マギ国王
「カイト、やっと来たか。待っていたぞ。」
深みのある人生を重ねてきたもののみが出せる落ち着いた声が部屋にこだまする。
カイトにとってはどこか懐かしさすら感じさせる声であった。
「お待たせしました。」
はっきりと認識したはじめての「父親」の声に威厳を感じながら返事をし、その顔をみようと頭を上げる。
するとそこには、
「お、おじさん!?どうしてここに?」
「おじさんだと!ワシはお前の父親ではあるが、まだおじさんという年齢ではないわ!!現役バリバリだぞ!」
「あ、いえ、申し訳ありません。」
(一体どうなってるんだ……あの顔、おじさんそのものじゃないかっ!)
カイトが見たこの世界での父親であり、王は、カイトが元いた世界での育ての親であった「おじさん」こと三井弥次郎と同じ顔であった。少し違うとすれば、三井の方がスタイルが良く、王は腹に肉が付いている程度であろうか。
「おじさんとは何事か。カイトには一度ワシがいかに現役か話を聞かせてやらねばいかぬようだな。……よく聞け、昨夜もお前の母上とは大変に……」
「王様!!ゴホッ!!」
混乱するカイトをよそに、おじさんと言われたことに怒っている王は何かを言おうとするが、扉の近くに控えるメイド長が大きな咳とともに王の話を妨げる。
それにより王も冷静になり、少し顔を赤らめる。
「すまなかったな。少々取り乱した。今回は大切な話があるのだ……それは、お前にこのマギ国を出て、旅をしてほしいのだ。お前も知っていると思うがいま我が国は苦境にある。我らの国もあるこのイヅル島が10カ国に分かれ、中央に位置するヨゴダ王国が盟主として君臨するようになってから300年が経とうとしている。平和なのはいい。しかし、もともとの米穀経済から貨幣経済へと移り変わり10の国にも格差が広がり始めた。6番目の広さ程度の領土の我が国は、豊かな食物こそあるが資源がない。このままでは国が危ない。」
「そこで、お前には各国を巡り、我がマギ国が今後どうあるべきか、なにを成せば存続できるのかを考えてきてほしいのだ。なに、ワシもお前と同じ年の頃に旅をし、お前の母と出会ったのだ。……必要なものは揃えてやろう。しかし最低限のな。さぁ、決めればすぐに行動するのが男だ。旅の従者はすでに決め部屋に待たせている。会って行き先を決めてこい。このマキ国の未来を頼んだぞ。」
王はここまでの話を決してはやる事もなく、淡々とそれでいて、数万人にの群衆の前で話すかのように威厳に満ちた口調でカイトに告げた。
その威厳に圧倒されたカイトはなにもいえず、頭を下げているしかなかった。