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第三章 『殲滅連鎖の氷使い』

 僕はふと、アクウィールの名を呼ぶ。

 すると、八歳程度のことが再び姿を現す。

 

「僕をこう思わせる事が試練というわけなんだね」


『そうだね。最後に説明。ボルスは隣にいるべきはずの少女を失って、それを探している。この世界はその思い出や空想が混ざって創られたんだ。そして、ボルスは躊躇い無く世界を終わらせるよ。ちょうど遊び終わったレゴブロックを壊すみたいに簡単に』


「だからその前に終わらせる。世界の救済は二の次だけどね」


 僕は言い終えてから考えるように顎に手をおく。ふと、疑問に思う事があるからだ。

 

「なあアクウィール。一ついい?」


『なんだい?』 


「君って何物? 神獣候補としか聞いてないけどそもそもそんなカテゴリーに収まらない者に思えるんだけど」


『なるほど。君も考えるようになったと言う事だね。言うなればこの世界に一番詳しいただの旅人ってところかな』


「意味わかんない。まあいいや。速く戻ろう。君は僕の剣で友だ。それは変わんないんだから」


 僕が指を鳴らすと体が粒子となって消え始める。

 僕は栞を救う。

 それだけのために神を殺す。

 そう、深く誓うのだ。

 

 そして、僕はノエルの作り出した世界から再びハルシオンへと戻ったのだ。



************


 迷焦が消え、住人がアクウィールだけとなった世界は静寂に包まれている。

 そんな中、アクウィールはそれを断ち切るようにクスリと笑う。


『頼むよボクの眷属の一人。来るべき戦いにはより多くの人材がいる。君の目的はまだまだ先なのだから。そうだろうボルス」


 子供とは思えないほど冷徹な声は静寂の空間に溶けていった。

 



************


 

 ヒサミが死んだ。

 ラルが悔しげに吐き出したその言葉に込められた怒りはすぐにユーリに伝染する。

 瞬く間に我を失い、怒りと殺意の衝動に駆られたユーリの動きはあまりにも垂直な力任せの攻撃となっていた。

 一撃一撃を全力でスイングしているため、隙が多すぎる。

 そのためダストレーヴの二人には格好の的だっ。

 そして、ユーリは知らない。

 魔術を。

 リオンの透明な糸、“モイライ”は運命を司る糸だと言う事を。

 体に刺さった状態で糸が切られるとその者は死ぬ。マイナーな神話の要素を解釈した武器。

 だからこそリオンはたださせれば勝ちなのだ。

 ラルやクレオス、その他ボルス教の人たちもなんとか押しとどまっている感じたであり、ユーリを失えばその流れは途端に狂う。

 リオンは迷焦の奇襲も考えたがそれはすぐに放棄した。

 情報では身内を見捨てないのがこちらの迷焦であるらしいとリオンは理解している。

 だからここまで出てこないという事はこの場にはいないと。

 そう判断する。

 だからこそ奇襲の線をリオンは頭放棄していた。

 そして、それが間違いであったと一秒後にリオンは後悔する。

 なぜなら。


「眠れ」


 短く発せられたその言葉の刹那、リオンの足下の岩床。隙間など無く、頑丈そのものであるそこから本来あってはならない透明な何かが突き出る。

 それはリオンの腹部を思い切り強打し、小さな体が簡単に跳ね飛ぶ。

 警戒の外であった事も重なり、リオンの体には落雷に撃たれたような激痛が走る。

 更にリオンの着地を阻害するよう計算された何かが再び突き出てくる。

 だが、リオンの対応力は高かった。

 糸であるモイライをまとめ、クッションにしてダメージを軽減、次なる何かをモイライで切り裂く。

 砕け散った透明な何かの残骸は放射状に拡散し、一瞬のみのダイヤモンドダストを作り出す。

 

「これは氷。つまりこれは」


 リオンの視線は消え去った純白のカーテンの奥、紺碧と呼ぶのがふさわしい海の壮大さを体現した剣を構える少年、次に氷付けされた下位戦闘員たちを一瞥する。

 一瞬の内に状況が変わってしまった様に、もはやリオンは笑うしか無かった。

 

「なんですかそれ。前より凄いじゃ無いですか。これはどう言う事ですか無道迷焦」


 大聖堂であった場所は血と死体によって戦場に変わり、今は氷の柱が散乱している。

 一見クリスタルの洞窟を連想させる神秘的なものだが温度は下がる一方だ。

 氷の世界と化す大聖堂を迷焦はゆったりとした足取りで歩き出す。

 迷焦の動作自体には違和感が見えないが、そもそもここは戦場だ。

 なのに迷焦は顔色一つ変えない。

 ここにいる者が恐れるに足りないと証明しているのだ。

 

 リオンはそこで確信する。

 ここで倒さなければ殺されると。

 頭より先にリオンの腕が納刀状態の短剣に伸ばされる。

 しかし、それよりも速くリオンの体に氷の巨腕が巻きつき、そのまま顔を残して凍結させる。

 恐るべき速度だった。

 まさに一瞬。

 これまでとは桁違いの迷焦の強さに圧巻、もしくは恐怖したのかリオンを含め、誰も口を開けない。

 と、そこで動けないリオンの方向に闊歩する迷焦が白い吐息を漏らす。


「いまの避けれたんじゃないの?」


「呪われた力ってのも不便でね。それに僕らの魔術はガブリエルたちほど優秀じゃない。消耗が激しいんだよ」


「ならいいや」


 なんとか喋ったと頬に霜をつけるリオンを攻撃するでも無く迷焦は素通りし、ただ一人、この場での敵の前で立ち止まる。

 

