体の中で。心の中で。魂の中で。
いつ、いつまでも、
「望み通り、」
(2024.10.28)




