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第26話 夢の学生生活

 深川がこのパーティに加入したあと、あいつは一瞬で帰っていった。もともと用事があったのを引き止めて対人戦をしたのだから、そのあとそのまま一緒に潜れるとは考えてはいなかった。

 だが、その後一回も会う機会がないまま、


 ───夏休みが終わった。


 俺はあの圧倒的な強さをもう一度見ることもなく、新学期を迎えることになった。

 その強さの謎も如月や速水と相談しても一向に分からなかった。


 そして九月。


 俺たちは四人で、三人の頃と同じように、いや更にダンジョンに潜りまくる───



 ……はずだった。

 速水の、あの一言さえなければ。




 ◆◆◆◆◆


 大学の敷地内にある公園。


 手入れされた芝生に、ところどころ設置されたベンチ。

 夏の名残を引きずった空気の中、学生たちが思い思いに過ごしている。


 木陰では我々の憎き敵であるカップルが談笑し、少し離れた場所では賑やかな声があちこちから飛び交っている。


 ——いかにも、“大学”って感じの光景だ。


 その中を、俺たちは四人で並んで歩いていた。


「そういえばさ、オークジェネラル倒したってマジ?」


 速水が完全に疑った顔で聞いてくる。

 どうやらこれが偽情報だと信じているようだ。


「そりゃマジだろ」


 これを人に行った覚えはないが、流石ハッカー。

 情報屋としてもある程度働けるようだな。


 だが、まだ甘いな。

 これは本当だ。


「いやいや、盛ってるだろ」

「盛るとしたらもうちょいマシな嘘つくよ」


 肩をすくめて返すと、横で聞いていた如月が一瞬固まった。


「……いや、え?」


 理解が追いついていない顔で、もう一度こっちを見る。

 如月が一歩寄ってくる。


「一人で、か?」


 さっきよりは若干声が低い。

 確認というには疑念が多く残っている目だ。


 一人かと言うとかなり微妙なラインだ。

 正直、もしあの場に師匠がいなかったらあんな無茶はできなかったから、あの功績は確実に師匠のおかげだ。

 それに、師匠が助けに入ってなけりゃオークナイトにやられて今頃この世には居なかったはずだ。


 流石に、このことを言わなければ詐欺と同等以上だから、真実を伝える。


「正確に言うと師匠が後ろで見守ってたよ。4体倒したあとにナイト倒してもらっただけ、だけど」


 一瞬安堵した三人だったが、2文目に引っかかった様子を見せる。


「4体……?」


 ん?


 一瞬何に引っかかったのか全くわからなかったが、すぐに引っかかった場所に気付いて俺は訂正する。


「あー、メイジ、ヒーラー、ソルジャー、あとジェネラル。この4体だろ」


 それを聞いた瞬間、三人の視線がピタッと揃った。


 ……なんだその反応。


 疑ってるっていうより、どう受け止めて良いのかわからない顔してるぞ。


「いや、待って待って……」

「それ普通に無理だよ。俺でも」


 如月と速水が顔を見合わせる。


「Dランクでも一人じゃ普通に詰むよ、それ……」

 

 一瞬だけ、変な間が空いた。

 時間の流れ方が一瞬遅くなった。


 ——が、


「いや!やっぱおかしいって!!」

「それな。どう足掻いても不可能だって!しかもまだ一年経ってないんだろ!?」


 すぐにいつもの調子に戻る。

 良かった。重い空気はうちのパーティには似合わない。


 その横で深川が何かを探るようにじっとこちらを見ていた。

 あまり話したことがないから、俺に向けられた表情は薄い。


 深川がようやく口を開いた。


「どんな訓練してるの?」


 真面目ではなく、ふざけてもいない、かといって真顔かと言われればそうとは言えない表情でこちらを見てくる。


 俺は過去10ヶ月の訓練を思い返す。


 

 ……ダメだ、まともな記憶が出てこない。

 火の玉から逃げ続けるとか魔力を使わずに坂道ダッシュ30本を毎日とかそんなものしか出てこない。

 そもそも、運動部ですら10本を一日おきにやるんだよ。よくわからんポーションを膝と筋肉が絶対に壊れないようにガブガブ飲まされてまでやることじゃねえんだよ!!


