メイク マイ デイッ!
「……なるほど、そりゃ大変だったな。まあ、取りあえずお疲れさん」
バトルロワイヤル大会終了後、『グリード』にてその日の出来事の顛末を語るアイシャ達に、ロイドは労いの言葉を掛けた。
「うん、ありがとロイド君。あーでも、ホント惜しかったなー」
「何しろ、アタシかアイシャのどっちかが優勝もあり得たからねー。気付いたのは終わってからだけど」
「……まあ、上位三位以内も十分凄いよ」
「そうでござるよ。胸を張るでござる」
テーブル席に並んで座るアイシャ、ノノ、ナーニャ、コジローが口々に感想を述べる。
「そうそう。それに、ままならないのが人生よ。それを学べただけでも十分に価値があるわ」
続けてアイシャ、ノノ、コジローは、したり顔で語るイリーナへとジト目の視線を送った。
「……と言うか所長。ままならなくなった大半の原因は所長にあると思うんですけど」
「アタシなんて、魔物に掴まれて空を飛んだんですよ。幻影とは言えリアルですから、怖かったですよー」
「いくら何でも、あれはヒドイでござるよ」
混沌の中へと放り込まれた三人が、恨み言を呟く。そんな彼女らの言葉を聴き終えたイリーナは、「ふっ……」と一つため息を付きながら静かに目を閉じた。
「まあ、なんて言うの? 私があの仕掛けを思い付いたのは、理由があるの。単なる思い付きじゃないのよ」
一旦鼻で深く息を吸い込み、続きを述べる。
「私はね――ただ、みんなの驚く顔が見たかっただけなのよ」
「「「イリーナ所長……」」」
「何か感動っぽい雰囲気に持って行こうとしてますけど、実際の内容はだいぶ悪質でしたからね!?」
イリーナの言葉に感じ入った様子を見せる他の三人に対し、アイシャは流される事なく本質を突いた。
「それはそうと所長。私達をここに呼んだ理由をまだ聞いていませんけど。一体、どんな用事でしょうか?」
気を取り直して、アイシャは尋ねた。大会終了後、四人はイリーナから「へーいそこの彼女と彼氏ー。ちょっと用事あるから『グリード』寄ってかなーい?」と誘われ、ここへとやって来たのである。
「あー、それはね――」
イリーナの言葉に割り込むかのように、入り口の扉に取り付けられた鈴が鳴る。アイシャが何気なくそちらに目をやると、
「……あれ? リコちゃんにミーアさん?」
興味津々と言った様子で店内を見渡すリコと、扉を後ろ手で閉じるミーアの姿が写った。
「ああ、来たみたいね。おーい、こっちよー」
ブンブンと手を振ってイリーナは二人へ呼び掛ける。
「あ、みんな久しぶりー!」
「ほらお嬢様、走っては危ないですわよ」
ぱっと笑顔を咲かせてこちらへと駆け寄るリコを、他の客に軽い会釈で詫びながらミーアは追って来た。
「お、リコにミーアさん。ウチの店来るの初めてじゃねえか?」
意外な人物の来店に、ロイドはそう尋ねる。
「うん、そうだよ」
「イリーナ様からのお誘いがありまして。『海行った時のメンバーで集まって食事会開こうぜー』……と」
ミーアの言葉に、アイシャ達はようやく合点が入った。
「そうだったんですか。早い内に知らせてくれても良かったですのに」
「ふふん、みんなの驚く顔が見たかったのよー」
その場の皆から寄せられる感謝と尊敬の念に、ここぞとばかりにイリーナは胸を張る。
「そもそも、決めたの昨日だからね。たまたまミーアに会って、その時に思い付いたの。それに黙ってれば、仮に予定が合わない人が居ても、そのままその人に知らせずにハブれば問題にならないかなーって」
「終盤のセリフこそ知らせるべきじゃなかったと思います」
「……と言うか、隠し通すのも無理だと思います」
そして調子に乗って余計な事を言ったばかりに、それらの念を瞬時に霧散させてしまうのが、イリーナと言う人物であった。
「なんつーか、相変わらずだよなイリーナさんは……」
「こーら、ロイド。のんびりお喋りしてないで、仕事に戻りなさいな」
「おっと、師匠。……ま、そう言う訳でご注文をどうぞ」
背後から掛けられたゴドウィンの声に、ロイドは軽く態度を取り繕い給仕の仕事に戻る。
「話は聞いてたわよ。ゆっくりしていってねぇ」
そう言って微笑むゴドウィンに対し、
「………………えーと、男の人だよね?」
「見た目はその通りですわね。見た目は」
リコは呆然と呟き、ミーアは比較的冷静にそう答えた。
「そ、そう言えば初対面だったわね、二人共」
「まあ、すぐ慣れるでござるよ」
