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リザードマンは妻と娘の待つ世界に帰りたい  作者: 須藤 蓮司


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16話

 つーか、犬人族コボルトには名前付ける文化あるのな。

 リザードマンには無かったのに。


 それで?

 そもそも何でパグミは一人でいたんだ?

 馬鹿共ノーキンどもの話じゃあ、森の中でウロウロしてたって聞いたけど。


『…だから!アギト様っ!何度も言っております通り、私の名前はシャルロッテですわ!…犬人族コボルトは縄張りを広げる為に、所々にマーキングを施すのですわ。これは本来、大人の役目なのですが…。』


 …ああ、なんとなく分かったわ。

 もう立派なレディですもの、ワタクシにだってできますわ!

 …みたいなヤツだろ?


『…もうっ!アギト様は意地悪ですわっ!』


 まぁまぁ、そうむくれるなって。


 …むくれてるんだよな?


 …そういう顔なの?


『…ギャース!!グギャ、グギャギャッ!!(…フン、随分と仲良くなったものだな。)』

 

 自分だけ会話に混ざれないからってヘソ曲げんなよ。

 ちゃんと通訳はしてやるからよ。


 …とか言いつつ、さりげなく扱いが酷くなってる件。

 …仕方が無ぇんだキザ、この中じゃお前の方がマイノリティなんだから。


『…可哀想だからいじめちゃ駄目だよ?』


『…いじめですの?…私にはそちらの方がヤキモチでも焼いているように見えるのですが。』


 …オイッ!

 マジでやめろよ、そういうBL的な発想!!

 リザードマンのBLなんか誰も喜ばんと前々から言ってるだろ!!

 …お前、腐女子なの?



『それにしても、君が和平交渉なんて口にするとはね。…てっきりザリガニの時みたいになると思ったんだけれど。』


 …だってアイツ等生意気だったし、縄張りが完全にかぶってたし。

 …あと旨いし?


 (…最大の理由は犬飼ってたの思い出したからなんだけど。)


『ザリガニ…それは今朝食べたプリプリの肉ですの?』


『うん?そうだよ。普通の肉とはまた違った美味しさがあるよね?』


 そういえばお前、ザリガニ肉をえらく気に入ってたよな。

 …残念ながら狩り尽くしちゃったから、食料庫にある分で在庫切れなんだけどな。


『!!…そう、ですの…。それは残念ですわ…。』


 …うわ、ガチで落ち込んでるよコイツ。

 ま、まぁ在庫はまだ山ほどあるし、食料庫は定期的に青年が魔法で冷やしてるし。

 もし機会があれば、また食わせてやるよ。


『魔法…。やはりヒカゲ様は魔法をお使いになるんですのね。流石は群れを率いる王ですわ…。』


『王は大げさだけれど、まぁ変異個体だからね。でもリザードマンで魔法を使えるのは、何も僕だけじゃないよ?ここにいるリザードマンはみんな魔法を使えるし。』


 そーいえばそーな。

 同期もノーキン以外は魔力操作までできるようになったし。

 

 …おい、どうした?

 急に面白い顔して。

 その顔であんまコッチ見んなよ、笑っちゃうから。


『…失礼ですが、アギト様も魔法を使えますの?…通常個体なのに?』


 おう、爆裂魔法な。

 まぁ青年に言わせると制御がまだまだ甘いらしいけど。


 …つーか今、ポロッと重要そうな事言ったか?

 なに?通常個体は魔法使えないもんなの?


『…少なくとも、コボルトではそうですわ。そもそも種族が違うので何とも言えないのですが…。』


 ふ~ん…種族的な違いなのかねぇ?

 あ、でもキザだって完全に魔法を使いこなせるようになってから変異したって話だったしな。

 


『それにしても…リザードマンって、なんだか私が聞いていた印象と違いますわ。好戦的で乱暴な種族だと聞いておりましたのに、料理は美味しいし、魔法を使えるほどに聡明で、下手なコボルトより紳士的ですし…あ、アギト様は口が悪いですけれど。』


 お前は顔が悪いけどな。


『…口は確かに悪いよね…。』


『…種族が違うから美醜の基準も違いますし、仕方がないですけれど…傷つきますわ…。』


 冗談だよ冗談。

 それを言ったらリザードマンなんか、俺から見てもキモいし。

 見慣れた今でも気を抜いたら吐きそうだもん。


 …おいキザ、落ち込んでるパグミ見てニヤニヤするんじゃねぇ。

 …お前そんな性格だったっけ?

 

『それで…アギト様は爆裂?…魔法、ヒカゲ様は先ほどの話からすると、氷系統の魔法をお使いになるのですね?』


 ん?いや、別に氷以外も使えるよな?

 今何種類位使えるんだっけ?


『え~と…炎に風、水、土と…あわせ技で氷と泥。あ、この前のザリガニ戦で空間魔法も使えるようになったよ。』


『…は?』


 ああ、空間魔法!

 あのおめでたいカンジの変異個体が使ってた魔法、空間魔法だったのか!

 真下からパンチが飛んできたりしたのは、そういうカラクリだったのな。


 それにしても、流石はウィザードだな。

 正に魔法の申し子、パネェわ。


『え?いや、何をおっしゃってますの?』


『?何かおかしいのかい?』


『だって、その…普通は魔法って、その者の適正に合った属性、一種類が基本ですわ!』


 …いや、俺達はあくまで世間話のつもりだから、別段情報を隠す気も無いんだけどさぁ。

 …またしても重要そうな情報を、いとも簡単に他種族に漏らしちゃっていいのか?


 パグミ先輩マジチョロいっす。


『わ…私だって、別段隠す気なんてありませんわ!それにこれは、常識の範囲内のお話です!』


 あっそ?

