表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
247/316

247 本番

 ――参謀総長の部屋に入ってから、30分後。


「まぁ、予想通り、特に何もなく終わったわね。結局、それほど強い処分を下せないことが分かって、良かったでしょう?」


「処分が下されることには、変わりないだろう。陛下を説得できなかった場合はな。そこから、失脚していく可能性も十分にあり得る。お前は大丈夫だろうが、私は、どうなるか予測できない」


 部屋を出た二人。

 次の目的地は、ミハルーグ帝国軍の総司令官の部屋である。

 一方は軽い足取り、もう一方は重い足取りであった。


「心配し過ぎよ。メイルークにいる将官連中が止めてくれるわ。ハインリッヒが退いたら、次は自分の番になるかもしれないもの。火中の栗なんて、誰も拾いたいなんて思わないわ」


「たしかに、失敗の見えているローマルク王国の統治なんて、誰もやりたがらないだろう。ローマルク王国を捨て石にする前に、現状のままであれば、反体制派などが勢力を盛り返すハズだ。もし、大規模な反乱にでもなれば、エンバニア帝国と削り合わせることすら困難になる。責任を取るで済むものではないな」


「だから、ハインリッヒが任命されたのよ。若い上級大将なんて、泥を被せるには最適でしょう? ただでさえ、ローマルク王国防衛戦で、戦線を大幅に押し上げることに成功しているもの。妬まれていても不思議ではないわ」


「お前も、若い上級大将のハズだがな……如何せん、影響力が違い過ぎる。今や、表立って、お前にケンカを売れる人間は少ないからな」


「売られたケンカは、買う方針なのだけど。最近は、全然ね。偉くなってしまったのも、原因だと思うわ」


「上級大将で、国民の人気もある。賢明な者なら、余計ないざこざを起こそうとは思わないだろう。はぁ……性格さえ、まともなら、素直に尊敬できるのだかな」


「失礼ね。性格も、まともよ。おかしいと思ったことなんて、一度もないわ」


 ミカエラは、すぐに反論をする。

 対して、ハインリッヒは、無視をして歩みを進めていた。


 それから、2分後。

 ミカエラとハインリッヒは、行列に並ぶことになる。

 もちろん、前に並んでいた佐官一同は、前を譲ろうとしていた。


 ただ、時間がかかると言って、普通に断る。

 実際、参謀総長ほど、短い時間で済むとは思えなかったからだ。


「相変わらず、元帥閣下は元気ね。外の天気なんて、関係ないみたいよ。ここからでも、声がバッチリと聞こえるわ」


 ミカエラは、頭の後ろで腕を組んでいる。


 その言葉通り、現在進行形で、部屋の中からは怒号が聞こえてきていた。

 声が大き過ぎて、どのような内容で指導をされているかが、丸分かりである。

 数分後には、部屋から走って逃げていく佐官の一人が見えた。


「中々、懐かしい光景だな。私も佐官の時は、よく走っていた」


「あら? 私は、走っていなかったわよ。ただ、一度入ると、一時間くらい出ることができなくて嫌だったわね。大体、途中から、お説教に変わるのよ。中々、堪えたわ」


 ハインリッヒとミカエラは、昔話をしてしまう。

 それほど、記憶に残っていることであった。


 そんなこんなで、佐官時代のことを話していると、ついに、二人の出番がくる。


「ハインリッヒ上級大将、ミカエラ上級大将、入ります」


 緊張した面持ちのハインリッヒ。

 対して、特に思うこともないミカエラ。


 ハインリッヒが扉を開けると、


「このぉぉぉ! 馬鹿者どもがぁぁぁぁ!」


 という怒鳴り声が、すぐさま二人を襲う。

 同時に、机の上に手の平が振り下ろされる。


「元帥閣下。そんなに大きな声ばかり出されていると、血管が切れて死にますよ」


 ミカエラは、涼しい顔で怒声を受け流す。


「お前がそれを言うか! 散々、人を怒鳴らせているのは、お前だろう! まったく、いつになったら、素行を改めるのだ! もう、上級大将なのだぞ! 落ちつきというものを身につけないで、どうする!?」


