ダンジョン攻略2
ダンジョン十一層からが精神的に辛いなら、二十一層からは肉体的に辛いだろう。なぜなら、ここからは砂漠エリアだからだ。
目印になるものも、マーキングできそうなものもない。ただ平坦な砂原が広がり、さんさんと煌めく太陽から発せられる光を遮るものがないせいで止めどなく汗が垂れる。
出てくる魔物も砂漠仕様になっている。
歩いていた砂が呑み込まれたかと思えば、中心では蟻地獄の魔物がガチガチと牙を鳴らして待っていた。砂槍の一撃であっけなく退場。
少し歩けば、一体一体が成人男性ぐらいある軍隊アリともいうべき魔物が行軍していた。
列に割り込んだ瞬間に全てのアリがカイトとサクヤに向かっていったが、一匹残らず魔石へと変わり、熱耐性というスキルを強奪できた。
また少し歩けば、二本の尾の先端に麻痺毒と猛毒の二つの針を持った巨大な蠍と遭遇したが、得意の毒攻撃を使う間もなくカイトの刀によって真っ二つにされた。
休憩していれば、人型のサボテンが緩慢な動きで近付いてくる。
攻撃方法は体についた針を飛ばすという至ってシンプルな方法だが、一本一本が鉄を貫く威力を持つ上、連射もできる天然のマシンガンだ。
ただ使いすぎると針が生え代わるまで丸裸になり、生えるまでは本当のサボテンのふりをして周りを欺く賢い魔物だったが、カイトにより燃やされた。
殺風景な砂漠を歩くのに辟易としたカイトとサクヤの前にニ本のふさふさの尻尾と背中に謎の模様を持った狐のような魔物が現れた。愛くるしい見た目に反して、なかなかえげつない攻撃をしてきた。
可愛らしい鳴き声を上げたかと思えば背中の模様が発光し、極太の熱線が放たれた。一直線に放たれた熱線は進むにつれて枝分かれしていき、次々着弾していった。
爆風が砂を巻き上げ、視界を塞ぐ。薄目で周囲を見渡すと、二尾狐のシルエットが正面浮かび上がった。
それを手で貫くが感触がない。
「キュウ」
いつの間にか後ろにはお座りをした二尾狐がいた。二尾狐の周りにプカプカと浮かんでいる火の玉が周囲を照らしている。
カイトが二尾狐を視界に収めた瞬間、火の玉がカイトに殺到した。カイトに触れたと同時に爆発を起こし、爆風が吹き荒れる。
煙が晴れた先にあったのは端が黒く焦げてボロボロになった羊皮紙だった。
「キュウ?」
小首をかしげる二尾狐の背後に音もなく現れたカイトは手に持っていた刀を一振りして首を飛ばす。二尾狐の体がその場に倒れ、魔石へと変わる。
今回使われたのは、超級幻覚魔法の一つ、有幻覚だ。実体のある幻覚は、人や物質を再現できる。
人を再現する場合は、魔法を使った者が体型や人格を付与しなければいけない。能力は自身のステータスの十分の一以下から自由に設定できる。
魔法陣では、設置された場所から半径十メートル以内しか動けないという制限がかかるが、使い勝手の良い魔法だ。最も、カイト以外にこの魔法陣を描ける者はいないが。
見た目が可愛い魔物を殺すことに後味悪い思いを持ちつつ、それからも魔物を狩りつつ、広大な砂原を横断して、ようやっと辿り着いた三十層へ続く階段。
長く続く螺旋階段を降りた先にある黒鉄の扉。上の階層は灼熱だったが、このただ何もない空間は丁度良い気温で満たされている。
「できればもう少しゆっくりしたいな」
「バカなこといってないで行きますよ」
「サクヤさんが厳しい………」
しょんぼりしているカイトを尻目にサクヤは扉を開けてボス部屋に入る。今日のサクヤはいつにも増して厳しい。
カイトは閉まりそうな扉をスレスレで滑り込む。あと一歩でも遅かったら、扉ですり潰されていただろう。
それはともかくとして、ボス部屋の主はカイトとサクヤを見下ろしていた。
ギルドの情報では個体名キラーファルコン。風魔法Lv3相当を使い、特殊な光線を放つ他、羽根を飛ばしたり、強靱なくちばしで鎧ごとを突き刺す。
猛禽類のごとく鋭い眼光で二人を射抜く。風魔法による補助で一切羽を使わないで空中に留まっている。空中にいるのは絶大なアドバンテージだ。
