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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
4章 世界は誰が為に在る
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4-5

 ゲーレンからモルデカイへの旅の行程なのだが、本来は、卯都、辰都、巳都、午都を順番に通って未都モルデカイへ至る道がある。それは円環街道と呼ばれ、各都を繋ぐ主要街道だ。

 円環街道は、冒険者ギルド先導の元で三十年の歳月を費やして造られ、世界初の十二都が協力した一大事業として有名らしい。文字通り世界の架け橋として繋がれたその道は、まさに世界の大動脈として要をなし、それを提案し、労働力の提供と共に多額の資金を出した冒険者ギルドは、名実共に世界に無くてはならない物として認識された。


 そんな話を聞き、素直に千香華を賞賛した。


「凄いじゃないか! じゃあイグニットは偉人として名を連ねているんじゃないか?」


「そんな事有るけど、無いよー。俺はただ各都へ行って“説得”して周っただけさー」


 今千香華は、銀髪の青年姿なので一人称は『俺』だ。そんな千香華は、照れ笑いしながらそう話す。しかし“説得”か……それは脅迫ってルビが振られて無いよな? 一抹の不安を覚えるが、本当に凄い事なので良しとしよう。


 そんな円環街道だが、今回は通らない。千香華の話によると、卯都ウルムから未都モルデカイまでどんなに急いでも四ヶ月は掛かるとの事だ。今回はそんなに時間をかけていられない。何故ならば、セトの願いである移民の受け入れには、タイムリミットが存在する。

 この世界の時間で半年以内に件の世界は崩壊を始める。それはその世界の神の意地……創造主に対する創られた神の反逆。しかし、その世界に生きる者達を巻き込むのは忍びない。そこに管理官であるセトが手を貸した……それが異世界移民である。

 異世界移民の中で“エルフ”とドワーフ”の受け入れ先に選ばれたのが、俺達の世界【イデアノテ】。八種族のうちの二種族、他の六種族や魔物、動植物は別の世界にそれぞれ受け入れの依頼が行っているようだ。

 もしも、受け入れ先から断られた場合、その種類の生き物は行き先を失い、半年後の崩壊に巻き込まれる事になるだろう。見た事も無い他の世界の者とはいえ、見捨ててしまうのは間違っていると思う。だからこそ急がねばなるまい。


 この世界は独楽の様な形状をしている。真ん中に突き立つ柱が、まるで独楽の軸のようになっている。柱の周りは灼熱の砂漠でとても人が住めるような環境ではない。逆に外周部に向う程、寒暗くなっていく。人の生息圏は中央部と外周部の間、ドーナツのような形状で存在している。

 十二種族の都は、零時の方向をとして一時がうし、二時がとらといった具合に存在している。猫種族だけは、特定の都を持たない……隠れ里があると噂を聞いたことがある。

 まあ、それはさておき……今回取るべき進路は、円環街道のように円を描くように移動するのではなく。一直線に砂漠の近くを通り未都まで行く、という普通なら使わない道である。……というか道すら存在しないのだが。『急がば回れ』という言葉があるが、今回は人目がある所では使えない方法で移動するので、どちらにしても街道は使えないのだ。



 現在位置は、卯都と寅都間の円環街道から中央部へ入り込んだ、人里離れた草原の真ん中だ。人気は無く、ここなら良いだろう。

 俺は本来の獣の姿に戻る。骨や関節は異音を奏で、筋肉は千切れ適した形に修復される。着ていた服は破けて、コートは首周りに、ズボンは腰の辺りで襤褸切れの様になって巻きついている。

 今回イデアノテに戻ってきて、初めて姿を変えた時は、服が破れてしまった事に慌てたが、そこはセト特製の服、獣人型になったら勝手に修復され、元通りという謎仕様だ。これって神器クラスじゃねぇのか? 一々脱がなくて良いし、全裸登場なんて事にはならないから助かっているがな。


「千香華! 乗れ」


 早く着く方法……それは俺がこの姿で一直線に駆け抜ける。ただ、それだけだ。幸い今回はあまり能力の低下が起こっていない。たぶんなのだが、仮にも町を救った英雄として信仰を集め、千香華が頑張ってギルドの地位を確立してくれたので、神力が増えた影響だと思う。何せ二人で一つの神力を共有しているようなものだ、どちらが信仰されても変わりない。千香華の物は俺の物!

 まあ兎に角、能力の低下が少なかった事と、この姿の方が狼としての特性が生かされるという事が理由だ。狼は本来、持久力に長けている。獲物を追いかけ何日も走り続ける事が出来るといわれている。その特性がこの姿だと発揮出来る。食べ物も食べず、排泄もせず、昼夜問わず走り続けられる走破力! 獣人型だと持久力はクソみたいなものなのに……。


 何時まで経っても千香華が乗ってこない事に訝しく思い、振り返ると千香華は何かに悩んでいるようだった。


「どうしたんだ? 何かあるのか?」


「んー? いやね、ケイは姿変える時、何にも言わないのかなーって思って」


 は? 意味が解らん……。


「ほらー。HE☆N☆SHI☆N! とか、トラ○スフォーム! とか蒸○! とか一杯あるじゃん?」


「ねぇーよ!」


「えー! つまらん! つまらんですよ! コン○イ」


「誰がサイ○トロンの隊長だ!」


 くだらん事で時間使わせやがって!


「ハッ! 獣型だから、デストロ……うひゃあ!」


 これ以上言わせてると面倒な事になりそうだったので、千香華の首元を口でくわえて自らの背中に放り投げた。


「いいから行くぞ! しっかり捕まってろ」


 それだけ言うと俺は走り出す。背中で千香華が「うわああああ!」と叫び声を上げているが、まだまだ序の口だ。俺は更に速度を上げる。背中の毛並みは悪くないし、服の残骸の襤褸切れがあるので、捕まる所もある。乗り心地は悪くないはずだ。まだいけるかな? そして更に速度を上げた。

 ……あれ? 千香華の声が聞こえない? 慣れたのか? 俺は走りながら首だけ後ろを振り向く様に背中を見る。そこには顔を真っ青にして口から泡を吹く千香華が居た。


「おい! 大丈夫か? 何があった?」


 この辺りにはまだ危険な魔物などは居なかったはずだ。一体何があったと言うのか……。フラフラなりながらも千香華が口を開く。


「こ……殺す気……なの? 速すぎるよ……風圧で息が……」


「あ……」


 そこまで考えて無かった……俺は問題ないが千香華にはきつい風圧だったらしい。肉体的強度も違うしな。

 あれ? でも……。


「すまん。大丈夫か? でも理術で風圧を防げば良かったんじゃないのか?」


「あ……」


 まったく……千香華は何時までも千香華だって事か? 自分も失念していた事を棚に上げて俺は、深くため息を吐くと再び千香華を背に乗せて、モルデカイに向って走り出すのだった。



挿絵(By みてみん)




 少しでもイメージ出来る様に地図を描いてみました。

 線が今回圭吾と千香華が通る道です。

 円環街道は“円”となっていますが真円ではありません。各都を通る為、曲がりくねっています。

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