 部屋の主は、憤慨している。


 ミハルーグ帝国軍総司令官である彼の名は、グレゴール・フォン・シュトルム。

 白髪混じりの50代の男性だ。

 精悍な顔が示す通り、様々な戦いを駆け抜けてきた猛者である。


「私は、昔から落ちついていますよ。元帥閣下のほうこそ、静かに指導されたほうが良いと思われます。怒鳴るほうが疲れませんか?」


「余計なお世話だ! ふぅ~! ミカエラと話をしていると、疲れてくるな! ハインリッヒ、ベーリスからは聞いておるが、もう一度、報告しろ!」


「はい」


 ハインリッヒは返事をすると、事細かに説明を始める。

 グレゴールはというと、腕を組んで、目を閉じ、黙って聞いていた。

 説明が終わると、口を開く。


「……大体、分かった。ただ、独立の気運が起こるのは良くないな。エザイアの二の舞だけは避けねばならない。独立をさせるとしても、徹底的にエンバニア帝国を削った後だ。撤退するとなった場合も、ローマルク王国の国民はこちらに連れてこい。あとは、村落なども、焼き払えば、エンバニア帝国が得るものはないだろう」


 エンバニア帝国が、ローマルク王国を占領したとする。

 だが、そこに、人はいない。

 しかも、食料、建物を始めとしてなくなっている。


 井戸には、毒が投げ入れられ、飲めたものではない。

 穀倉地帯は、焼き払われている。

 端的に言うと、焦土になっているというワケだ。


「もちろん、分かっています。上手くいかなかった場合に備え、準備も並行して進めている状況です。私が考えているのは、我が帝国に友好的なローマルク王国を作り出すこと。それによって、短期的ではなく、長期的なエンバニア帝国への壁とすることです」


「上手くいけば、今の方針よりは良いだろう。もう一度言うが、エザイアの二の舞にだけはするな! 賢いお前たちのことだ。それくらいは分かっているとは思うがな! 俺からは、もうない! 陛下のもとに行き、さっさと説明してこい! 独断専行をして既成事実にできるかは、お前たちにかかっているからな!」


 グレゴールはそう言うと、シッシと手を振る。

 ハインリッヒとミカエラは、礼をすると、部屋を出た。

 次の目的地に向かって、通路を進む。


「意外と怒っていなかったわね。もしかして、元々、私たちと同じ考えを持っていたのかしら?」


「そうかもしれない。ただ、中々、実現するのが難しい案だからな。ミハルーグ帝国軍はもとより、文官連中も、捨て石案を支持している。そちらのほうが、短期的に資源を節約できる」


「エンバニア帝国も、それなりにキツイだろうけど、我が国も、それほど余裕はないわ。ローマルク王国よりも、アミーラ王国に支援をしたいと思うのは当然だわ。資源も、労力も、お金も、無限ではないもの」


「その点を考慮しても、ローマルク王国が自活できるようになってほしい。ミハルーグ帝国からの支援なしで、エンバニア帝国と対抗してくれるのが理想的だ。まぁ、さすがに難しいとは思うがな。あとは、ローマルク独立国の問題もある」


「フフフ。前途多難ね。モーリス新国王には、頑張ってもらわないと。そうでないと、今あるローマルク王国の領土が、焦土になってしまうわね」


「やりたくはないがな。軍人が戦場で死ぬのは、しょうがないと言えば、しょうがない。ただ、民間人に苦難を強いるのは間違っている。他国とはいえ、国民を無理矢理連れてくるなど、おかしい」


 ハインリッヒは、かなり渋い顔をしている。


「戦いは、厳しいものね。戦争という機構それ自体が、意思を持っているみたいよ。始めてしまえば、止めるのは至難の業。我が帝国が本格的に巻きこまれないためにも、ローマルク王国には、頑張ってもらわないといけないわね」


 ミカエラの表情は変わらない。

 軍人としては、高位と言える上級大将。

 それでも、戦争という機構を前にできることは限られていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