268 武器商人
ハリル士官学校の校門近くに集まったアリアたち。
今回は、この前に着させられた貧相な服に身を包んでいる。
「よし! それじゃ、今から、社会見学の説明をするね! まずは、この紙を見て!」
ミハイルは、アリアたち一人一人に紙を渡す。
馬車を持ってきてくれていたカレンにも、渡していた。
書かれている内容は以下の通りである。
今回は危なくないよ! ローマルク王国の社会見学!
参加する人
アリア、サラ、ステラ、エレノア、エドワード、レイル士官学校で学級委員長をやっていた三人、カレン、ミハイル
今回の背景
ミハイルとカレンは、諸国を渡り歩く武器商人であった。
ローマルク王国での争いが終わったので、武器を売りながら、各地を回っている。
アリアたち若者8人は、雇われの護衛として帯同している。
偽名と人物背景(素性がバレないために必要)
ミル(ミハイル)
・武器商人として各地を周る男性。
美麗な顔で女性からは、モテてモテて困っている!
カリス(カレン)
・ミルの付き添いの女性。
普段は恐いが、二人きりになるとラブラブしている!
アリアーヌ(アリア)、サラーヌ(サラ)、ステラーヌ(ステラ)
・仲良し三人組。
・年々、目つきが厳しくなっている。
・一人を除いて、比較的、常識はある方。
エレノアーヌ
・オホホ口調の女性。
・頭のネジはまだ見つかっていない。
・最近の趣味は、節約。
エド(エドワード)
・努力家。
・だが、女性陣に馬鹿にされがち。
・頑張れ、エドワード!
組に対応して、ヒトロウ、ジロウ、サンロウ(レイル士官学校で学級委員長をやっていた三人組)
・優しい男性たち。
・この8人の中では、最もバランスがとれている。
ローマルク王国を周る順番
南部→中部→北部の順。
紙には、どこかで見たような内容が書かれていた。
「……頭、大丈夫ですか、ナルシスト? 私、こう見えて、医学の知識には自信があります。良ければ、頭をかち割って、中身の状態を確認してあげましょうか?」
言葉とは裏腹に、カレンの声はとても低い。
しかも、体からは、むせかえるような殺気が漏れている。
(……怖過ぎて、カレンさんのほうを見ることができないのだけど。今、目を合わせたら、殺されそう……)
とりあえず、アリアは紙を読んでいるフリをし続けていた。
「カレン! そんなに怒らないでよ! 設定だから、設定! 殺気が駄々洩れだよ? 皆、恐がっているから、おさめておさめて!」
ミハイルは、いつも通りの笑顔である。
カレンの殺気を受けても、平気なようだ。
「ふぅ。つい、取り乱してしまいました。申し訳ありません、お嬢様方」
カレンはそう言うと、ペコリと頭を下げた。
もう、殺気は放っていない。
(良かった、良かった! とりあえずは、これで大丈夫か! それにしても、相変わらず、正気とは思えない内容だ。武器商人って、危ない気がするのだけど……)
気を取り直したアリア。
改めて、紙に書かれている内容を頭に入れようとしていた。
そんな中、エレノアが口を開く。
「ワタクシ、昔、武器商人に関する本を読んだことがありますの! たしか、題名は、『武器と世界を渡る』でしたわ! 想像とは思えないほどリアルな話でしたの!」
「え? なぜ、エレノア様が、その本を知っているのですか?」
意外や意外、カレンが話題に食いついた。
「家に置いてありましたの! ワタクシが小さい頃、読んだ記憶がありますわ! カレンさんも知っていますの?」
「知っているもなにも、作者は私だと思います。一応、確認なのですが、女性一人で武器商人をしている話ではなかったですか?」
「え!? その通りですわ! 武器商人の女性が一人で、各地を周る話でしたの! あれの作者はカレンさんでしたのね!」
エレノアは、作者に出会えて、興奮しているようだ。
(カレンさん、本とか書いているのか。というか、かなり変わった話だよな。女性一人で武器商人をするお話とか、聞いたこともないよ)
アリアは、不思議そうな顔でカレンを見ていた。
「そうですね。昔、部下を武器商人として教育するために書きました。言葉で伝えるよりも、物語にしたほうが分かりやすくなるかなと思いまして。実際、多少は意味があったようですよ」
カレンは、驚いた表情から、普段通りの顔へと戻っている。
(カレンさんの昔ということは……いや、深く考えるのはやめておこう。武器商人という言葉と、カレンさんの昔は、危険は結びつきしか感じないしな)
アリアは、それ以上考えるのを意図的にやめた。
これから武器商人をするというのに、余計な情報を知りたくなかったからだ。
だが、気になってしまう人はいるようである。
「え? それって、主人公はカレンだよね? ということは、実話をもとにしているのかな?」
ミハイルは、気になってしまったようだ。
「私本人ではありませんよ。あくまでソックリさんです。多少、ぼかしてはいますが、一応、実話をもとにして作ってはいますね」
カレンは、淡々と深掘りをしていく。
「え!? あれ、実話をもとにした話でしたの……あ! イタタタタ! いきなりお腹が痛くなってきましたわ! 皆様、先に出発しておいてほしいですの! 必ず! 必ず、あとで追いつきますわ!」
エレノアはそう言うと、急いで、ハリル士官学校の方向に向かって走っていこうとする。
「エレノア様、安心してください。今回は普通の武器商人です。現地勢力に武器を売ったり、非合法組織と関わりを持ったり、敵対組織に襲撃をされたりはしませんよ。多分」
カレンは、エレノアの進路を阻む。
「多分!? 多分って、何ですの!? ワタクシ、まだ命が惜しいですわ!」
どうやら、カレンの書いた本は、中々、刺激的な内容のようだ。
エレノアの様子を見ていたアリアたちは、ステラ以外、これからの先行きにたしかな不安を抱く。
「大丈夫、大丈夫! 本当に、今回は真っ当な武器商人だから! ちゃんと、正式な許可証をもらってきているしね! 裏世界の人とは関わらないから!」
ミハイルは、皆を安心させようとしていた。
その証拠に、なにやら書かれている紙を懐から取り出し、広げてみせる。
(……なんか、本物っぽいな。だけど、私は騙されない! 今まで団長が大丈夫と言って、大丈夫だったことは少ない気がするからな! くっ! ただの社会見学だと思ったのに! これだったら、いくら暇とはいえ、ハリル士官学校にいたほうが、遥かにマシだよ!)
アリアの顔からは、汗が流れている。
きっと、強い日差しのせいだろう。




