第69話 隻眼って何かとカッコイイですよね(音の響きが)
主人公は、現時点で人類ベスト100に入るくらいのステータスですので、全く堪えていません。
因みにホルスは、10本指に入る実力の持ち主です。
「トリス!?…まぁ、大丈夫か。」
ホルスは一瞬慌てるがすぐに冷静さを取り戻す。
その様子を見ていた冒険者は戦慄する。
-何だコイツ!?仲間が一撃でやられたのに、すぐに冷静になりやがった!?い、いや、痩せ我慢に違いない!-
掴んでいたトリスの後頭部から手を離すと、次はホルスに殴りかかろうと身構える冒険者。
「ちょ、ちょっと!何をやっているんですか!?ギルド内で暴れるのは規則違反ですよ!?」
それを見て慌てて受付嬢が止めようと、冒険者に呼びかけるが寧ろ逆効果であった。
「あぁん!何だよカミラ!文句があるのか!?あるなら聞いてやるぜ?コイツらぶちのめした後、宿屋でお前の体にな!」
「ヒッ!」
物凄い形相でくってかかる冒険者に、受付嬢が怯えた表情で少し後ずさる。しかし気丈にも覚悟を決めた顔で再び言う。
「も、文句ではありませんが、ただ規則だと言いたいだけです!それに新人を潰すのは、あまり褒められた事では無いと、バルドゥルさんには何度かギルドから通達があったはずです!」
「チッ!うるせぇな!」
カミラの正論に、イラついた表情を浮かべるバルドゥルと呼ばれた冒険者。が、次の瞬間表情が凍りついてしまう。
「あ〜、痛いな〜。普通の人間なら死んでるぞ?これ。」
何とトリスが顔を擦りながら起き上がって来たのだ。しかも何処にも怪我した様子が見られない。
「あ、やっぱり無事か。」
「ホルス!もっと友人を心配してくれてもいいんじゃないか!?悲鳴っぽく名前呼んだ後に、即『まぁ、大丈夫か』ってどんだけだよ!」
『最初から起きてたんかい!?というかお前は普通の人間じゃないのか!?』
と、周囲の観客の心の声が一致した瞬間だった。
「お、お前!何者だ!?」
「え?初心者?だよな、ホルス。」
「う、うん。そうだけど、その人が聞きたいのはそういう事じゃないと思うけど…。」
何ともとぼけた言い様に、呆れながらも返すホルス。
「うん、まぁ、分かってるけど。さて、どう始末付けようかな?」
「適当に甚振っ…お話して終了でいいんじゃない?事後処理はギルドがやるでしょ。管理不行きって事で責任押し付けちゃえばいいし。」
サラッと真っ黒な事を言うホルスに、ドン引きする周囲。
「く、クソッ!」
2人の尋常でない雰囲気に、破れかぶれとなったバルドゥルは、今まで上手くいった試しのない危険な賭けに出てしまう。
「おい!コイツがどうなってもいいのか!?殺されたくなければ、俺に手出しするな!」
「う!」
そう、人質作戦である。人質の後に周り、装備していた剣を首筋に当てて周りを威圧する。そして最悪なのがこの中で最も人質に取りやすい人物として、近くに居た非戦闘員の受付嬢、カミラが選ばれてしまった事だ。
このカミラという受付嬢、美人であり実は結構な人気を誇る人物だったのだ。そのため周りの冒険者もヘタには動けない。
「え?そう来る?」
「あちゃ〜、やっちゃったね。」
しかし未だに余裕な態度をとるトリスとホルスの2人に、冒険者達から『空気を読め!刺激するな!』と視線が集中する。
「チッ!舐めてんじゃねぇぞ!おい!黒髪のお前!てめぇから最初に殺してやる!次は隣の金髪野郎だ!その後でじっくりカミラを楽しんでやる!」
非常に激昴した表情で、トリス達に威張り散らすバルドゥル。しかしその最後の言葉は余計な言葉であった。
「「あ?さっきから不愉快なことばかり言いやがって。そんなに死にたいのか?」」
ほぼ同時にトリスとホルスから、莫大な魔力と共に威圧感が噴き出し、周りを圧倒する。元々トリスは、盗賊に酷い目にあわされた女性達を見て激怒し、一夜にして4つの盗賊団を殲滅したという過去を持つくらい暴行する行為が嫌いである。また、ホルスも優しい心の持ち主であり、『力で無理矢理』というのは己の正義感からして全力で否定したいものだ。
そのため1回目は我慢したが、2回目は流石に堪えきれなかった。その行為が実行に移せる状況というのも後押しし、今に至るのだった。
「ひ、ひぃっ!」
モロに威圧をくらったバルドゥルは人質を放り捨て、ギルドから逃げ出そうとトリス達に背を向けて走り出す。自身が放り出したカミラが、いつの間にか近くに居たホルスに抱きとめられるのを尻目に、一目散に駆けるバルドゥルの肩に、無慈悲な死神の手が置かれる。
「おい、どこに行くんだ?」
「ひぃっ!」
「おいおい。さっきから『ひぃっ』としか言ってないじゃないか。頭がどうかしたのか?ま、どうでもいいんだけど。」
トリスは肩をすくめながら、本当にどうでも良さそうに吐き捨てる。
「さて、ここに取り出したりまするは1本の短剣です。さて、どうしましょうか?正解は…こうです!」
どこからともなく取り出した短剣を、バルドゥルの目に突きつけるトリス。
「や、止めてくれ!俺が悪かった!」
「いや、何を今更。お前が悪いのは一目瞭然だろ。ま、それは置いといて。『隻眼のバルドゥル』ってカッコイイと思わない?ねぇ?今なら俺がそうしてあげるけど?」
何処ぞの荒んだ主人公みたいな事を言いながら、妖しく笑うトリス。本気であるという事はバルドゥルに伝わったようで、涙を流しながらトリスに懇願する。
「に、二度とあんな真似はしないって誓うから!お願いします!」
「ふ〜ん。じゃあ…」
笑顔を浮かべるトリスに、バルドゥルは期待のこもった目で次の言葉を待つ。が、即絶望へと突き落とされる。
「…あっちの路地裏で、お兄さんとお話しようか。」
「ひぃっ!や、やめ!…がふっ!」
一時的にトリスに気絶させられたバルドゥルは、鼻歌交じりのトリスに引き摺られてゆくのだった。
多くの男達が憧れる『隻眼』。別に目を失ったわけではありませんが、某人の形をした怪物が出てくる東京のお話の主人公とか憧れます。




