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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
3章 感じるな、考えろ!?
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3-13



 今のところは全て順調だ。冒険者の中から数名選別して貰い【看破】と【理術】を教え、実際に仕事で使い始めている。俺と千香華(イグニット)の能力は、【看破】されても大丈夫なように、【能力改竄】という怪しげな名前の技能を設定ノート(イデアノテ)で創り出し、誤魔化している。

 やはり懸念した通り、理術には“適性”というものがあり、全く使えない者は居ないが、その行使に少なくない影響を与えている。しかし、一概に全適性を持っている方が有利かと言えばそうではないようだ。

 属性の少ない方が何故か詠唱なしだったり、鍵言なし発動が得意だったりする。主に自らの身体に直接影響がある理術に限られてはいるのだが……その殆どが、感覚的に発動している様だ。


 それはそうとして、中級と上級の理術も開発された。これは、俺とイグニットで開発してまだ誰にも教えていない。まだもう暫くは教えない予定だ。何せ中級は範囲の拡大で、上級は威力の向上となっている。まだ理解度が少ない段階では、危険だろうと二人で判断した。

 名前は既に決まっている。今回も俺が考えた。理由は言うまでも無いだろう。


 中級は範囲の拡大。

 【火】は“火壁”文字通り火の壁を作り出す。

 【水】は“水壁”火壁の水版。

 【風】は“旋風”小さな竜巻だな。

 【雷】は“雷界”周囲を電気のフィールドで覆う。

 【土】は“土崩”地面を砂のように脆くして、相手を引きずり込む。蟻地獄のようなイメージだ。


 上級は威力の向上。


 【火】は“火炎球”単純に込める理力が多く、火の温度が高い。

 【水】は“水激流”水量が増えるのではなくて、水圧が高い。最大まで絞れば金剛石でも切れる! ……かも知れない。

 【風】は“暴風弾”風が圧縮した中で暴れ回っている。まるで小さな台風だ。

 【雷】は“雷電球”触れるだけで黒焦げになりそうな程の、高い電圧の球だ。

 【土】は“土塊撃”ただの土の塊と侮る無かれ。高い理力で圧縮された土は、質量が全く違う。圧倒的な質量の衝突は危険極まりない。


 俺が考えるのはここまでだ。あとはオリジナリティ持たせて頑張ってくれ。

 俺も千香華も詠唱も鍵言も本来は必要ないしな。名前付けること自体が、俺には余り意味はないけど、指針が在ると無いでは、後々の発展に違いが出てくると思うしな。



 さてと、書類も纏め終わったし、そろそろ寝る事にするかね。俺は殆ど意味を成していない眼鏡を外し机の上に置いた。この体になってから、視力は良くなっているので必要が無いのだが、書き物する時は必ず付けている。習慣って怖いな。


 書類仕事で凝り固まった体を解す様に、ゴキゴキと関節を鳴らしていると、扉がノックされる事無く開かれる。

 俺の部屋にノック無しで入ってくるのなんて千香華しか居ないことは解ってるので、振り返りながら入ってきた人物に声を掛ける。


「イグニット。ノックぐらいしてから……!?」


 そこには、千香華の姿をした千香華が立っていた。ああ、紛らわしいな。地球に居た頃の千香華の姿だ。最後に見た時よりも若干、若い頃の姿に見える。そこまで昔では無いのにな……酷く懐かしく思えた。

 千香華は、悪戯が成功した時に良くする笑顔で、屈託無く笑う。


「にひひ、どう? 驚いた? この姿は久しぶりだよ。おかしい所とか無いー?」


「ああ……驚いた。どうしたんだ?」


「久しぶりに見た可愛い千香華ちゃんの姿だよ? もっと何か無いの? 喜んでいいんだよー」


 俺は「はいはい」と言いながら千香華の頭を撫でる。少し不満気な千香華の顔に少し噴出しながらも話を促した。


「本当にどうしたんだ? 突然その姿になって……」


 今の千香華の姿は、多分俺達が出会って間もない頃の姿だ。長めの黒い巻きスカートに夏用の白いシャツを着て、長い髪を結い上げている。


「ケイはこの服装好きって言ってたよね? 覚えてるかな?」


 俺は頷き、千香華をじっと見つめ先を促す。


「ふぅ……あのね。ケイ無理していない? こっちの世界に来てから、少しだけど、出会った頃の雰囲気に戻ってるよ? 感情を押し殺している気がする。ケイって本当は涙脆いよね? もっと感情豊かに……楽しそうに話しするよね? この世界に来た事を後悔してる?」