アイシャとコジローのフォローを聞いているのかいないのか、リコは目をパチクリとさせるばかりであった。
そんな彼女に、ゴドウィンはしゃがみ込んで目線を合わせながら、ゆっくりと口を開いた。
「お嬢ちゃん。世の中には、お嬢ちゃんの知らない世界がまだまだあるのよ。性別の壁なんて概念、広い広い世界の前ではちっぽけなものなのよ」
「世界……」
「大変申し訳ありませんが、お嬢様を今居る世界から連れ出そうとしないで頂けませんか?」
ゴドウィンの語る言葉へ神妙な面持ちで耳を傾けるリコの姿に、ミーアの判断は実に素早かった。
「もうっ、ちょっとくらい良いじゃないの。……ま、それは置いといて、じゃんじゃん食べていってね。余裕があれば、ロイドとも話す時間あげるから」
そう言い残し、ゴドウィンは厨房へと引っ込んでいった。
「よーし、じゃあ好きなもの注文しちゃって。お金の心配はしなくて良いわよー、全部オゴリだから!」
「「「「「「やったあ(……たー)(でござる)!」」」」」」
ばーん、と手を広げながら宣言するイリーナに、一同から歓声が上がった。
「リコのお父さんの!」
「お父様は良いって言ってないと思うよ!?」
そして飛び出たスポンサーの名前に、一名からツッコミ声が上がった。
「だーいじょうぶだって、リコ。事後承諾させれば良いんだから。もし駄目だったら、研究費を横領すれば何とかなるでしょーし」
「所長が人として色々駄目だと言う事が、この一言だけで良く分かりますよ!!」
何一つ大丈夫な点がない発言を、イリーナはおおらかな笑顔を浮かべながら言い放つ。こんな大人にはなるまいと、アイシャは胸中で固く誓った。
と、その時――
「公衆の面前で何を言っているんですか、イリーナ所長」
「うげっ、レイナール団長!?」
いつの間にやらテーブルの側へと近付いていたレイナールが、イリーナへと叱責を飛ばした。
「あれー、団長来てたんですか?」
ノノの問いにレイナールは「ええ、つい先程」と答え、改めてイリーナの方を向く。
「……全く。イリーナ所長、研究費を食費に費やそうとしないで下さい」
「うう。ちょっとくらい良いじゃないのー」
「いえ、横領はちょっとの問題じゃないです」
思わずアイシャは口を挟む。
「へーいへい、分かりました。……仕方ないわね、義兄さんにツケる方向で行きましょうか」
「お父様は財布じゃないと思うの……」
一見妥協しているようで、実際には横暴そのものな結論に、リコは力なく呟く。
「大丈夫ですわよ、お嬢様。ご主人様は、脅……話せばきっと分かって下さいますわ」
「そうかな……。……うん、そうだよね!」
「ミーアさんが言い掛けた言葉の続きが容易に推測出来るんだけど!? リコちゃん家の上下関係どうなってるの!?」
「ところでレイナール団長、折角だからあなたも一緒にどう? オゴるわよ」
「そうですね。ぜひ、ご相伴に預かりましょうか」
「この場に居ない人の財布の負担を、これ以上勝手に増やすのはどうかと思いますけど!? と言うか団長、事後承諾の方は良いんですか!?」
「まあ、大目に見ましょう」
「逡巡なしで答えたよこの上司!? そう言う問題なんですかコレ!?」
ひたすらに声を張り上げてツッコミを入れるアイシャに対し、
「まーまー、アイシャ。細かい事は気にしないのー」とノノ。
「……そうだね。今日は思いっきり楽しもう」とナーニャ。
「ま、良いんじゃねえのか?」とロイド。
「さーて、何を食べるでござるかな」とコジロー。
「チョコレートパフェ頼んでも良い?」とリコ。
「食後じゃないと駄目ですわよ」とミーア。
「ほらほら、アイシャちゃーん。奢られちゃえ奢られちゃえー」とイリーナ。
「この際固い事は抜きにしましょう、アイシャさん」とレイナール。
いつも通りの面々の、いつも通りの雰囲気に、
「せめて少しは遠慮する素振りくらい、見せようよーーーーーーーーーっ!?!?!?」
アイシャがいつも通りに振るった心のハリセンが、いつも通りに空気を震わせるのであった。
ここは異世界『レヴェリア』、魔法が存在する世界。アイシャはその中の一国、『フロイデ王国』の騎士団に所属する少女である。正式な騎士と認められる日を目指し、仲間と共に日々の訓練に励んでいる。
この物語が終わっても、アイシャと愉快な仲間達の平和で、時々刺激的な日々はこれからもずっと続いて行く――
お付き合い頂き、ありがとうございました。




