スタートライン その6
《七月 二十日 PM0:40》
「夏休み、映画でもどう?」
デュオに殴られて長谷川は地面を転がる。
「エナを口説こうとは。油断も隙もない」
デュオは精神的に疲れたような顔をしている。
「で、そろそろ話してもらおうか」
長谷川が顔を腫らしながらも慎重に言葉を選び口にする。
「私達が何者であるか?」
「違う! いや、それも聞きたいんだが今、一番聞きたいのは――」
エナとデュオがごくりと唾を飲む。
「何でいきなりスタンガンを当てられて地面を転がることになったのか、だ」
「「おー」」
ポン、とエナとデュオは手を打つ。
それは普通口説く前にするものだろうとエナは思ったがとりあえずスルーすることにした。
「でもそれは校舎裏にいた少女にあんたがしつこく言い寄ってたからじゃん」
「スケ番が去ってオオカミがやってきた感覚だね」
「スタンガン当てるまでの事だという説得力がまるでないだと!?」
「ごめんなさい。まずは自己紹介から。私はエナこっちはデュオだよ」
「これはご丁寧に。長谷川徹です、って違う。誰も自己紹介しろとなんか言ってないし。第一偽名だろ、それ!」
「偽名とは失礼な。これはあだ名だよ」
偽名と言われてエナが少しむくれる。
「ここに連れてきたのは他でもありません。君に私たちが作るチームに入ってもらいたいからです」
「チーム、チームねぇ。そんな疲れることより、夏休みに入ったらさぁ――」
「私達はこの学校にひと泡吹かせたい。戦いたいんだよ。そのためにどうしてもあなたの力が必要なんだよ」
「会話のキャッチボールが……できない」
「……最初に会話を投げ出したのはそっちだよねー」
エナはため息を一つ吐く。
「お願いだよ。私達はどうしても仲間が必要なんだよ。協力してくれない」
「やめろ!」
そこで長谷川から発せられた声は、想像よりも激しい声だった。
本人もそこまでの声を出すつもりではなかったらしく自分自身の声に多少驚くような表情を見せた。
だがそのすぐ後にそんなことなど無かったかのように表情を戻す。
「俺はもうそういうことはやめたんだ。もう一度やろうとは思わない」
エナはその声にひるまずに長谷川の目をのぞきこむ。
「いったい何があったの?」
「いや……なんでもない。怒鳴ってすまん」
長谷川は立ち上がって、立ち去ろうとするが一度立ち止まり、思い出したかの様に笑みを浮かべる。
「面白い話を聞かせてくれてありがとう。だけどお前たちの仲間になることは残念ながら出来ない。ごめんな」
そう言って長谷川は立ち去って行った。