 少し内容をマイルドにしてから答える。


「まあ授業と食事睡眠以外全ての時間を訓練に使ってるだけだよ」


 よし、我ながら控えめにできた気がする。内容は全く言ってないからな。


「……全部?」

「ほぼ全部」

「ざっと何時間くらい?」

「えーっと……10時間とか?」

「人間やめる練習でもしてる?」


 そのとおり。

 全くもってそのとおり。


 如月は引いていて、速水はしれっと半歩下がっている。


 あのな!!

 その反応を俺が一番したいんだよ!!!


 なんだよこの訓練(体罰)

 昭和でも一発アウトだよ。


 まあでも、と唯一引いていなかった深川が呟く。


「一番伸びるメニューなんだよな、多分」


 それはそうなんだよ。

 ここが困ったところで、成果が出るから止むに止まれない。


 深川が一拍置いて、少し楽しげに言う。


「効率は最悪だけどね!!」


 くそがぁぁぁ!!!!


 そこなんだよ問題は!!

 効率さえ良ければ、全部丸く収まってたんだよ!!!


 如月が呆れたように息を吐く。


「よくそんな生活できるね」


 俺も思ってるよ。なんでずっと道場に篭ってるんだろうって。


 その時、速水が軽くこう言った。


「もうちょっと学生生活楽しんだら?サークルとかさ」


 その瞬間、俺の脳に電撃が走った。

 もちろん物理でも魔法でもない。ただの比喩だ。


 そうだった!ここは大学なのだ!!忘れてた!!

 勿論普通の大学にあるものは全てある。サークルにカップルに、俺の理想の青春キャンパスライフがそこにはあるのだ。


 何故それを忘れていたんだ!!


「どんなやつがあるの?」

「宮田が好きそうなもので言うと、ハンマーレスリングとか」


 俺のことを何だと思ってるんだよ。


 グラウンドへ足を踏み入れながら聞き返す。


「せめてテニスとかさ」

「多分ないはず。あ!でも女子禁制全裸バスケはあるよ!」

「それが代わりになるわけないだろ!!」


 よくそんなのを大学は許可したな!!


「もうちょい品があるサークルってないか?」

「それならクイーンズ・イングリッシュ愛好会とかリーマン予想研究会はどう?

 宮田ならハマると思うけど」


 なんでそんな両極端なんだよ!?

 俺はそんな財閥令息並みの作法も品性もないし、全国模試偏差値80越えみたいな秀才でもないぞ!

 単にお前らより出来るだけだ。


 ていうか中学数学できないような奴らばっかの冒大によくそんなサークルできたな!


 すると深川が付け足す。


「どっちもインカレで主体は東大早慶だけどね。冒大生は5年前が最後だったはず」


 だろうな!

 マナーという概念そのものを知らないような冒大生が作るサークルとはおおよそ言い難いしな!


 ……じゃねぇよ!!

 このままじゃアームレスリングか全裸バスケになっちゃうじゃねぇか!!



 その時、俺はふと気付いた。

 そうだ、その手があった!


「お前らが入っているサークルは?」


 3人は即答した。


「パーフェクトカンニング研究会」

「迫真冒険者部」

「ネットミーム創作サークル」


 ダメだこりゃ。

 聞いて損した。


 これで完全に選択肢が消えた。

 さらば、俺のキャンパスライフ。

 お帰り、スパルタ道場地獄。



 その時───


「危ない!!!」


 反射的に振り返るとサッカーボールが飛んできている。

 少しスピードが速いが、俺は曲がりなりにも冒大生。

 そして、奇跡が噛み合ったとはいえオークジェネラルをも倒した実力者。


 なんら問題はない。

 このぐらいのボールは止められる。


 ……勿論魔法は使うけどね。



 俺は軽く両手に力を入れる。


「第三階梯・エアウォール!!」


 だが、その言葉を聞いた瞬間にボールを蹴った生徒が叫ぶ。


「だ、第三階梯!?マズい、避けろ!!!!」


 え?

