第29章:偶然の出会い
十八年前、アウレリアン・コースト州、アウレリアン・ポート。
その年の秋、アウレリアン・ポートには北方から冷気を運ぶ、最初の海風が吹き始めていた。
商港の上空は、夏の日々のような澄み切った青さを失っていた。薄灰色の雲がゆっくりと水平線へ流れていき、ときおり太陽を覆い隠しては、再び淡い金色の陽光を海面へと落としていく。風は張り詰めた帆を揺らし、潮の香りと、入港したばかりの船から漂う湿った木材の匂いを運んできた。
マーチャント・キーは、いつもと変わらぬ賑わいを見せていた。
早朝から、商船が次々と停泊区域へ入ってくる。低く鈍い汽笛が空気を震わせ、その後には張り詰める綱の音、石畳の上を転がる荷車の車輪の音、そして荷役人たちが互いに声を掛け合う声が続いた。大きな木箱が船の甲板から埠頭へと運び下ろされると、すぐさま海岸沿いに並ぶ倉庫へと搬送されていく。
一角では、商人たちが東方から輸入された香辛料の価格を巡って議論を交わしていた。その近くでは、長い航海を終えて帰還した船乗りたちが、持ち帰った珍しい土産物を売ろうと奔走している。行商人たちは荷車の隙間を見つけては、焼き菓子や熱々の魚のスープ、南方の州から運ばれてきた果物を並べていた。
アウレリアン・ポートは、ノーマン帝国の交易路と遠方の海上航路が交差する場所だった。
ここではさまざまな言語が飛び交い、何千マイルも離れた土地から来た衣装を目にすることができる。時には、王都の学者でさえ一度も目にしたことのない品物が、何の変哲もなく市場に並ぶことさえあった。
この港が運んでいるのは、単なる物資だけではない。
そこには、人々の物語もまた運ばれてくる。
そして、まさにその理由から、一人の若い女性がこの場所を訪れていた。
王立港務局の掲示板の前で、アヴェリン・ダスクリンは赤いインクで押印された文書の一行一行に目を通していた。
彼女は黒いロングコートを羽織り、その下には簡素で仕立てのよい学者服を着ている。黒髪は後ろで緩く束ねられており、海風が吹くたびに数本の髪が頬へと流れ落ちた。
手には革表紙の手帳を開いて持っていた。ページの間には天文図が挟まれ、その隣にはヴァルドレン王立大学の認証印が押された記録文書の写しが数枚収められている。
アヴェリン・ダスクリン、十九歳。
この頃、彼女の名はまだヴァルドレン王立大学の学術的な廊下の外では、ほとんど知られていなかった。教授でもなければ、いずれかの学院を率いる立場でもない。アウレリアン・ポートの大半の住民にとって、彼女はただ、港務局の書類の山から何かを探し出そうとしている、真面目そうな若い学者にすぎなかった。
しかし、天文学と神秘術の研究者たちの間では、アヴェリンはすでに少しずつ注目を集め始めていた。
彼女の最新の研究は、天体の移動と法力の流れの変化との関係に焦点を当てたものだった。それは天文学、神秘地理学、そして広範囲にわたる法力の揺らぎを分析する能力を必要とする、非常に複雑な研究分野である。
同時代の学者の多くは、そうした変化は大気圏内、あるいは法力密度の高い地域に限られた意味しか持たないと考えていた。
だが、アヴェリンには別の仮説があった。
世界で発生する一部の神秘現象は、はるかに大規模な天文周期の影響を受けているのではないか。場合によっては、何千マイルも離れた複数の地域で、同時に発生する可能性さえあるのではないか。
彼女はそう考えていた。
そして、それを証明するためにはデータが必要だった。
三か月前、王立大学の図書館に保管されていた航海報告書を調べていた際、アヴェリンは偶然、海面に現れる発光現象について記された記録をいくつか発見した。
船乗りたちの証言によれば、青い光は船腹の下に現れ、ときにはまるで海底を流れる川のように、長い光の帯となって広がることもあったという。
注目すべきなのは、それらの報告が互いに異なる海域で記録されており、発生した時期も完全には一致していなかったことだ。
当初、学者たちはそれを単なる自然の反射現象だと考えていた。海中に生息する発光生物、あるいは大気中の法力の乱れが重なった結果かもしれない、と。
しかし、アヴェリンは完全には納得していなかった。
彼女は記録された日付を天文周期と照らし合わせた。そして何度も計算を重ねた末、ある発光現象が星座同士の移動周期における、同じ段階で発生しているらしいことに気づいた。
もしこの推測が正しければ、それはもはや局地的な現象ではない。
