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第三十七話「絶望と踊れ」

お待たせしました。最新話です。





 あれから中々魔力酔いの覚めない魔王を看病して色々と大変だった。

 『えりくさー』ってかいてあるポーション瓶の液体を飲ませた訳だが、どうやら、件の液体は万能治療薬(エリクサー)の偽物だったらしい。…ただのポーションでした。ガックシ。


 …ま、まあ、そのおかげで看病して目覚めた魔王(フィリス)から色々と聞けたんだけどね。

 万能治療薬(エリクサー)だったら寝てる間に治しちゃうからそうはいかねぇってもんよ。


 で、魔王(フィリス)から聞いた話によると、あの対抗戦で俺が一度死ぬと、それまでアリーナを制圧しつつも、何かを観察するように観戦していたヌゥェゴモル教団の奴等は何処へともなく去って行ったらしい。

 結局何が目的だったのかは不明って事だ。

 正体も俺では分からなかった。強力な、それこそ、神クラスの存在が【無限叡智】先生の検索(サーチ)を妨害している。


 ただし、間違いなくあの異世界に関係があるはず。その辺は目下調査中だ。



 それから、俺が解呪され終わって生き返るまでの一週間で、あの新世紀なキ○ルっぽい議長ら上層部が、理事長であるフィリスの代理で後処理を終わらせてくれたらしい。

 マスコミやら関係者やら、色々と大変だっただろうに。


 残念ながら対抗戦の総合順位は、できなかった試合もあったし、更にヌゥェゴモル教団の襲撃によってうやむやになってしまった。

 しかし、SクラスとFクラスの『下克上ルール』を用いた勝負は議長らの計らいにより、Fクラスの圧勝ということに。


 あのあやふやな結果に終わった大将戦はどうするのか?


 …考えたら負けだ。気にするな。


 …まあ、これで俺らFクラス念願の『下克上ルール全部達成』を完遂できた訳だ。


 因みに、俺らは晴れてSクラスとなり、元・Sクラスは最底辺のFクラスに落下。


 Sクラスの担任にこだわるがめつい先生が、


「今度担任になるからよぉろしくねぇ?」


 とか言ってきたが、『下克上ルール』で獲得した担任指名権により、勿論と言わんばかりに聖岳ちゃんを指名。


 あと元・Sクラスの担任は上層部に掛け合って退職させた。これでSクラ…おっと現・Fクラスの諸君にも、もう少しマシな教師がつくだろうさ。


 元・Sクラスからは正式に『柊木(ひいらぎ)雪奈(ゆきな)』と『燈禅(ひぜん) 拳児(けんじ)』を新・Sクラス生徒として迎え入れた。



 が。



 ……あれから雪奈はずっと寮の自室に閉じ籠っている。


 学園が正常な運行を取り戻すまでの一週間が終わり、それから三日たった今も、クラスはおろか、自室からさえ出ていない――――。





      †  †  †






 まだ雪奈が引きこもっている。

 …これは深刻な問題だッ…!!



 …ってな事でえ! 俺は雪奈の部屋の前にいる!!

 部屋の鍵は既に解錠済み。

 侵入経路も確保し、廊下の監視カメラも潰した。今ごろはダミー映像が流れているはずだ。


「よう! 柊木さん!! 俺だッ!!」


「ひっっ?!」


 で、勝手に雪奈の部屋に入った訳なんだが…。

 …突然の俺の登場に、雪奈はあらんかぎりに目を見開いている。


 …流石にどこからでもいつのまにやら侵入してくるG様のような入り方は間違っていたか?

 まさに異物を見る目で雪奈が此方を見ているではないか。


「……鍵、かけてなかった…?」


「いや、かかってたけど…」


「……どうやって入ったのよ…。本当に貴方、謎な人よね」


「まあな。…で、、何引きこもってんだよ? 授業もろくに受けないでよ?」


「………」


 さっそく本題を切り出すが、雪奈は無言。

 そしてぽつりと呟く。


「…ホントに生き返ったんだね」


「…まあな」


 クラスの皆には俺が死んでいたのを昏睡状態だったと話してごまかしてはいるが、雪奈にだけは真実を伝えている。

 …何故か、雪奈には嘘をつきたくない。



「――…うしてよ」


 雪奈が何か呟いた。


「え?」


 俺が呆然とするのも構わずに、俯いていた雪奈は、叫ぶ


「――どうして、かなたじゃなくて貴方が生き返るのよ!!?」


「……雪奈…」


「もう嫌!! 耐えられない!! 何で?! 何で殺すの!? 私から奪うの?! 何でッ!! 私はッ!! 守れないのよ!!?」


 叫び散らしながら、頭を抱える雪奈。

 その華奢な体はか細く震えている。


 自分の義母(あかね)と再び会い、戦ったことにより、過去のトラウマや抑えてきた思いが溢れだし、感情の収拾がつかなくなってしまったのだろう。


「雪奈、俺は…」


 慰めの言葉をかけようとして、思いとどまった。


 慰め?


 俺が?


 …俺にそんな資格はない。


 …俺は…沢山殺した。奪った。つまりは、大罪人だ。

 嘘と欺瞞にまみれた言葉で雪奈を汚したくはない。


 (ちまた)では【魔剣の勇者】なんて祭り上げられていた俺も、魔族からしたら悪魔にしか見えなかっただろう。


 俺はまだ、あの罪に向き合えずにいる。


 魔族の人々に感情が有ると、泣いて笑える、同じ存在であることに気が付いていながら…、心のどこかで認められない



 血溜まりに沈む無数の死体。血と肉と臓物の饐えた匂い。

 そこに沈んだのは、沢山の魔族と、仲間たち。

 俺が切り捨てた、斬り殺した、そして救えなかった命が沢山…あった。


 俺は誓った。あの日、誓った。


 もう、あの血の沼に大切なものを落とさせない。

 俺が、守ると。

 だから、敵には容赦しない。敵は殺す。俺は大切な仲間を守らなきゃならない。


 守らなきゃ、こちらから殺さなきゃ…奪われてしまう。


 もう何も奪われないために、もう誰も殺させない為に、俺はあの地獄で…理想を捨て、力を得た。


 傲慢な思い上がりかもしれない。

 守りきれないものだって沢山ある。


 だけど、だけど…自分が自分でいるために、あの日の決意を否定することは、絶対に有り得ない。


 アイツと約束したんだ。



 だから。



 俺の物語は、いつも絶望から始まる。


 雪奈は、その絶望と今、相まみえた。


 その絶望に直面してなお、もがき苦しみ進むことの出来る人間は、強い。


 雪奈の目は、死んでいない。


 だからまだ進める。



 人生で最も絶望を味わい、ドン底に落ちてきたこの俺が、この言葉を贈ろう。


 あいつが俺にくれた言葉を、世界最強の俺がお前に渡そう。


「雪奈。聞いてくれ」


「………」


 雪奈は静かに俯いたまま、微動だにしない。

 だが、それでいい。


 これは俺の辛いとき、一番支えてくれた言葉だ。

 だから、きっと雪奈、お前を助けてくれる。


「……これは俺が強くなる為のきっかけをくれた言葉なんだが…。『絶望を飲み干せ。ドン底で踊れ。…それが出来る人間は、たぶんこの世で一番強くなれる』」



 這い上がってこい。雪奈。

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