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叙事詩世界イデアノテ  作者: 乃木口ひとか
3章 感じるな、考えろ!?
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3-11



「先程も話した通り【看破】は必要であれば広めても構いません。ただし今の所は、信用の足る者だけにして下さい」


 マーロウとヨルグには【看破】の概要を教え、許可の出し方も教えた。そしてギルドマスターであるイグニットからも広める事を許可する事によって、ギルドとしての体裁も整える。一応組織だから、こういうのも大切であろうと云う判断である。二人とも真剣な顔をして頷いている。


「では次に、理術についてですが、今のままではお二方には、使うことが出来ません。基本的にはこの世界の人全てが使えるのですが、この世界の理を知らないと、全く役に立たない技能です。ですから、一度理に触れて頂く必要があるのです。ケイ、よろしくー」


 俺は頷き、マーロウとヨルグの前に移動した。二人は一体何が始まるんだ? といった表情をしているが、構う事はあるまい。両手を大きく広げ、理力の波を二人に向けて放つ。これは特に何かに干渉する為の波ではなく、純粋な理力の放出で、二人が突然破裂したりする事は無い。

 因みに俺がやる理由は、千香華はまだ制御が甘くて、下手すると本当に二人が破裂する危険性がある為だ。


「ふぅ、これでいい筈だ」


「? 特に何か変わった様子はありませんが?」


 ヨルグが、首をかしげ両手を開いたり閉じたりしている。


「【看破】を使ってみてくれ。技能の所に【理術】というのが増えていると思う」


 二人は自分の技能を【看破】で確認しているようだ。傍から見ると虚空に視線を走らせ、奇妙な光景になっている。実際は意識下に表示されているから、視線を動かす必要は無いのだが……まあ慣れるまでは、ああなってしまうのだろう。


「おお! あるぞ。これで俺にも【理術】ってやつが使えるんだな?」


 マーロウは嬉しそうにそう言うが、残念な事にまだ使わせられないし、多分使えないだろう。


「残念! まだ使えませんよ? これからお二方には、圭吾先生の下で“理学”を学んで貰います」


 興味深そうに目を輝かせるヨルグと、絶望を瞳に宿したマーロウを前に、俺は意地悪そうな笑顔を作り二人に告げる。


「さあ! お前等、お勉強の時間だ」



 二時間後、耳から魂が抜けかかっているマーロウと、もっと学びたいと目を輝かせるヨルグという、とても解り易い光景が広がっていた。


「……と、此処までが基礎編だ。何か質問はあるか?」


 俺が作った教科書を見ながら、ヨルグが手を上げる。


「ん? 何だ?」


「えっと、この理術の波なのですが、人によって違いはあるのでしょうか?」


「いい質問だ。この波は、事象に干渉する事に影響は無いが、人によって違う。指紋や声紋とは少し違うが、理力は体内から引き出しているので、個人差が現れる。今の所、サンプルが少ないが全員違う筈だ」


 ただひたすら座って話を聞くのは、苦痛だろうと思い途中で理力の放出の仕方を教えた。その時に確認したのだが、理術は使う時に、理術を知るものなら感知出来る“揺らぎ”の様なものがあるようだ。

 その時に感じる“揺らぎ”が人によって違う感じがする。今まで気が付かなかったのは、千香華が使う際“揺らぎ”が起こらない為だ。予想だが、千香華は【隠蔽】の技能を持っている。それで隠されている可能性が高い。……千香華がどんどん暗殺者寄りになって居る気がする。恐ろしい。



 ヨルグが腕を組み、首を縦に振りながら言った。


「なるほど……もし理力の解析が可能になるのでしたら、冒険者の管理が楽になるかもしれません」


 おお? やはりヨルグに話を振って、正解だったか?


「この理力に反応する物質が見つかれば……という話なのですけどね」


「冒険者の識別カードでも作ろうって事か?」


 ヨルグは目を輝かせにじり寄ってくる。


「そうです! ケイゴさんも気付きましたか? 流石です! 個別のパターンが有るならば、可能ではありませんか?」


 近けぇよ! こいつ周りが見えなくなる研究者タイプだったのか? しかし、着眼点は間違っていない。


「可能だろうな。もしそんな素材が存在していればだが……だがそれを見つける為には、もっと理に対して理解を深めて行かなければならない」


「解りました! もっと教えてください! こんなに遣り甲斐を感じるのは、生まれて初めてです」


 ヨルグのキャラが崩壊してきている気がする……。ふと視界にマーロウの姿が映る。マーロウは弱弱しく手を上げて言った。


「なんか良く解らねぇけどよ……今日はこれ位で勘弁してくれねぇか?」


 弱りきったマーロウは、憐憫を誘う情けの無い声を出して、机に突っ伏した。



 それから毎日二時間の勉強が行われ、そして五日経った。ヨルグは全ての属性を行使出来る様になり、マーロウも【風】と【雷】だけは何とか使えるようになっていた。

 マーロウ曰く「一定の振幅? だっけか? それを維持するのが難しくてよ。ドパーンと放出してズガーンってやる【風】とか【雷】はやり易いんだが……」って事らしい。この感覚人間め! ドパーンとかズガーンとか誰がそんな事を教えたんだよ! イメージが乗せ易いように詠唱も考えてやったのに……。

 イグニットがそろりそろりと、俺から距離を取ろうとしている。まるで悪戯がばれて逃げる猫だな。


「イグニット!」


「あー、すみません。仕事が溜まって居りまして……また後で参ります」


 本当に逃げやがった……。


 今居る場所は、ギルドに併設されているマーロウの元家兼店の一室である。屋内でありながら元々解体場だったこの部屋は、広い面積があり、奥まって居る為、搬入口を完全に閉めてしまえば、人の目を気にする事無く理術の練習が出来る。

 今日教えるのは、基本からの派生と応用だ。


 まず“火球”の派生で体や武器等に火を纏わせる術を考えたので、それを教えた。マーロウが「昔にお前がやっていた。拳から炎が出るあれを教えてくれ」とか言うので急遽理術で再現した。制御が上手く出来ないと普通に火で焼かれるだけなので、マーロウには使うことが出来なかった。マーロウはヨルグが習得出来たのを見て羨ましそうにしていた。


 “水流”の応用で出来るのは、体内の水や血液に干渉して、治癒力を高める術である。あくまで治癒力を上げるだけなので回復理術とは言えないが、生存率の向上に役立つだろう。ヨルグは多少苦労したが、見事に習得した。やはり理学の理解度が高いだけはある。ん? マーロウ? 血流にも干渉するんだぞ? 制御出来なければ、逆流して危険な事になるのは、火を見るより明らかだ。マーロウ涙目。


「さて、今日はこれ位にしとくか」


「おおぉいぃい! 待て待て! 俺は何にも出来てない! 次は【風】だろ? どんなのだ? 早く教えてくれよ!」


 マーロウが壊れかかってる。顔を寄せてくるな! 暑苦しい!


「冗談だ。だから、もう少し離れろ」


「ふぅ……吃驚させんなよ。覚えが悪いのは申しわけねぇって思うがよぉ……なんか【風】【雷】は大丈夫な気がするんだ」


 しょうがねぇな……流石にこのままだとマーロウのやる気にも影響与えるだろうしな。


「“風弾”は派生と応用の両方いくぞ?」


「おう! きやがれってんだ!」


 ……敢えて何も言うまい。




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