 その言葉を聞いたと同時にふと気づく。


 違和感。

 視界に映る”それ”をよく見る。


 球に穴が3()()


 ……あれ?

 サッカーボールじゃなくね!?

 

 まさかアレ、ボーリンg───



 そこまでが俺の覚えているところだ。




 ◆◆◆◆◆


「おい!起きろ!!」


 次の瞬間、いきなり全ての感覚が戻る。


 漫画のようのゆっくり目が覚めるとか、そういう演出はポーションを飲んだ時には一切ない。


 視界に入ったのは、空になったポーション瓶を持つ深川と、さっきの先輩二人。

 そして———少し離れた場所で談笑している如月と速水。



 ……おい、お前ら!!!友達が怪我しているのに無関心かよ!!!

 わりと死にかけてたぞ?


 上体を起こしながら、地面に転がるそれを見る。


 ———ボーリングボール。


 やっぱり。

 納得した。


 そりゃ気絶するわ。気絶しないわけがない。


「君、大丈夫か?!」


 先輩が心配して声をかけてくる。


「多分大丈夫です」


 正直飛んできたボーリングに当たった人が大丈夫とは到底思えないが、何故かポーションによってあまり違和感を感じない。


 先輩たちはほっとしたように息を吐く。


「悪いな、うちのサークルちょっと特殊でさ」

「サッカー……ですよね?」


 ……と思ったが、ボーリング球が吹っ飛んできている時点でおかしいの次元じゃないことは分かっていた。


「まあ……周りを見れば分かるさ」


 先輩に言われた通り周りを見渡すと、珍しい、と言うにしては不気味が勝つような風景が広がっていた。


 ・ゴールにとんでもないくらいのスポンジが入っていて、その厚さによって見たこともないぐらい奥がある。

 ・キーパーが警察の機動部隊並みのフル装備

 ・コートがところどころ原型を留めないくらい焼け焦げていたり凹んでいたり、何故か土壁があったり、池ができている。



 ……うん、確かにサッカーじゃないな。


 後ろから如月と速水が談笑している内容が聞こえる。


「わかったかい、これがパラグアイ4部リーグのサッカーさ」

「ふむふむ。勉強になりました、師匠!」


 ……アイツら(パラグアイ4部リーグ)はボーリング球使わないって!!

 魔法も使わないしキーパーはフル装備じゃねえよ!!


 勝手に地球の真裏のサッカーリーグが風評被害を受けてしまったから、機会があったら謝っておこう。

 そんな機会は無いだろうけど。

 

「興味はあるかい?」


 先輩がニヤッと笑う。


 ———あるに決まってるだろ!!


 俺は決めた。これを逃すとロクでもないサークルに入るか夢の大学生活が道場の記憶しか残らないことになりかねない。

 だから、


「お願いします!!このサークルに入らせてください!!」


 勢いよく頭を下げる。

 一拍。


 ———静かすぎる。


 顔を上げた、その瞬間。


「おおおおおおおおお!!!!」


 先輩たちが爆発した。

 なんだこのテンション。


「新入りだァァァ!!!」

「逃げるなよ!!最後までやれよ!!!」

「歓迎するぜぇぇぇぇ!!!」


 うっ、しまった……

 俺はここまで陽じゃない。


「では先においとまします……」

「逃がすか!!待てぇ!!!」

「ぐぇー、死んだンゴォ!!!!」

やっべ、隔日更新だと思って昨日投稿するの忘れてた!

すみません以後ないように極力気をつけます。



お知らせ:現在、私生活が当初の想定よりもかなり忙しい状況になってきております。

 そのため、更新スケジュール通りに更新できないことが多くなるかと思います。

 更新通知が届くまで、気長にお待ちいただけると嬉しいです。

 これからもよろしくお願いいたします。

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