「クァアアアアアア!!!」
バサッと大きく翼を広げると、目のような不気味な紋様となって。中心からは二尾狐よりも高い威力を持った熱線が照射される。
「激流の大楯」
カイトの前に渦巻く水の盾が発現し、熱線に衝突する。小さな爆発の後、むわりと暑い蒸気が辺りを包み込む。
「クルァアアアアアア!」
水蒸気を切り裂いて風の刃が二人を襲う。カイトは見てからかわし、サクヤは剣域を発動させて当たりそうなものを最小限の動きでかわし、避けきれないものは叩き切ってやり過ごした。
地面に風の刃による無残な爪痕が残されていたが、無事な二人を見て、次の攻撃を仕掛けた。
バッサァと大きく翼を広げる。そこから繰り出された壁のように迫る無数にも見える羽根。重力による加速も相まって、硬質な羽根が地面に突き立つ。
地面一面に羽根が突き立つ中、カイトとサクヤの周りだけぽっかりと穴が空いている。その近辺には燃え尽きて灰燼となった羽根が舞っている。
「多重展開ファイアーボール」
底辺も底辺の火魔法、ファイアーボール。それでも百以上ともなれば、ダメージは入る。ましてや、カイトの尋常ではない魔力がこめられた魔法だ。
カイトの腕を振り下ろしたのを引き金に、一斉にキラーファルコンに襲いかかる。それらを翼をはためかせ風を起こし、さらに風魔法も使い、火球を次から次へと迎撃する。
黒い煙が互いの中間を覆う。
ここに至って、キラーファルコンが致命的なミスを犯した。空中から攻撃できるというアドバンテージを自ら捨てて、カイト達に強襲をかけた。
黒煙の先、何も持たない獲物に自身の出せる最高速度で襲いかかる。その突進は音を置き去りにする。間違いなくキラーファルコンの持つ技の中で最速の一撃。
「ふんっ!」
それをカイトはくちばしを上と下から挟むように掴み、脚に力を入れる。地に刺さっていた鉄並みの硬度の羽根を散らかしながら、後ろに押される。地面にはカイトの足によって抉られたブレーキ痕が残された。
ステータスが上回っていても、自重の数倍もある巨体を止めるのはそう簡単にもいかなかったが、壁に踵がつくかどうかのところで踏ん張り、止まることができた。
止められたことに驚きながら、再び飛び上がろうとするが、
「潰崩」
身体が縫い付けられたかのように地面から離れない。それどころか魔力を噴出しているにもかかわらず、身体が地面にめり込んでいく。
「はぁああああ!」
サクヤが刀を振りかぶった状態で上から降ってきた。
キラーファルコンが自身を拘束する見えない鎖を解こうと暴れ出すが、より拘束が強まっただけだった。
サクヤの近付いてくる声に余計焦ったキラーファルコンがジタバタと暴れるも意味をなさず、白く煌めく刃が首を切り離した。
キラーファルコンは一拍置いて、魔石へと変わり、地面に突き刺さっていた薄黄色の羽根が散っていった。代わりに、矢の羽やアクセサリーに重宝されるキラーファルコンの羽根が残された。
「今日はここまでにしましょうか」
「そうだな。帰ろう」
懐から取り出した転移結晶が輝きを放つと、二人の姿はダンジョンから消えた。
ダンジョンから出ても、灯りの一切はなかった。日はとっぷり暮れて、いつもなら人通りの多い大通りだが、今はほとんどいない。いるのは浮浪者ぐらいだ。害はないので衛兵の対処はない。
ギルドは灯りはついている。大人数の気配もある。魔石の換金なら今が最高のタイミングだ。なのに物音一つしないというのは不気味なもので行くのは躊躇われる。結果、二人はギルドを素通りした。
宿屋も灯りはなかったが、戸は開いていた。音を立てずに入り、食堂のテーブルに置かれていた冷めた料理を食べる。これだけでは泥棒や空き巣のように聞こえるが。無音で行われたその一連の流れは衛兵に問われれば言い逃れできないだろう。
空の皿を魔法で新品同様なまでに洗い、厨房の方へソッと返す。
部屋に戻り、疲れを癒すようにベッドに入り、瞼を閉じた。