 零夜。

 ダストレーヴの数少ない純粋な破壊担当で殲滅力ならばもう一人の迷焦の次には上であろう疑似創造書庫アートアーカイブ)を持つ者。

 今は雷を纏ったように黄金のライトアーマーが装着されており、それが時折青白い電流を流す。

 まるで雷公。

 腕に携えられた雷霆と呼ばれるゼウスの矛が更に強烈に、放たれた狂獣のように雷鳴する。

 

「今度は殺す」


「の、ようで。劣化品かと思ったけどそんな事も出来るんだね。まあ邪魔なら排除するだけだけど」


 迷焦は矛に対して剣は不利だと判断し、アクウィールを槍の形状にさせ、眉毛、肩、腕や所々の箇所が氷に包まれ装飾に近い形で姿を変える。

 その姿は以前、爆音寺との戦いで見せた物であった。

 迷焦は氷のように冷たい瞳で零夜を突き刺し、氷槍を上段に構える。


「どく気は?」


「あるわけないだろ高ステNPC」


「なら......容赦しない」


 後半の声は迷焦の初動による疾風に掻き消され、次に金属が破裂したような破壊的な音が大聖堂に炸裂する。

 莫大で生命を奪う地獄の氷河と世界をも焼き払う神話の叡智。

 二つの破格な力が爆発し、互いにせめぎ合い、周囲を飲み込みながらそのエネルギーが増大する。

 一合撃ち合う度に建物が崩落し、爆撃の投下のように連続的な閃光とけたたましい破裂音が全てを埋め尽くした。

 迷焦が無限の如く生成する氷山を零夜の雷光が消滅させる。

 互いに一歩も譲らない攻防は次第に均衡を崩す。

 この戦いは迷焦が生成した氷を零夜が破壊する形となっている。

 やはり先に攻撃する方が有利となるのだ。

 更に迷焦の氷の生成速度は今もなお上がり続け、じわじわと勢力図を変えていく。

 

 そして、その差が決定的となった瞬間。

 迷焦が動く。

 これまで表面から消滅させられ、攻撃の一手となり得なかった氷山の数カ所から触手のように氷の柱が零夜を迎撃し出したのだ。

 当然、避けるために零夜の攻撃ペースは各段に落ち、それが勝負を分ける。

 白狼の牙に零夜の体は鮮血と共に宙を舞う。

 

「まじ......かよ。ゼウスの雷だぞ。なのに、かよ」


 ズタズタになった石床に叩きつけられ、零夜は吐血と驚愕を混じり合わせる。

 

「いきなり強くなって......神でも倒す気か?」


「まあガブリエルを殲滅するくらいには意気込んでる。だから君との戦闘は結構辛いものだったよ。ちなみにほめ言葉」 


「ガブリエルを殺しにか」


 石床に仰向けになる零夜は少し考えてから傷だらけの腕で雷霆を掴むと、それを鞘に納めた剣の状態にさせ、通り過ぎようとする迷焦に放り投げる。

 片手で掴む迷焦に零夜は息苦しそうに言葉を吐く。


「取りあえず利害は一致してるんだ。予備にでも持っとけ」


「NPCに最高級武器を与える馬鹿プレイヤー。うん、大事に壊さしてもらうよ」


 これも迷焦なりのほめ言葉。

 なのかもしれない。

 廃墟一歩手前となってしまった大聖堂を見渡し、ヒサミがいない事で察した迷焦は悔やましい顔をする。


「栞を救出のち、仇はとります。殺す。だから行ってきます」


 左右に剣をさす迷焦はガブリエルの本拠地へ行こうと歩み始めたその時。


「お待ちください迷焦殿! 我々はまだまだ任務を果たしてはおりません」


 ボロボロの姿の大司教がこちらに向かってくる。


「ボルス神話には続きがございます。この世界を創造したボルス様は

『僕は世界を壊す強さよりただ一人を守れる力が欲しかった。一人のために手に入れた強さも僕は手放したかった。

 僕を殺せる者がいるのなら殺して欲しい。延々と続く時を終わらせてくれる人が現れる事を僕は祈る。

 ただしそれが出来るのは僕と同じ顔の者だけだろう。なぜならそれが運命であるからだ。

 まだ僕が生きていてこの世界へと降り立った時、僕がアダムであり、リリスが見つけ出せぬならイヴを創造するだろう。それでもイヴはリリスじゃない。だからこそ物語に終わりを告げさしてくれ』

つまり、我々は器であるあなた殿がボルス様に終止符を打ってくださるよう手伝いをするのが役目。それこそがボルス教の存在意義です。ですから!」


 最終試練とは迷焦が神の人生を終わらせるためのものだったらしい。

 ボルス教がチート能力者を毛嫌いする理由はそれが器では無いため、神の手を煩わせるゴミでしか無かったというわけということのようだ。

 そして、大司教は鬼気迫ると言ったように懇願する。

 が、それを迷焦は片手で制する。


「大丈夫です。それに存在意義が必要なら民間人の保護なりなんなりしてください。足手まといはごめんです」


 返答も聞かず、迷焦は大聖堂から出る。

 と、そこに戦い好きな野郎が迷焦の前に立つ。


「無事だったの爆音寺」


「おうよ。むしろ全く暴れたりねえよ」


「なら一緒に天国まで行く?」


「それが雲の上の天使野郎の元ならな。ちなみに生き方はどうすんだ?」


 迷焦たちに翼は無い。

 風魔法も使えない。

 でも、


「階段なら作れるよ」


 迷焦は手を前に出し、魔法を使う。


創造起動アートトランス)・ザ・ステア」


 周囲の光を微かに屈折させ、透明な石板が地面から少し浮いた場所に出現する。

 

「これを繰り返せばいい。行くぞ天界まで」


 二人の暴れん坊は空を駆け上っていくのだった。






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