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第十一話「Sクラス」








「おいてめぇら!! Sクラスが来たんだ!! さっさとイデア実技演習場あけろや!! てめぇらみてぇなザコが使うには勿体ねえ場所だよここは!! ひあははははははははは!!」



 ……何か来たんだけど。


 え? こいつらなんなの?


 Sクラス?


 え? 何でこんなとこにいんの?


 うんよし。少し落ち着こう。


 ……まずここ、イデア実技演習場はちょっと前に述べた通り、学園独自のイデアランク別で使用する場所が異なり、各自集中して自己の鍛練を行えるようになっている。


 つまり、Sクラスがここに来る理由も無ければ、Sクラスのためにこの場所を明け渡す必要もないって事だ。


 …まあ、つまりクラスの奴ら、俺らをわざわざからかいに来たわけだ。ご苦労なこった。



「てめぇらみてぇなカスはさぁ? この学園には邪魔なんだよなぁ? だからさ? 今年の夏のクラス対抗戦でさあ、さっさと負けてイデア競技の選手になれるなんて夢、さっさと捨てちまえよ!? ぎゃははははははははは」


 一々笑い方が耳障りなやつだな。


 それはそうとして、Fクラスの皆も悔しそうにしている。しかもこいつらは函音ちゃんを怖がらせたという罪状がある。



 よし。ここは俺が出るかな。



「なあ? そこの……名前わかんないや。……とにかく目つき悪いお前、お前だよ!! お前がSクラスだかなんだか知らないけどさ? ちょっと調子に乗りすぎじゃね?」


「あ゛? んだカスが? 舐めてんのか?」


 『目つき悪いお前』がどうやら自分のことだと自覚したのか、額に青筋を浮かべてSクラスの…うん、モブキャラ(今命名)が言う。


「何のために何しに来たのか知らねぇけどさ。一つ宣言しとく。お前らにクラス対抗戦で勝つとか余裕だよ。賭けも良いぜ? 何なら俺達、お前らSクラスの代表選手全員に勝つよ?」


「んだとォ?!」


 こっちの分かりやすい挑発に、Sクラスはいい具合に反応してくれた。


 それにFクラスの皆が「何やってんだ!?」という厳しい視線を向けてくる。


 そりゃあSクラスに喧嘩売ってるんだからな。


 この学園は序列制による、『強者こそ絶対!!』という理念を掲げている。


 つまり、学園のトップであるSクラスは勿論学園全体に強い影響力を持つ。それに逆らうと言うことは、学園での自らの居場所を放棄する事に等しい。つまり自殺行為だ。


 Sクラスの名も知らぬモブキャラ(笑)も、


「ハァ? お前頭わいてんじゃねぇの? 大丈夫かよ?」


 と言ってくる。まあ、普通は頭イカれてると思うよなー。俺は存在自体がイカれてるから論外だが。


「ていうかお前らさ? 自分達が最底辺に弱いからFクラスにいるんだぜ? そこんところ自覚あんの?」


 ……一々ムカつくヤツだが、モブ野郎は更に続ける。


「知ってるぜ? そこのチビ、投げナイフのイデア持ってるくせにナイフ何ぞ触った事もねぇらしいな! 挙げ句の果てに、面接でドジして一気にクラス落とされたんだもんな?! 傑作だぜ!! 超笑えるよ!!」


 函音ちゃんを指差してゲラゲラ笑いながら言うモブキャラ。

 俯いて静かに震える函音ちゃん。

 それを見た瞬間、俺の怒りは頂点に達した。



 許せない。人間さ、やろうと思えば何でもできるもんなんだよ。

 これは俺が異世界のドン底で学んだ真理だ。

 グズでノロマで弱かった、最弱だった俺でも最後には強くなれた。だから人の可能性を否定するやつを俺は許さねぇ。それが他でもない俺を、あの異世界での日々を否定する事になるからだ。