広範囲にわたる神秘的な変動の兆候である可能性があった。
残念ながら、王立港務局から提供された資料は、ほとんど役に立たなかった。
公式報告書に記録されているのは、主に船の位置、入港時刻、積荷の状態、そして航海に影響を及ぼした事故などである。大海原に現れた奇妙な光の話など、船に損害が出ない限り、記録する価値のあるものとは見なされないことが多かった。
アヴェリンはさらに一枚のページをめくった。
西アウレリアン・コーストの海域で青い光を目撃したという報告があった。しかし、記述はわずか三行しかない。正確な座標も、具体的な観測時刻も、当時の天候についての説明もなかった。
彼女は手帳を閉じた。
「まったく、時間の無駄ね」
声は大きくなかったが、近くにいた港務局の職員が振り返るには十分だった。
アヴェリンは気にも留めず、地図に挟んだクリップを直すと、停泊している船の方へ目を向けた。
あの現象を目撃した者を探したいのなら、まずは海に出る人々から話を聞くべきなのかもしれない。
その時、すぐ隣から男の声が聞こえた。
「何を探しているんですか?」
アヴェリンが振り向く。
数歩離れたところに、一人の青年が立っていた。
黒髪に日焼けした肌、落ち着いた雰囲気を宿す瞳。濃い茶色の旅装用コートにはいくつか皺があり、腰には書類や地図がぎっしり詰まった革袋を提げている。袖口には白い埃が付着していた。近くの倉庫で荷物を確認してきたばかりなのかもしれない。
学者には見えない。ましてや港務局の職員にも見えなかった。
「海上に現れる発光現象についての記録です。西方海域を航行した商船の報告書を探しています」
アヴェリンは答えた。
青年は彼女の手元にある地図へ目をやった。
「それを港務局で探そうとしているんですか?」
「少なくとも、ここから始めるべきだと思ったのだけれど」
「それなら、探す場所を間違えていますね」
アヴェリンはわずかに眉を上げた。
「随分と自信があるのね」
「実際、あの現象を目撃した船乗りたちは、港務局に報告書を書く習慣なんてありませんから」
青年は停泊中の船を指差した。
「彼らは酒場で仲間に話すんです。甲板の上で話すこともあれば、荷物が積み下ろされるのを待っている間に話すこともある。幸運の兆しだと考える者もいれば、不吉な前兆を見たと思い込む者もいます。ですが、何を信じていようと、役人に提出するために記録を残そうなんて考えませんよ」
アヴェリンは彼を見つめた。
「では、そういう話を聞きたいなら、どこへ行けばいいと思う?」
「マーチャント・キーには酒場がいくつもあります。でも、本当に面白い話を聞きたいなら、まずは『ドロウンド・コンパス』へ行くことをお勧めします」
アヴェリンはすぐさま手帳にその名前を書き留めた。
「あなたはよくそこへ行くの?」
「ええ、かなり頻繁に」
「この港で働いているの?」
「そういうわけではありません。長い航海を終えて戻ってきたばかりなんです」
「では、あなたも商人なのね?」
青年は頷き、手を差し出した。
「ジュンペイ・バイ。シュアンタール出身の商人です。今はここでいくつかの荷物を処理しているところでして」
アヴェリンは差し出された手を一瞬見つめてから、握手に応じた。
「アヴェリン・ダスクリン。ヴァルドレン王立大学の学者よ」
「ああ」
ジュンペイは彼女を見て、それから手元の手帳へと視線を移した。
「なるほど」
「何がなるほどなの?」
「港務局の職員よりも多くの書類を持ち歩いているわけだ」
アヴェリンは一瞬黙った。
「あなたは普通の商人より、ずいぶんとおしゃべりみたいね」
ジュンペイは声を上げて笑った。
「何か月も船乗りたちと一緒に過ごしていると、そうなるんですよ。話し相手がいなければ、船が港に着く前に気が狂ってしまいそうですから」
今度はアヴェリンの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。
この日初めて、彼女は役に立ちそうな人物に出会えたのだった。
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ドロウンド・コンパスは、マーチャント・キーの主要埠頭からさほど離れていない場所にあった。
酒場は濃い色のオーク材で建てられた二階建てで、正面玄関は荷役場へ続く通りに面していた。大きな扉には、ガラス面の半分が失われた古い羅針盤が吊るされている。内部の方位磁針はすでに動かなくなっていたが、店主はそれを装飾品として残していた。
