第十話 試験②
試験当日。
焔花は、炎衛軍の試験会場に来ていた。
この場所は、試験の為だけに作られた場所。
(試験の為だけに、こんな大きな場所作るなんて……)
周りを見ると、大勢の人が試験会場の中へ入っていく。
みんな真剣な表情をしている
(まぁこういう顔になるわな)
一日の流れはこうだ、まず筆記試験を行う
四教科の国語、理科、社会、数学の試験を行い、所要時間は四時間。
その次に面接試験を行う、筆記試験を終わった後に面接する順番の番号を受け取り、自分が所属する隊の面接会場へと移動する。
ちなみに私は、赤炎部隊だ。
個人面談なのでかなりの時間がかかる、番号が早ければ早いほどすぐ帰れるが、今年はなんと三千人程の試験者がいるらしい、その中で赤炎部隊を希望してるものは、約千人程…
(真ん中ぐらいか…一体何時間かかるのか…)
まぁとは言っても、試験官は大勢いる為何部屋かに別れ筆記試験、面接試験は一日で終わってしまうのだ。
「次の方どうぞ」
(ふぅ思ったより順番早かったな)
面接時間は、一人約十分だ。
「では、最後に炎衛軍に入隊する理由は?」
(理由…)
焔花は少し躊躇う。
「……この国の人を逆炎者達から守りたいからです」
安易な答え、理由なんてこれしか考えられなかった。
守りたいだなんて、一ミリも思ってない。
犯人に近づく情報が手に入ればこんな場所なんて辞めてやる。
「失礼します」
ようやく終わった。
外に出ると、もう夕方だ。
(二度とやりたくない)
そう焔花は、思い、時雨堂へと向かった
文蔵は、時雨堂の前に立っていた。
「……ずっと待ってたんですか」
焔花が少しだけ眉を寄せて言う。
「いや、さっき外に出たばかりだよ」
何でもないように答える。
「そうですか」
短く返す。
一瞬、沈黙が落ちる。
「それより——どうだった?」
文蔵が視線を向けた。
「筆記は……まぁ、なんとか八割は取れそうです」
「面接も、受け答えはできていたと思います」
「そうか」
ほっとしたように頷く。
「なら良かった」
少し柔らかく笑う。
「さぁ、上がりなさい。腹も減ってるだろう」
「晩飯を用意してある」
「……ありがとうございます」
小さく頭を下げた。
──────
テーブルに並んだ料理。
二人で向かい合って座る。
(……当たり前になってたけど)
箸を持つ手が、ほんの少しだけ止まる。
(この食事も、もう最後かもしれない)
明日で試験は終わる。
ここに泊まる理由も、なくなる。
焔花は、文蔵の作った料理をじっと見つめた。
「どうした?」
不思議そうに声がかかる。
「……いえ、なんでもありません」
ふっと視線を逸らし、
そのまま黙々と食べ始めた。
──────
やがて、就寝の時間。
「明日で最後だな」
文蔵が静かに言う。
「炎力試験だ。そこは心配いらないだろうが——」
一拍置く。
「力の加減は考えるんだぞ」
「合格するギリギリの炎でいい」
「分かっています」
焔花は頷く。
「こんなところでバレたら、ここまでの勉強が無駄ですから」
「そうかい?」
文蔵は、ふっと目を細めた。
「でも僕は、正直——」
少しだけ間を置く。
「焔花が受かろうと、受かるまいと、どっちでも構わないけどね」
「……えっ?」
焔花が顔を上げる。
「こうして、一つ屋根の下で飯を食べた」
「それだけで、十分だ」
穏やかに言い切る。
「……何言ってるんですか」
焔花は少しだけ眉をひそめる。
けれど、その声はどこか柔らかい。
「ここまで来たんですよ?」
「なにがなんでも合格します」
ぎゅっと拳を握る。
「この二週間を、水の泡にはしたくないですから」
「……焔花」
文蔵が、静かに名前を呼ぶ。
「じゃあ、明日も早いので」
視線を逸らす。
「もう寝ます」
そう言って、焔花は足早に部屋を出ていった。
「おやすみなさい」
背を向けたまま、ぽつりと告げる。
「……あぁ、おやすみ」
文蔵は、小さく笑った。
試験二日目の朝。
焔花は、一日目と同じ試験会場へと足を運んでいた。
だが、実力試験の会場は昨日とは違う。
さらに奥へ進んだ先にある。
奥へ進むと、三つの会場に分かれていた。
それぞれ、
赤炎部隊、橙炎部隊、緑炎部隊。
受験者は、自分の志望する部隊の会場へと向かう仕組みだ。
(赤炎部隊は……左か)
焔花は迷わず、左の会場へと足を踏み入れた。
──────
赤炎、橙炎、緑炎。
この国に存在する炎は、大きく分けてこの三種類。
それぞれの色には、明確な“性質”がある。
つまり——色によって、能力そのものが異なるのだ。
