表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生&転移した俺のスキルは「忘却」でした~勇者パーティを追放されたけど、実は最強の対魔法兵器だった件~  作者: アラベ幻灯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/18

異世界の知恵:石ころは、中にダイヤモンドが入っていなくても愛されるものだ。

これがこの物語の最新エピソードです。楽しんでいただけたら嬉しいです。

メロニラの屋敷を出たあと。


 ケンは、ただ歩いていた。


 どこへ向かっているのか、自分でも分からない。


 足は前に出る。


 だが意識は、どこか遠くへ沈んでいた。


 視界はぼやけ、音も遠い。


 風の感触すら、現実味を持たない。


 ただ――


「無力」


 その言葉だけが、はっきりと頭の中で響いていた。


 ◇


「ケン様!!」


 背後から声が飛ぶ。


 足音が近づく。


 やがて、肩を掴まれた。


 ケンの身体がわずかに揺れる。


「……っ」


 振り向くと、そこには四人の少女たちがいた。


 カッテリーナ。


 ペレレイア。


 パソコナ。


 コメンテア。


 全員、息を切らしている。


「どうしたんですか!? さっきから様子がおかしいです!」


「何があったのですか、ケン様……」


「怪我とか……されてませんか……?」


 矢継ぎ早の言葉。


 だがケンは、すぐには答えられなかった。


 少しの沈黙。


 やがて――


「……俺のスキルが」


 掠れた声。


「無効化された」


 四人の表情が、同時に固まる。


「え……?」


「どういう……ことですか……?」


 ケンは視線を落としたまま、続ける。


「特殊な金属で作られたヘルメットがあるらしい」


「それを装備してる相手には……俺の力は効かない」


 一拍。


「もう……俺は、何もできない」


 静かな声。


 だが、その奥には深い絶望が滲んでいた。


「俺の価値は……あのスキルにあった」


「それがなきゃ、ただの……」


 言葉が詰まる。


 飲み込む。


 それでも、絞り出すように。


「……ただの、無能だ」


 風が吹く。


 誰も、すぐには言葉を返せなかった。


 ケンは続ける。


「だから……多分」


「もう……みんな、俺のこと……」


 ほんの一瞬、視線を上げる。


 だが、すぐに逸らした。


「……嫌いになると思う」


 その中には、確かな恐怖があった。


 拒絶されることへの恐れ。


 価値を失うことへの恐れ。


「……君たちも」


 その言葉が落ちた瞬間。


 ◇


 ぎゅっと。


 温もりが、ケンを包んだ。


「え……?」


 気づけば、四人に抱きしめられていた。


 カッテリーナが強く腕を回し、


 ペレレイアがそっと背に手を添え、


 パソコナが震えながらも寄り添い、


 コメンテアが静かに全体を包み込む。


「何言ってるんですか……」


 カッテリーナの声は、少し怒っていた。


「そんなの、関係ないに決まってるじゃないですか!」


「ええ……」


 ペレレイアが穏やかに続ける。


「私たちは、ケン様の力に惹かれたわけではありません」


「最初は……そうだったかもしれません」


 パソコナが小さく言う。


「でも……今は違います……」


 一拍。


 コメンテアが、静かに口を開く。


「私たちは、あなたを知っています」


 ケンの肩が、わずかに震える。


「あなたがどんな人か」


「どう考えて、どう悩んで、どう優しいのか」


「全部、見てきました」


 優しい声。


 逃げ場のない真っ直ぐな言葉。


「ケン様は……唯一無二です」


 ペレレイアが続ける。


「スキルがあるから特別なのではありません」


「あなた自身が、特別なのです」


「そうそう!」


 カッテリーナが力強く頷く。


「ケン様って、変なとこあるし!」


「……え?」


 一瞬、間が抜ける。


「でもそこがいいんですよ!」


「他の誰とも違うし、見てて飽きないし!」


「その……や、優しいし……」


 パソコナが顔を赤くしながら言う。


「私……そういうところが……好きで……」


 言葉が途切れる。


 だが、その想いははっきりと伝わった。


 コメンテアが、最後に言う。


「たとえ世界中があなたを否定しても」


「私たちは、あなたを否定しません」


「なぜなら――」


 ほんの少し、微笑む。


「あなたは、“ケン”だから」


 ◇


 沈黙。


 風の音だけが、静かに流れる。


 ケンの視界が揺れる。


 ぼやける。


 何かが、頬を伝う。


「……っ」


 気づいたときには、涙が零れていた。


 止めようとしても、止まらない。


 次から次へと溢れてくる。


「……なんで……」


 声が震える。


「なんで……そんなこと、言えるんだよ……」


 自嘲のようで、救いを求めるような声。


 カッテリーナが笑う。


「だって、本当のことですから」


 ペレレイアが頷く。


「私たちは嘘をつきません」


 パソコナがそっと言う。


「……ケン様が、好きです」


 コメンテアが静かに締めくくる。


「それだけで、十分です」


 ◇


 ケンは、その場に膝をついた。


 涙は止まらない。


 声も出ない。


 ただ、泣いた。


 ずっと押し込めていたものが、一気に溢れ出る。


 無力。


 無価値。


 不要。


 そう思い込もうとしていた自分。


 だが――


 違った。


 少なくとも。


 ここにいる四人にとっては。


 彼は、必要だった。


 理由などいらない。


 条件もいらない。


 ただ、彼が彼であるというだけで。


 ◇


 しばらくして。


 ケンはゆっくりと顔を上げた。


 涙でぐしゃぐしゃになった顔。


 それでも。


 ほんの少しだけ、笑っていた。


「……ありがとう」


 短い言葉。


 だが、それがすべてだった。


 四人も、微笑む。


 冬の空気は冷たい。


 だがその中心だけは、不思議と温かかった。


 失ったものは大きい。


 だが――


 それでも。


 彼は一人ではなかった。


 そして。


 それだけで、もう一度立ち上がる理由には、十分だった。

このエピソードを楽しんでいただけたなら幸いです。次のエピソードも近いうちにアップロードします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