窓の脇には酒場の名前が刻まれた木製の看板がある。海底に沈む羅針盤の周囲には波が彫られており、塩風にさらされて塗装はすっかり色褪せていた。
店内には古い木材と魚のスープ、焼きたてのパンの匂いが漂い、船乗りたちの話し声が絶え間なく響いていた。暖炉に近いテーブルでは数人の船乗りがカード遊びに興じている。反対側では、商人たちがヴァルドレンまでの輸送費について議論を交わしていた。
壁には古い羅針盤や航海図、難破船から引き揚げられたとされる品々が所狭しと飾られている。梁には小さな錨が吊るされ、その隣には霧に包まれた海を進む船を描いた絵画が掛けられていた。
ジュンペイはアヴェリンを連れ、窓際の木製テーブルへ案内した。
「ここに座ってください。比較的静かですから」
アヴェリンは革袋を椅子に置き、コートを脱いで背もたれに掛けた。
「この店には慣れているみたいね」
「店主はいい人ですよ。客の荷物について根掘り葉掘り尋ねたりしないし、長居したからといって追加料金を取ることもありません」
「それが良い酒場の基準なの?」
「商人にとっては、そうですね」
ジュンペイは魚のスープを二人分と、焼きたてのパンを注文した。アヴェリンは紅茶を一杯頼んだだけで、すぐに手帳を開いた。
料理を運んできたのは、中年の男だった。無精ひげに赤らんだ鼻、大きな手。スープの器を置くと、彼はジュンペイを見た。
「また新しい客かい?」
「ヴァルドレンから来た学者です。海上で起きる奇妙な現象について調べているんですよ」
店主はすぐにアヴェリンへ目を向けた。
「そいつはちょうどいい。ここには、口を閉じていられない船乗りが山ほどいるからな」
「ありがとうございます」
「礼を言うのはまだ早い。半分は作り話かもしれんぞ」
そう言い残すと、彼は喉を鳴らすような笑い声を残して立ち去った。
ジュンペイはスプーンを手に取り、スープを軽くかき混ぜた。
「オズウィン・バーリーフォード。この店の主人です。船乗りたちのことをよく知っていますが、彼らの話に少しばかり尾ひれをつける癖もあります」
「彼の話は信じているの?」
「彼がそういう話を耳にしたことは信じています。どこまでが本当なのかは、自分で確かめる必要がありますけどね」
アヴェリンは頷き、新しいページを開いた。
「それで、あなた自身は私が話した現象を見たことがあるの?」
「ありますよ」
短い返答に、アヴェリンのペン先がぴたりと止まった。
「どこで?」
「シュアンタールの海上航路の東側です。最も近い海岸から船で数日ほど離れた場所でした。月のない夜で、突然、海面に青い光の筋が現れたんです。船腹の下に長い帯のように広がっていました」
「どれくらい続いたの?」
「一時間近くです」
「嵐は?」
「ありませんでした。海はかなり穏やかでしたよ」
「天候は?」
「晴天で、風も弱かった。雨もありません」
アヴェリンは絶え間なく書き留めていく。
「光は水面に現れたの? それとも水中?」
「最初は空が反射しているのかと思いました。でも、船乗りの一人が海面近くにランタンを下ろしたんです。すると、青い光は水中に残ったままで、しかも水の流れに合わせて動いていました」
「何か具体的な形は見えた?」
ジュンペイは少し考えた。
「はっきりとは。長い光の帯が、ときどきいくつもの小さな枝に分かれていました。甲板から見下ろすと、まるで海底に小川が流れているようでしたね」
アヴェリンは顔を上げた。
「誰か、その光に近づこうとした?」
「いましたよ。小舟を出して調べようとした者が。でも船長が許しませんでした。現象の正体も分からないまま、夜に船を離れるのは危険すぎると考えたんです」
「その船長は慎重な人なのね?」
「とても。彼はよく言っていました。海は、人間がどれほど好奇心旺盛かなんて気にしない、と」
アヴェリンはその言葉も記録し、さらに尋ねた。
「現象が現れる時期に、何か決まった傾向はあった?」
ジュンペイはスプーンを置いた。
「それについては確信がありません。ただ、一つ覚えていることがあります」
「何?」
「あの夜、年老いた船乗りが、以前にも大洋の反対側で似たような現象を見たことがあると言っていたんです。何千マイルも離れた場所でね。彼によれば、その光はある特定の星座が水平線を通過する前に、よく現れるそうです」
アヴェリンは顔を上げた。
「その星座の名前は覚えている?」
「はっきりとは。彼はその海域に住む人々が使う地方名で呼んでいました」
「その船乗りを探すことはできる?」