「さっきからペラペラペラペラ、言いたいことはそれだけか?」


「は? 事実を言ってるだけだぜ? 俺は」


 俺言ったのにも、モブキャラはゲラゲラと笑いながらそう言う。


 決めたよ。コイツは徹底的に潰す。プライドもクソもないくらいボッコボコにしてから。退学にまで追い込んでやる。



「分かった。それを俺はSクラス総意と受け取る。絶対にお前ら潰すからな? 後悔すんなよ?」


「はっ! やってみろよ? まあ、今日は興が削げたし帰るわ。お前らがゴミみたいに絶望する様を見るのは堪んなく面白ぇしな。んじゃしっかり練習頑張れよ?」


 そう言って、Sクラスの連中は去っていった。

 集団の端っこにいた雪奈は、不愉快そうな顔をしながら、腰まである長くて艶やかな黒髪を靡かせ去って行く。


「Sクラス……雪奈以外は絶対に潰す」


 そんな事を呟いた時には、俺たちFクラスの人間以外このイデア実技演習場にはいなかった。


 お通夜ムードで皆黙りこくるクラスメイトたち。

 そんな中、一人クラスメイトが叫ぶ。


「……お前、Sクラスに喧嘩売るとかどういうつもりだよ…!!」


 最初の一人に他のクラスメイトも続く。


「……そうだよ。Sクラス代表選手全員に勝つ? そんなの私たち劣等生に出来るわけないじゃない…!」


「お前、何がしたかったんだよ!!」


「そうだそうだ!!」


 まあ、勝手に絶望的な約束取り付けられたりしたら、そりゃこうなるわな。

 何度も言うが学園トップの影響力は絶大だ。

 幾らでも俺らの悪行をでっち上げてFクラス全員退学なんてのもありえる。


 収拾のつかないブーイングの嵐。

 その波に抗ったのは意外な人物だった。


「みっ! 皆さん!! そんなに怒らないでぇ!!」


 そう。函音ちゃんだ。

 俺の味方をしてくれるのはいいが、函音ちゃんがクラスの輪に入れないことの方がお兄さん悲しいよ。



「ああ?! 何言ってんだよ?! お前あいつの味方すんのか?!」


「そうよ!!」


 そして案の定飛び交うブーイング。


「そ、それは……」


 口ごもる函音ちゃん。俺はそんな彼女の肩に手を置くと、口を開く。


「世の中、自分と違うやつを貶したくなるもんさ。自分と違うものが怖いからだ。でも味方してくれてありがとう。嬉しかったよ」


 よし。いっちょ演説するか。


「ふぅ。……はい、注目!!」


 思いっきり叫ぶ俺。


「あ? なんだよ?」


 俺はそのまま続ける。


「お前らは劣等生のままで良いのか? 一生バカにされる人生で良いのか?」


「……いいわけけないじゃない…」


「……そりゃあ、もっと強くなりてぇし…頭も良くなりてぇよ……」


「でもこれが俺たちの限界なんだよ!!」


 クラスメイト心の声が次々と吐露されて行く。

 そんなクラスメイトたちに俺は言う。


「へぇ、そう? それで良いんだ。君たちは。自分の限界を勝手に決めちゃっていいわけ? 俺はやだね。俺は自分で自分の限界を決めるやつが大ッ嫌いだ! 昔の自分を見てるみたいでヘドが出てくる!」


「んなこと言ったってあんただってFクラスでしょうが!!」


 ……痛いとこ突かれるが、俺は自信をもって、即興で作ったウソを叫ぶ。


「……んじゃあ、自分の限界を越えたら何が起きるのか見せてやるよ。俺は、このイデア(笑)を持っていることを危ぶまれ、このFクラスに飛ばされたんだ(大嘘)!!」


 右腕の袖をまくり、俺は謳う。


「……【召喚(ゼモル)】」


 俺は呟く。そしてそのまま魔言を紡いで行く。


「……【灼熱の王(レ・フォルティ)】」


 まくりあげた右腕に契約紋が浮かんで行く。そして俺はその名を呼ぶ。


「…………【終焉の獸(フェンリル)】」


 ギャラギャラと耳障りで心地よい音をたてながら虚空より高速で右腕に絡み付く(グレイヴニル)

 そして焔の中から一振りの【魔剣】は現れる。


 俺は火の粉を振り払うように剣を振り、スキル【覇道】を発動させる。

 周囲に展開される、帝王の覇気と超人間的な波動。


 伝説に語られる剣のイデア、そしてそれを持つFクラス(最底辺)の生徒。その生徒の放つ圧倒的なカリスマに………というシナリオだ。


「お前らはそこで止まっていていいのか?」


 俺は問う。次第に熱狂に包まれて行くイデア実技演習場。


「否! いいわけがない!! お前ら…いや諸君!! ここにいる桐舘函音を見てみろ!! 常に向上心をもっていた彼女は俺に教えを乞うた!! そしてナイフの心得など微塵もなかった彼女は今や達人級の技を得たのだ!! 一日でだ!」


 段々気分がノってきて変になって行く演説。気を利かせてくれたのか、函音ちゃんがイデアで見事なナイフ裁きと正確無比なナイフ投げを披露してくれる。


 函音ちゃんも高揚気分にある為か、なんと合計12本の投げナイフを空中でキープしつつ投げていくという、まさに達人の技を披露してくれた。


 因みに、クラスメイトたちは、スキルの高揚効果で盛り上がってきているため、俺がアホみたいな事を言っているのに何ら違和感を感じていないだろう。


「諸君もそうなりたいか!?」


「「「はい!!」」」


「声が小さいぞ!!」


「「「「「「はい!!!!」」」」」」


「そうか宜しい!! では今日の放課後、ここに集合したまえ!! そこで諸君の限界を覆して見せよう!! 話は以上だ!!」



 そうして俺は演説を決める。しかし誰一人この場を離れない。


 つまり全員がすぐにでも色々と教えてほしい訳だ。


 良かろう。今から俺が本物の育成チートというものを見せてあげよう。


「予定を変更する!! 今から諸君の限界をひっくり返す!!」



 俺のその一言を皮切りにイデア実技演習場に歓声が響き渡った。



 …………少しやり過ぎたかもしれない。これじゃまるで洗脳だぜ…。




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