 千香華は心底心配そうな顔をして、そう言った。

 ……確かに俺は昔から喜怒哀楽のうち“怒”以外はあまり感情を動かす事は無かった。他の感情は“演技”のようなものだった。よく動く感情の“怒”に任せよく喧嘩した。当然周りから人は消えていく。たまに寄ってくるのは、功名心に駆られる奴か、バトルマニアな奴等だけだった。

 このままでは駄目だと、良く読んでいた小説の登場人物から、真似た感情を演技するようになった。表面上は人付き合いも出来る様になった。そんな時に会ったのが千香華だった。


 千香華は感情豊かな女性だった。気分屋だがドライ。ぐうたらかと思えば行動的。薄情な発言をするが本当は情に厚い。しっかりしてる様で粗忽。構って欲しい時は構えと言ってくるが、構い過ぎると逃げる。まさに猫みたいだった。

 俺は興味を持ち、付き合うようになった。

 千香華には、俺がしている“演技”は直ぐにばれた。その度に口喧嘩する事になった。理論でしか話せない俺は負ける。感情の無い訴えは相手には伝わらない。煮え切らない態度は逆に相手を怒らせる。

 口喧嘩するのは苦手だ。相手が男で、殴り合う気があるんなら、拳で黙らせる事も出来る。しかし女は殴れない。「何があっても女子供に手をあげるな」は親父の教えだったか? 相手が好きな女なら尚更だ。しかし、その度に俺の感情はほぐれていった。今思うと俺は、逃げていただけだった。小さな頃から物分りの良い子供だと言われていた。真剣に相手とぶつかる事も無い。だから感情が育ちきっていなかったのだろう。

 千香華に会ってから、楽しい時を思いっきり楽しみ。嬉しい時は素直に喜び。悲しい時は大いに泣いた。


 いつの間にか俺は涙を流していた。感情の制御が出来なかったのは、神の特性と極端化の影響だったのかもしれない。しかし、それだけが理由では無かった。俺は辛かったのかもしれない……この世界を創ってしまい、その責任感から常に気を張り続け。今度は“怒”の感情さえも押さえ、演技していたのかもしれない。


「私達二人で創った世界だよ。ケイは頑張りすぎ! 責任も二人で半分だよ? もっと楽しもうよ。折角の異世界だ! もっと無茶しよう! 神である前にケイはケイだよ」


「ああ、そうだな……ありがとう。直ぐには無理かもしれないが、俺も楽しめるようにするよ」


 俺は未だに半べそを掻きながら、千香華にそう告げた。


「そうかそうか。んじゃ今日は久しぶりに一緒に寝ようかー」


 千香華はニヤリと笑うと、俺をベットの方に押しやる。俺は特に抵抗する事も無く一緒のベットに入った。何故か昔に戻ったような気持ちになりドキドキしたが、特に何もする事も無く、千香華は俺の頭を撫でながら隣で寝に入る。少し残念な様な気もしたが、堪らなく心地よい。俺は今、癒されているのかもしれない。

 少し“うとうと”し始めた時に唐突に千香華がこう言い出した。


「あのね、ケイ。最近嫌な予感がするんだよ。何がどうって言うのは解らないんだけど……もし二人の内、どちらかに何かあっても、たとえ一人になったとしても、このギルドを守っていかなきゃいけないと思うんだ……」


 一旦言葉を切った千香華は、少し明るい声で続きを話す。


「千香華ちゃんとの約束だぞー。ケイは優しいから、人と関わり過ぎているこの町を見捨てる事なんて出来ないと思うけどねー。まあ……私はやばくなったら、さっさと逃げるけどね!」


 ああ、そうしてくれ。俺の居ない所で無茶ばかりしそうだからな……そう言おうと思ったが、心地よさに負けて俺はそのまま眠ってしまっていた。




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