「できるかもしれません。ただ、まだアウレリアン・ポートにいるかどうかは分かりませんが」
「名前は?」
「皆からハーカー爺さんと呼ばれていました。白髪で、左手の指を二本失っている人です。西方航路を通る船に乗っていたことがあります」
アヴェリンはその名前を書き留めた。
「ハーカー爺さん……」
「会いに行くつもりですか?」
「できるなら、実際に目撃した本人から話を聞きたいわ」
ジュンペイは声を上げて笑った。
「本当に学者らしいですね」
「どういう意味?」
「普通の人なら、面白い話を聞けば、それを覚えて誰かに話すだけでしょう。でもあなたは聞いた途端に、語り手を探して、証言を確かめて、資料と照合しようとしている」
「それが研究というものよ」
「分かっています。ただ、書類の確認にそこまで熱心な人は初めて見ました」
アヴェリンは返事をせず、記録を続けた。
ジュンペイはしばらく彼女を眺めていたが、やがてパンを手に取った。
「ああ、そうだ。もう一つ見せたいものがあります」
彼は腰の革袋を開き、何度も折り畳まれた一枚の紙を取り出した。紙の端は擦り切れ、ところどころに海水の染みが残っている。それでも、中の文字はまだ十分に読めた。
それは航海記録だった。
紙には座標や日付、航海に関する記号が書き込まれていた。いくつかの行はノーマン語で、別の行にはシュアンタールの文字が使われている。
アヴェリンはそれを受け取った。
「これは?」
「航海の途中で集めた記録です。船乗りたちから聞いた話も含まれています」
「あなたが全部記録したの?」
「全部ではありません。役に立ちそうなものだけです」
「商人にとって、こういう話は何の役に立つの?」
ジュンペイは水を一口飲んだ。
「天候や海流、危険な海域について知っていれば、かなりの金を節約できますからね。時には先人の警告の方が、新しい地図一枚よりも価値があるんです」
「では、海の発光現象については?」
「何の役にも立たないかもしれません。でも、多くの人が同じ話をするなら、少なくとも記録しておく価値はあると思っています」
アヴェリンは紙に目を落とし、注意深く調べ始めた。
その記録は、学術的な規則に沿って整理されたものではなかった。座標が書かれた箇所もあれば、港の名前だけが記された箇所もある。中には、誰かの証言を急いで書き写しただけのような行もあった。
それでも、彼女が自分の『天文録』に記した日付と照らし合わせた時、あることに気づいた。
三つの異なる海域からの報告。
一つはシュアンタールの東方航路で記録されたもの。もう一つはノーマン西方の海域。そして最後の一つは、二つの大陸の間に広がる海を航行した船乗りによって記録されていた。
三つの異なる時期。
何千マイルも離れた三つの場所。
それなのに、すべてが同じ天文周期と一致していた。
アヴェリンは急いで手帳のページをめくった。鉛筆を取り出し、地図上の位置を改めて印し、二枚の紙を並べて置く。
「そんなはずは……」
パンを切っていたジュンペイは、その言葉を聞いて手を止めた。
「何か分かったんですか?」
「この三つの場所は、何千マイルも離れている。それなのに、現象はほぼ同時期に発生しているの」
「それが何か問題なんですか?」
アヴェリンは紙をテーブルに置いた。
「もしこれが自然な反射現象なら、これほど離れた海域で同じ周期に現れるはずがない。三つの地域すべてに影響を及ぼす、共通の要因がない限りは」
「例えば?」
「まだ結論は出せないわ。法力の流れに何らかの変化が生じているのかもしれないし、天体の位置と関係している可能性もある」
ジュンペイは紙に記された記号を見つめた。
彼女が指し示す数字や線の意味をすべて理解できたわけではない。それでも、目の前の女性の声に宿る興奮は十分に伝わってきた。
「つまり、探していたものが見つかったんですか?」
「たぶんね」
「ずいぶん曖昧な答えですね」
「まだ十分なデータが揃っていないもの」
ジュンペイは笑った。
「学者というのは、みんなそう答えるんですか?」
「いいえ。間違った結論を書きたくない人だけよ」
「なら、早く答えが見つかることを願っています」
アヴェリンは紙を丁寧に折り畳み、手帳の間に挟んだ。
「この記録を借りてもいい?」
「構いません。ただし、返してくださいね」
「必ず返すわ」
「それと、もし研究が成功したら、結果を教えてほしい」
アヴェリンは顔を上げた。
「天文学に興味があるの?」
「いいえ。ただ、途中で終わった話が好きではないんです」
