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“風弾”の派生は、風を纏い速度を爆発的に高める術だ。……と言えば聞こえは良いが、実際は圧縮した空気を、一気に開放する事による強制ブーストである。
例えば自らの足の裏に術を発動して、急加速をしたり、側面に発動して無理やり曲がったり等、機動力を上げる事が出来る。攻撃時にも反作用を用いて攻撃の威力を飛躍的に高める事が出来る理術になった。
それなりに汎用性があり、使い勝手の良い理術のように思えるが、実は欠陥がある。被術者の肉体に多大なる負担を強いる……物理的に。衝撃波で無理やり体を動かす様なものなので、貧弱な者が使えば骨が折れたり、関節が外れたり、急激な制動で平衡感覚を失ったりとリスクだらけである。
「うおおおおっ!?」
バシュン! という音と共に、マーロウが壁に突進していく。……いや突進してる訳では無く、勢いを付けすぎて止まる事が出来ないんだろうな。あっ! そのままぶつかった。
「マーロウさん! 大丈夫ですか?」
ヨルグが慌てて駆け寄る。マーロウは、結構な勢いでぶつかったのにも関わらず、平気そうだった。
「これはおもしれぇ! こうか?」
今度は先程より少し控えめの『バシュ!』という音がして、マーロウの体が高速移動する。幾度と無く空気が破裂する音が聞こえ、マーロウが部屋の中を縦横無尽に駆け回る。というか壁も天井も関係ないな……。
「そして! ……こうだな!」
一際大きく破裂音が聞こえ、マーロウの肘の辺りから空気が噴射されるのが見える。俺にマーロウの拳が迫った。
おお? いきなり使いこなしてやがる。しかし、直線的過ぎるな。ダッキングで攻撃を避け……られない! マーロウの腕の側面から、小さく『ボボボッ』と空気が破裂し、拳の軌道が変わった。
ガシッ!
結局俺は、腕を上げガードする破目になった。くっそ痛ぇ! 一応俺は神だぞ? 拳を振るうなんて! 何てことするんだ! ……等とは思っていない。俺自身にもあんまり自覚が無いし、マーロウは昔からこういう奴だ。
「中々いいぞ。いきなりここまで使いこなすとは、思っていなかった」
「だろ? 俺にこの術は合っているみてぇだな」
「調子に乗りすぎるなよ? 最後、運動エネルギーが減衰して、威力が落ちてたぞ?」
お陰でガードした腕は何とも無かったが、完全に使いこなせるようになったら、結構やばいかもしれない。
「ふむ? まあ、使っているうちにどうにかするぜ」
「マーロウさん凄いです! 私では精々、移動に使う位しか出来ません!」
ヨルグはマーロウを心の底から称賛している。事実、ヨルグは器用にこなしてはいたが、マーロウ程の速度は出せず、攻撃に使おうと試してみた時は、勢い余って肩を外してしまっていた。
「よせやい。照れるじゃねぇか」
「いえ! 本当に凄いです!」
これでマーロウも面目躍如かな?
「じゃあ、今日はこの辺で……」
「あん? 二つと言っていただろ?」
ちっ! 覚えていたか。
“風弾”の応用は、圧縮する空気を薄くして、大気を切り裂く……所謂“かまいたち”みたいな感じだ。ヨルグはあっさりと習得していた。マーロウはというと、これまた吃驚なことに、四本のかまいたちを発生させることに成功していた。自分の爪で相手を引き裂くイメージで、理術を使ったら出来たらしい。
ふむ? これは人によって適性みたいなものが在るのか? 理解出来れば他のも使えはするだろうが、ここまでの適性を見せられると、その可能性はあるかもしれない。
という事は、【風】と【雷】はいけそうな気がする、とマーロウは言っていたから……“雷球”も期待出来るかもしれない。
そう思い【雷】もいこうか? と声を掛けようとしたが、マーロウの様子がおかしい。
「どうしたのですか? マーロウさん顔色が悪いですよ?」
ヨルグも心配してマーロウに声を掛けている。
「いや、大丈夫だ。ちと頭が痛いだけだ……」
「大丈夫じゃねぇだろ? それは理力切れだ。今日はここまでだな」
実際は半分切った位だろうが、その状態になったら理術を使うなと厳命している。
「これが理力切れか……こうなったら理術を使うなと説明をされていたが、それ以前に全然集中出来ないな」
だろうな……寧ろそれが狙いでもあるからな。
「二人とも今日はもうゆっくり休めよ。ヨルグも近いうちに理力切れを味わっておくと良いかも知れないな。続きは明日だ」
しかし、今日は中々有意義だったと思う。一番驚いたのは、マーロウが“風弾”の派生を使った時、無詠唱でしかも“風弾”という鍵言すら使って居ないという事だ。
俺は、初めに発動させる時に、派生と応用に沿った詠唱を考えておいて、それを教え鍵言は元のままで使うように教えていたのだが、初回の発動以降は感覚で理術を行使していたということだろう。……やはり感覚で動く奴等は恐ろしいな。此方の思惑を軽く超えてくる。
……イグニットは結局、顔を出さなかったな……俺に全部丸投げかよ!
数日かけて全ての派生と応用を教え、一応は理術の訓練は終了だ。ヨルグは全ての属性の理術を使いこなす事が出来たのだが、マーロウは結局の所、【風】【雷】以外は基本の術しか使うことが出来なかった。まあ、基本だけでも使えるようになったのは、マーロウの努力の結果だろう。理学の勉強時に、頭から湯気が上がるんじゃ無いかと心配したものだ。
この先、理術を広めていく事で答えは出ると思うのだが、“適性”というものが在る事は、ほぼ確定だと思われる。
同時進行でヨルグには、理学と理術の教育方法と、発展のさせ方を教え込んでおいた。寧ろ自分から教えてくれと懇願されたのだ。優秀な生徒で本当に助かる。
受付業務は既に後任も育っている為「本格的にヨルグには、理術部門の責任者になってもらおうと思っている」と話したら、涙を流しながら喜び「そんな重要な事を任せていただいて、感謝いたします。必ずやご期待に沿えるよう努力いたします」と言っていた。
俺の事を「“師匠”と呼ばせてください!」と言われたが丁重にお断りさせて貰った。此方としては、仕事を押し付けているだけのような感覚なのだ……罪悪感が半端無いので勘弁して頂きたい!




