第十八話「夏だ! クラス対抗戦!〜1〜」
ついに来た。ついに来てしまった。
俺達Fクラスの花形舞台!!
―――夏のクラス対抗戦会場、大イデア実演アリーナに。
「ふぉぉおお!! デケェ!! ウチの学園凄すぎるだろぉおお?!」
クラスメイトの越劾 番条がそのリーゼントをブンブン振り回しながら言う。その姿は最早、都会に来たお上りさん。ちょっと笑える。
「まあ、落ち着けよ。霧式さんに笑われてんぞ~」
「なっ、兄貴笑わねぇでくれよ!?」
「お前、生暖かい目で見られてるな~」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
全く、微笑ましいな。
「よし!! 皆! ここでアピールもかねてウォーミングアップするぞ~!」
「「「「「「「はい!!」」」」」」」
Fクラス。それはSクラスがいかに優れた存在かを証明するためにあるだけの落ちこぼれクラス。
学園はSクラスをプロのチームや選手として売り込むために、まず始めにその圧倒的な強さを誇示しようとする。
つまり、Fクラスと戦わせるのだ。
FクラスはSクラスの引き立て役、もっと悪く言えば踏み台だ。
ただし! このFクラスに俺がいる限りはそんなことは許さない! マジで天辺取ったらぁ!!!
とまあ、俺が意気込んでいると、当たり前のようにそいつらはやって来た。
「おいFクラスどもぉー!! 俺らに挑むんだから準備運動なんか要らないくらいにウォーミングアップして来てんだろ?? だったらはよ代われやォラ!!」
「あいつら……!!」
クラスメイトの誰かが呟く。ギリ、と歯軋りも聞こえてくる。
Sクラスの踏み台にされることが悔しいのもあるだろうが、やはりあの傍若無人な振る舞いは俺としても頂けない。
「すまないねSクラスの諸君。…まだウォーミングアップし足りなくてね。もう少しだけ使わしておくれよ。君達だって俺らFクラスなんぞに負けないようにしっかり準備運動して来たんだろう?」
なるべく丁寧に断る。……やっぱり、丁寧とは少し違うかも…。
まあ、とにかく、既に観客も入り始めているこの会場で荒立てた事を起こすのは得策でない。
Sクラスの面々もそれは分かっているようで、挑発してきた滓我大騎も舌打ちして帰っていった。
どうやらFクラスにウォーミングアップをさせてくれるようだ。あら、やさし!
「よし皆! 気を取り直して各人自主練開始!! 訓練の成果を見せてくれ!!」
「「「「「「「おう!!」」」」」」」
そうしてウォーミングアップ後、クラスメイトと観客席に儲けられた応援席に向かって行くと何やら会場がざわざわし始めた。
「なんだ?」
「ん? 兄ちゃん、知らねぇのかい? 今回のクラス対抗戦は学園の理事長様が見学にくるそうでな? それでェ――――のわあああっ!?! 理事長だァア!!!?」
応援席に着いた俺が呟くと、隣に来ていたプロの『イデアバトラー』とおぼしき筋骨隆々のおっちゃんが解説してくれた。
「…へぇ、そうなんだぁー」と、適当に相槌をうとうとしたのだが、解説してくれた筋肉のおっちゃんが急に絶叫し出した事により、そうすることができなかった。
ホントに何んだよ?! と、おっちゃんの見ている方向を見て、固まった。
「う、嘘……だろ?! だって、あれは……」
俺を襲うあり得ない既視感。
足元あたりまで長く垂れ下がったツインテールと鮮やかな紫色の頭髪。
アメジストの如く妖艶な輝きを放つ大きな瞳と長い睫毛。
百四十後半位の身長。
全てが…、その全てが一致していた。
―――俺が異世界で十年間かかけてやっと倒した規格外の存在、【魔王】に。
「なあああああああああああああああああ?!?!」
この恐ろしいまでの因果な再開に、俺は思わず叫び出していた。
† † †
妾の心臓を貫く、美しいまでに研ぎ澄まされた【魔剣】。
周囲には妾の能力で、限界まで“先鋭化”させた【聖剣・ゲルヴァミュンド】が半ばから砕けて散らばっている。
未だに消えぬ勇者の魔剣の【滅焔】が間の至る所でちろちろと燃えており、見る者が見れば、辺りに散らばっている細かな金属塊や赤熱してぐずぐずと煮えたぎっている蒼銅鉱が、『魔王直属魔術護符工房』謹製の【能力返し】と【魔力無限貯蔵】の聖護符だと理解できるじゃろう。
崩壊しかけのこの間は、屋根が半分無くなり、壁も吹き飛んでいる。そこからは元々山々や広大な湖だったものが形を変えて、代わりにもうもうと土埃の立ち込める無数のクレーターと黒い炎の蔓延る焦土と化した大地が見える。
全て、妾と勇者との戦いの副産物だ。
そして魔王城、玉座の間。
そこへ逃げ込んだ妾は、最後の瞬間を迎えようとしていた。
妾と激戦を繰り広げたかの勇者、霧式 碧は、既に体力も魔力も尽きたようで、今にも崩れそうになって肩で息をしている。
ただし、妾の心臓を物理的に射止める…もとい串刺しにしおった忌々しくも美しい魔剣だけは離さない。きっと妾が死ぬのを見ぬ限り安心出来ないのじゃろう。
「安心…、するといいのじゃ。妾はもう長くない。すぐに死ぬ」
「なら、さっさと逝っちまえよ…」
少し悲しそうに顔を顰める勇者がそう呟く。ははは…。…言いおるな。
「かかかか…!! …そう焦る…ぐふっ……」
からからと笑い、勇者に「焦るな」と言おうとして体内から込み上げてくる血の塊を口の端しから溢してしまう。
次第に遠退いてゆく意識。もう強力な魔族としての生命力も尽きるようだ。
やがて、どしゃり、と体が前のめりに崩れ落ちる。
明滅しながら次第に暗くなってゆく視界。
妾はうわごとのように言葉を紡いでゆく。
「…なあ、勇者…いや、霧式よ…。………妾達、立場さえ違ったら…仲良く…なれた…かな……??」
勇者――霧式は泣きそうな位に顔を歪めると、言ってくれた。「俺がそんな風な理想な世界を作ってやる」…と。
「はは…。…馬鹿者。…お前、は…。優しすぎる……」
押し殺すような嗚咽が響く中、妾の視界は完全に暗転した。
最後に感じたのは、誰かが手を握る感触と、ぽつりと頬に落ちた熱い雫だった。
…で。
気がついたら、生前の格好のまま、よく分からない場所にいた。
これが妾、フィリス・ラヴェル・ディスフィアマータが地球へ降り立った瞬間じゃった。