もちろん、炎を扱うという根本は同じ。
だが、その使い方は大きく違う。
まず、赤炎。
炎を体にまとわせ、殴る、蹴るといった
直線的な攻撃を得意とする。
いわば——炎を纏った格闘家。
身体能力がそのまま強さに直結する能力だ。
そして、この三つの中で
最も“威力が高い”のも赤炎である。
──────
次に、橙炎。
これは炎を“物体化”する能力。
ナイフや剣、あるいは盾など、
自分のイメージしたものを具現化できる。
以前の人質事件で使われていたナイフも、この橙炎によるものだ。
攻守ともにバランスがよく、
応用力に優れている。
──────
最後に、緑炎。
一見、赤炎のように体にまとわせるが——
その本質はまったく違う。
緑炎は、“動物に変身する”能力。
変身した動物の特性も扱える。
例えばカメレオンであれば、
周囲と同化することも可能になる。
ただし、制限も多い。
自身の体格や体力に見合った動物にしか変身できない。
インコや犬、ハムスターなどが一般的だ。
──────
この国では、三つの中で最も多いのは赤炎。
次いで、橙炎と緑炎がほぼ同数で存在している。
だが——
一般的な能力には、それぞれ限界がある。
赤炎は、火の玉程度の規模。
橙炎は、物体化の持続時間が短い。
せいぜい、カップラーメンが出来上がる程度の時間だ。
緑炎も同様に、変身時間は長くない。
どの能力も、決して万能ではない。
──────
(……まぁ、細かい話は後で)
焔花は小さく息を吐く。
(今は——試験に集中しないと)
視線を前へ向ける。
炎力試験が、始まろうとしていた。
赤炎部隊の試験は、至って単純だ。
会場中央に設置された人型の人形に、
殴り、もしくは蹴りで攻撃する。
ただし——一度きり。
最大限の力を込めた一撃のみが許される。
(……殴りでいく)
焔花はそう決めていた。
気になるのは、あの人形が壊れないのかという点だが——
もちろん、壊れる。
だが、あの人形はただの的ではない。
受けた攻撃の威力をデータ化し、
数値として算出する機能を持っている。
百点満点中、何点か。
その得点は、即座にモニターへ映し出される。
(……周りに見せて、焦らせるつもりなんだろう)
合格ラインは——八十点以上。
──────
ちなみに。
赤炎部隊の軍隊長が試した際には——
威力が強すぎて、人形どころか会場ごと破壊したらしい。
結果は百点どころではなく、
判定不能。
データ化すらできなかったという。
(一体、どんな化け物なの……)
──────
バリーンッ!!
突如、ガラスが割れる音が会場中に響いた。
「なにっ?」
受験者たちがざわつく。
中央を見ると——
人形が大きく吹き飛び、外へと転がっていた。
その前に立っていたのは、一人の男。
焔花と同じくらいの年齢だろうか。
モニターには、
九十四。
そう映し出されていた。
(九十四……?)
九十を超えることすら難しいこの試験で。
男は、まるで何事もなかったかのように、
表情一つ変えていなかった。
(
──────
「次の方」
ついに、焔花の番が来る。
(合格できるギリギリのライン……)
文蔵の言葉が、頭をよぎる。
(八十以上……それでいい)
(でも——)
拳を握る。
(八十の力って、どれくらい……?)
炎を人に使ったことなんてない。
人形相手とはいえ、
どこまで出せばいいのか分からない。
じわりと、焦りが広がる。
「試験開始」
合図が響いた。
(……やるしかない)
焔花は力を抑えようと意識しながら、
拳を振り抜く。
だが——
(やばい)
考えすぎた。
狙いが僅かにズレる。
人形の中心から、少し左へ。
ガンッ!!
鈍い音が響く。
(……外した)
拳を引いた瞬間、確信する。
(全然、当たってない……)
(落ちた)
焔花は思わず、視線を落とした。
恐る恐る、モニターを見る。
そこには——
八十六。
その数字が、はっきりと映し出されていた。
「……えっ」
思わず、声が漏れる。
(八十六……?)
(あんな力で……?)
焔花は、自分の拳を見つめた。
「ありがとうございました」
試験官の声に、はっと我に返る。
誘導されるまま、その場を離れる。
——そのとき、ようやく理解した。
自分が、どれほどの力を手にしていたのか。
(本気を出したら……)
ふと、さっきの話がよぎる。
会場ごと破壊したという、あの軍隊長。
(……私も)
静かに目を細める。
(同じことが、できるのかもしれない)
焔花は初めて、自分の力の“重さ”を実感した。




