ちに繕う野花 十六
零の区画、扇晶城の庭園にて。
慰労会当日。昼時。真っ青な空がどこどこまでも広がる晴天日和。
慰労会招待客選定。紹介状配布。送迎、食事や食器、家具、植物、音楽隊、庭の装飾などの思案及び選定。設置や後片付けを行う業者の選定と手配。招待客や業者などの案内、監視、保護体制などなど。総務省の警備兵と城局省の執事に協力を仰ぎながら、国王に慰労会の開催を任された紅凪と青嵐は、あれじゃないこれじゃないとあたふたしながら、寝る間を惜しみながら膝を突き合わせて相談しては、どうにかこうにか、二人で作った公務一覧表すべてに完遂した証である赤の斜線を引く事ができて、今。こうして無事に慰労会開催にこぎ着けたのであった。
「ちゃんちゃん」
「ちゃんちゃん。じゃないよ。紅凪」
青嵐は人混みに紛れて姿をくらまそうとしていた紅凪の肩を、やんわりと掴んで引き留めた。
紅凪はその手を払う事なく、背を向けたまま口を開いた。
「もう俺の役目は終わっただろ。兄貴」
「何を言っているんだい。紅凪。慰労会主催者として、ここに訪れてくれたお客様に満足頂けるように気を配らないといけないのに、何処へ行こうっていうんだい?」
「氷月のところ」
即答した紅凪に、青嵐は目を丸くした。
まさか正直に答えるとは思わなかったのだ。
「なるほど。『雪芒』として依頼を達成できたらしいね。私も人伝に聞いたよ。本当によかった。これでますます重圧は増しただろうけど」
「ああ」
「氷月も招待していたけど、来ていないらしいね。雪晶様に聞いたよ。疲労が重なって眠っているって」
「ああ」
「だからお見舞いに行くって?大事な公務を放ったらかしにして?」
「………」
「私も婚約者としてすごく心配している。駆けつけたいよ。でも、我慢している。何故だか分かるかい?公務を果たさなければならないから。この国の王子として」
「王子は大切な人の為に公務を放ったらかしにしたらいけないのかよ?」
青嵐は肩を掴んだ手を離して、口を尖らせた紅凪の頭を二、三回、優しく叩いた。
「うん。いけないよ。私たち王子は国の為に存在している。個の為じゃない」
「だから王子なんかになりたくないんだよ」
「でも、紅凪は王子継承権を放棄していない。私と紅凪の二人しかいないから。だろう?」
「もっといたらすぐに放棄していた」
「それはどうかな?」
「何だよ?」
「まあ、知らぬは本人ばかりという事で。慰労会が終わって、後片付けが終わって、業者も含めて全員が城から出て行くまでここに居ないとだめだよ。終わったらすぐに行こうね。お兄ちゃんと一緒に」
「行かねえし」
「おやおや。まったく、お兄ちゃんと一緒だったら恥ずかしいって?思春期真っ只中だからなあ。紅凪は。しょうがない。じゃあ、お兄ちゃんは紅凪のお見舞いが終わってから行こうかな。でも。立て続けに行ったら氷月が疲れちゃうからね。後日改めて行こうっと」
「………全部終わって行ったら、夜になっちまう」
「そうだね」
「迷惑だろうか?」
「迷惑かもね」
「………俺も、明日にしようかな」
「………会いたいんだろう?なら、会いに行った方がいいと、お兄ちゃんは思うよ」
「兄貴だって会いたいくせに」
「うん。そうだね」
「………行くかどうかは終わってから考える。今は、無事に終わらせる事だけに気を配る」
「うん。そうしようか」
歩き出した紅凪の背を少しの間だけ見つめてのち、青嵐は間近で紅凪の護衛に当たる朱希に目配せして、自分もまた招待客の元へと向かったのであった。
(あれ?そう言えば、紅凪の婚約者のトキ様の姿も見当たらないな。珍しいお酒を用意したと言ったら嬉々として飛んで行ったのに)
(2024.10.27)




