第四十四話「狂乱の夏休み編6」
かなり急展開を迎えます。
「そぉぉォオオオオオォオィィ!!!!!」
静寂な森にそんなに気合いが響き渡ったかと思うと、今度はザッパーン!! と音を立てて上空に舞い上がった何かが、ゴッと地面に落ちる。
…俺、霧式碧はついにアユっぽい味の魔物、ア=ユを釣り上げた!!
釣糸を垂らすこと一時間五十二分三十四秒!!! ついにこの時をもって、俺は成し遂げた!!!
……それにしてもこのア=ユ、一メートル以上あるぞ。…でけぇな。
ま、皆で焼いて食うか。内臓は毒だから先に取り出しておくが。
「……で、さっきからこっそり後つけてきてる君? なにか話したいことがあるんだろ? …誰かからの命令か?」
巨大魚のア=ユを捌きながら木の陰に隠れる人影に声をかける。
ビクリと揺れる気配。自分に気づかれた事に、少しばかり動揺しているらしい。
しかし、木の陰に隠れていた人影も観念したのか、のそりと音を立てて姿を表す。
「気付いていたのか。霧式」
木々の葉から零れる月明かりに照らされて現れたのは、木戸伸二だった。
「いつから気が付いていたんだ?」
そう言いながら前髪を掻き分ける伸二。それに俺は、茶化すように答える。
「いつからって言やあ、俺が『散歩行ってくる』っつってキャンプ地を出てった後だな」
「最初から全てバレてたってワケだ…」
ヤレヤレ、と肩をすくめる伸二。それに俺は――――
「…【射抜け】《闇擦れの杭》――!!」
省略詠唱法による、一瞬の隙を突いた低位魔剣の召喚。
振り向き様に俺の手から、伸二へ吸い込まれるように放たれて行く魔剣【ダグ・ヴォルク】。
太くも、鋭い針のような様相をした魔剣は、そのまま伸二の頭を破砕させる様にして貫く―――事はなく、伸二は……否、伸二の姿をして動き、語る、傀儡のごとき何かの姿を霧散させるだけに留まった。
「……まあ出てこいよ、火崎アリス。――いや、スパイさん…か?」
魔剣を投擲した体勢から自然体へ姿勢を戻し、剣の顕現を解除する。
そして同時に、火崎のいるであろう、背の高い草の生い茂った場所に目を向け、低い声で言う。
ガサリと草むらから現れたのは――
「へぇー、霧式くん。伸二くんの偽物、分かったんだ~?」
俺の予想通り、現れたのは火崎アリスだった。
…そして何やら夏の対抗戦で見覚えのある黒衣を纏っている。俺はそれをスルーしながら話を続ける。
「…そこにあるのに気配があるのに存在感が全くないなんて有り得ないからな。あれが伸二じゃないのは何となくわかったよ」
アリスのイデアは【ダミースキャナー】。
作りたい物を明確にイメージすることで、そのダミーを作ることができるというものだ。
ダミーは、動かしたり喋らせたりと操作が可能だ。まあ、その分、気配があるのに存在感がないとか色々問題はあるが、その弱点も時と場合によっては強みへと変化するだろう。
「ふぅん。まあ、それが私のイデアの弱点なんだね~」
「ああ。イデアの能力がが変化していないのもお前だけだし、取り分け行動が打算的だったのもお前だ。……なあ、お前は…何のために、俺へ接触したんだ? ヌゥェゴモル教団の…一員なんだろ?」
本題を切り出す。
「…んー、まあ確かに私はヌゥェゴモル教団の一員だけどさぁ? 私はあの“かみさま”に信仰を捧げるつもりなんてないんだー。私は私。全部私のための行い」
「…俺に何を望む? 力か? 名誉か? 権力か?」
…何だ。声が震えている。
「んー、そうだねー――――――」
俺は、こいつについて何も知らない………筈なのに。何だ…胸がざわつく。
…これは何だ。胸が、苦しい…。
「私が用があるのは本当の霧式くんになんだよ」
「はっ…あ…?? 霧式は、俺だ。…何だよ、その…俺が霧式碧じゃないみたいな…言い方……?? っっあ…!」
何だ、俺は、霧式碧。
それ以外の一体なんだっていうんだ―――
「……オイ、違うだろ。…お前は霧式くんじゃあ、ないでしょ。…この、紛い物が…。なぁ? そうだよな―――」
「カジユウキ」
一際強い感情が、俺を、射貫いた。
殺意。これは、殺意だ。俺が異世界で今まで何度も受けてきた―――
「うぇおぇうえあああぁぁああぅああっっっつ―――!?! ぐ、あ…っば…?!」
胃液が、逆流する。血管内の血流が逆さになったかのようなおぞましい感覚、何か胸の奥が疼く。
これは、俺じゃない、別の、誰、かが…
「…ぼくは…カジユウキ…???――ちがう…?! 俺、は霧、式…碧……?! 違う、違う―――?!? ぼくは――!!!」
「……うわ~。これはちょっと、危ないなぁ…。……でも? でもでもでも? …霧式くん、起きたね。…じゃあまたね! 霧式くん! 私、また会いに来るから!」
俺ではない誰かに、しかし、俺に語りかける様にして、火崎アリスはどこへとも知らぬ、闇のなかに去っていった。
「…ま、て…え。ぇ…え、えぇ?!?!」
自我が危うい。俺は俺だ。俺は、俺。俺で、俺だから俺だ。
とにかく、俺が俺だと証明できる何かが必要だ。
だから落ち着け。
そうだ。
記憶だ! 記憶が俺が霧式碧だと証明してくれる!!
あの異世界での思い出が―――――
「……ちょっと、まて…何で………何で………異世界の記憶が―――、二つある…?!」
…俺は……俺は…、誰なんだ???
どくんと、何かが胎動して。
蠕動しながら、俺の中の何かが目覚めた。
新作:迷宮に封印されてる邪神に生贄として捧げられた俺だが、逆に屈服させてやった。~異世界に召喚された俺は、最強魔剣とステータスプレートチートで無双する~(下記のURL)の連載を開始しました!
http://ncode.syosetu.com/n0738ec/
三人称視点での小説になります!