 じゃあ普通に俺も答えるけどさ。


 一人につき一種類の属性ってのは、たぶん体内にある魔石の属性しか使えないって話だろ?

 そもそもリザードマンは、体内に魔石が無い…いや、出来ない種族っぽいんだよな。


『魔石が出来ない…?魔石って、選ばれた個体が生まれついて持っている物ではないのですか?』


 あ、そこは常識の範囲外なのな?

 まぁコレはさっきパグミが話してた事と、この前検証した結果で、たった今思いついた事なんだけど。



 魔石は変異個体にしか無い。


 通常個体は魔法を使えない。


 この二つから考えるに、たぶん魔石って変異と同時に体内に生まれるもんなんじゃね?

 体内の魔力をコントロールできるようになって、魔法が使えるようになった時に魔石が生まれて変異する。

 あくまで想像だけど、そんな仕組みなんだろ。


 で、リザードマンにはそもそも魔力が無いから、変異の法則が若干変わってくる。

 多種族の魔石を手に入れて、魔力のコントロールができるようになると魔法が使えるようになって、変異に至る。


 多種族とだいぶ順番が違う。

 どうりで変異の法則がわかりずらいワケだ。


『…魔石を手に入れれば、魔法って使える物だったんですの…?かなり衝撃的な話なのですが…。それに、アギト様は魔法が使えるのに変異して無いですわ?』


 それな。

 それは俺が一番納得いかねぇ所なんだけどな。


 …おそらく魔力のコントロールが下手なのと、魔石がまだ馴染んでないんだろうって結論になったわ。

 自分の魔石じゃ無いから、馴染むのに多少時間が必要なんだろう。


 …そうであってほしい。


『そんなワケで、僕が何種類も魔法が使えるのはこの杖のおかげなんだ。』


『あ…え?その杖についてる宝石って、全部魔石だったんですの?』


『宝石みたいに見えるのは、魔力の伝達が良いように加工してるからだね。』


 最初の杖から比べるとメッチャ派手になったよな、その杖。

 新しい色の魔石が手に入るたびに、とりあえず加工してくっつけてるもんな。


 …本当ヒドイ見た目。

 成金趣味っぽいし、下手な鈍器より攻撃力ありそうだわ。


『え~?そうかい?僕は結構可愛いと思うんだけど…。』


 …青年って、やっぱ若干ズレてるよな…。


『…そうしますと、そちらの…キザ様の弓も?』


 ああ、その大弓な。

 キザの野郎が変異した記念にって、青年がプレゼントしたんだ。

 パグミの考える通り、持ち手部分の上下についてるのは風の魔石なんだと。

 


 …ん?

 何だよキザ、何か言いたげな顔で。


『…キャース!(…アギトも、気付いたか。)』


 は?何が?


『…あ~、本当だ。囲まれてるね、コレ。』


 囲まれてるって…。



『シャルロッテ!もう大丈夫だ!声の方に向かって走ってこい!!』


 おっ?なんだこの声。

 林の奥から誰か叫んでる。

 犬人語コボルトごで。


『その声は…お兄様ですの?』


『そうだ!早く走って!リザードマン達に気付かれる前にっ!』


 …いやぁ、もう気付いてるけれど。

 すまんけど犬人語コボルトご筒抜けだから。


『なっ…!?何故リザードマンが犬人語コボルトごをっ!?』


『お兄様!こちらの方々は敵ではありませんわ!…道に迷った私を、群れまで送ってくださったのですわ!』


 そうだぞー。

 わざわざ少人数で来たのも、敵対する意思が無いからだぞー。


 …まぁ、今の所は。


『だっ…黙れトカゲ野郎っ!!シャルロッテ、お前は騙されているんだ!リザードマンという種族は残忍で卑劣な奴等なんだっ!』


『やれやれ…やっぱりこうなったか。』


『…!!お前…変異個体っ!』


『僕は新しく沼リザードマンの群れを率いることになったヒカゲという。君達、犬人族コボルトの怒りをかっていた前のボスは追放した。…君達のリーダーと、今後の事について話し合いをしたい。』


 おーおー。


 ザワついてる、ザワついてる。


『ゲギョッツ…ギャース!!(腰抜け共め…もう矢を射掛けてもいいのか?)』


 おいやめろキザ。

 殺気がダダ漏れだっつーの。


『…信用できんな。』


 あ、駄目だコレ。

 辺りから殺気がビンビン伝わってくる。

 探知苦手な俺でも分かるわ。



 …ん?


『よく無事で帰ってきたねぇ、シャルロッテ。』


『!!オババ様!』


 !!


 いつの間に!?


 …パグミの隣に、ずいぶんと小柄な犬人族コボルトが立ってる。


『…アタシがこの群れを率いている、フルールだよ。多く年を重ねているだけが取り柄の、ただのババアさ。』


 チワワだコレ。

 …微かに震えているのは、年だからか犬種的なモンなのか。


 …ただ、変異個体なのは確かだな。

 特有の強いプレッシャーを感じるし。


『…さっきの話が本当なら、詳しく話を聞こうじゃないか。シャルロッテの恩人だからね。』


『ババ様っ!?コイツ等はリザードマンなのですよっ!?』


『…テディ、手を出すんじゃあないよ。三人とも相当の実力者だ。そこの通常個体でも、お前よりも強いだろうよ。』


 …ンだよ、俺を引き合いに出すなや。

 

『…さて、それじゃあこちらの珍しいお客さん方を、巣に案内するかねぇ。…なに、それ程の距離じゃあ無い。ついておいで。』


 …えっ!?


 ババア足速っ!!

 …やばい走れキザ!

 置いていかれるぞ!


 ちょっ…!!


 待てっての!

 老化は走るなっ!!

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