案の定、サボりはムリなのね。
地下にあつらえた書庫の内装は、どことなく海外小説の映画で見た魔法学園をほうふつさせる。
ああ、一度でいいから、生きている間に街の映画館で、あの壮大な臨場感を堪能したかったなぁ。
「妃殿下? どうなさいました」
トレーシーの声に、私は否応なく現実に舞い戻る。
あらいけない。前世モード全開でもの思いにふけるなんて。
気を取り直して、そびえ立つ書架へとにじり寄る。
私は天井を仰ぎ見ながら、
「地図って、どの辺に収蔵されていると思う」
前を行くトレーシーに声をかけた。
彼女は一瞬だけ立ち止まると、わき目もふらずに歩き始める。
あらかじめ、こちらの質問を予測していたのか、
「こちらでございます」
相手は振り返ることなく、書架の狭間を縫うように右へと折れた。
うっスゴ。分厚い背表紙が、延々と並んでいる。
「どうなの?」
「これにございます」
そう言いつつ、トレーシーが引っ張り出した図版は想像以上の大きさだった。
「ちょっと。無理しないでよ」
女一人で運ぼうとするとは、無鉄砲にも程度があるわよ。かなりの重さに四苦八苦したけど、二人で力を合わせた甲斐もあって、中央にある円卓まで運ぶことが出来た。
「王都デルフィスがここですから」
「フロワサールはどの辺り?」
「お待ち下さい」
トレーシーは慣れた手つきで、フロワサールのページを開く。なだらかな丘陵と平地、領府から王都へ続く大河が記されている。
川港の交易で栄えているから、比較的裕福な土地だったはずだわ。
「この一帯って、大規模水害に見舞われやすいような」
「確か、一昨年も領府の南側が被害を受けたと記憶しています」
「それが、山繭の飼育にも影響を与えたのかしら」
「現状では、判断出来ませんわね」
領地運営は代官にゆだねているけど、現地に赴かないと見えないも少なくないはず。
「有能な人間が善良だと限らないし、その逆も然りよね」
私のつぶやきに、トレーシーもうなずく。
「本日はこれにて」
トレーシーが表紙を閉じる。下調べが終わったのはいいけど、これを戻すのも一苦労だわ。
再度の共同作業もやり遂げて、私達は書庫を後にした。
石造りの階段を、私達はゆっくりと上る。上の階に躍り出たところで、壁の大時計が鐘を打った。
開けた空間で間延びする私の側で、
「そう言えば、ダンスの講義……」
トレーシーの口からこぼれる。
「あ……忘れていたわ」
座学以上に苦手な課題の存在に、私は頭を抱えてしまう。
「今日は色々あったから」
「さあ。急ぎましょう」
やっぱり、サボるのは無理みたい。トレーシーの必殺『顔面塩対応』が、それを物語っている。
覚悟を決めるまで、私は途方にくれてしまう。
「妃殿下」
「分かっていますわ」
彼女に追い立てられるがまま、私は大広間へと向った。