その答えに、アヴェリンは一瞬ペンを止めた。
それから頷いた。
「では、結果が出たら知らせるわ」
ジュンペイは水の入ったグラスを持ち上げた。
「約束ですよ、ダスクリンさん」
アヴェリンも紅茶のカップを持ち上げる。
「約束よ」
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食事が終わる頃には、窓の外の陽光は濃い金色へと変わり始めていた。
ジュンペイが二人分の代金を支払い、アヴェリンは借りた記録を慎重に革袋へしまった。
店を出る前、彼女は階段近くのテーブルで船乗りたちが話しているのに気づき、足を止めた。
ジュンペイも彼女の様子に気づく。
「彼らに聞いてみるんですか?」
「ハーカー爺さんを知っているかもしれないわ」
彼は頷き、その男たちに声をかけた。いくつか言葉を交わした後、グループの中にいた年配の船乗りが顔を上げた。
「ハーカーか? あの爺さんなら、昔ここにいたぞ」
「今はどこにいるんですか?」とアヴェリンが尋ねた。
「知らんな。先週には港を出たんじゃないか。最後に見たのは北側の宿屋街だった」
「彼は海の光について、よく話していましたか?」
船乗りは彼女を探るような目で見た。
「学者さんかい?」
「ええ」
「だったら、あの爺さんの話には気をつけた方がいい。普通の人間には見えないものについて、何時間でも語り続けるような男だからな」
ジュンペイは腕を組んだ。
「海中の青い光についても話していましたか?」
船乗りは少し考えた。
「ああ。あいつは『星々の川』と呼んでいたな。だが、俺はそんなものを見たことがない」
アヴェリンはすぐに手帳を取り出した。
「どこで見たと言っていたか、覚えていますか?」
「西方の海だ。たぶん西方諸島を通る航路の近くだろう。ただ、正確な場所までは覚えていない。何か月も前の話だからな」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。もしあの爺さんを見つけたら、どうしてあの光を嵐の前兆だと信じているのか聞いてみてくれ。あの話なら、もう十回は聞かされたぞ」
船乗りが笑い声を上げ、ジュンペイもつられて口元を緩めた。
二人がドロウンド・コンパスを出た時も、アヴェリンはまだ手帳に記録を続けていた。
「星々の川……」
彼女は、その名が自分の知る現象にふさわしいものなのか確かめるように、もう一度口にした。
「科学用語というより、民間伝承の題名みたいですね」とジュンペイが評した。
「地元の人々が現象を説明するために使った言葉かもしれないわ」
「あるいは、理解できないものに美しい名前をつけるのが好きなだけかもしれません」
アヴェリンは手帳を閉じた。
「あなたはいつも、そんなふうに物事を考えるの?」
「どんなふうに?」
「すぐには信じない。でも、すぐに否定することもしない」
ジュンペイは少し考えた。
「海の上では、信じなければ面倒なことになる話もあります。でも、何もかも信じていたら、遠くまで航海することもできません」
「現実的な考え方ね」
「海に教わったんです」
二人は港沿いの石畳の道を歩き始めた。
荷車が次々と倉庫へ向かって進んでいく。作業員たちは大きな布を木箱にかぶせ、監督役の男が何度も積荷の一覧を確認していた。
アヴェリンは通り過ぎる荷車を避けるため、少し歩調を緩めた。
「海に出るようになって、どれくらい?」
「子供の頃、家族と一緒に出た航海も含めれば、もう十年近くになります」
「いろいろな場所へ行ったの?」
「かなりね。シュアンタール、東方の島々、南方の商港、西方の沿岸都市。たった一日しか滞在しなかった場所もあれば、何か月も過ごした場所もあります」
「それなら、たくさんのものを見てきたのでしょうね」
「そうかもしれません。でも、遠くへ行けば行くほど、自分がいかに何も知らないかを思い知らされます」
アヴェリンは彼を見た。
「まるで学者みたいなことを言うのね」
「誰にも言わないでくださいよ。商人としての評判を守らないといけませんから」
今度はアヴェリンも、はっきりと笑い声を漏らした。
その音はかすかで、港の喧騒にほとんどかき消されてしまうほどだった。それでもジュンペイは聞き逃さなかった。
「ようやく笑ってくれましたね」
「他人を観察するより、自分の仕事に集中したらどう?」
「さすがヴァルドレンの学者ですね。言葉まで手厳しい」
「私に何と言ってほしいの?」
「あなたを手伝って、資料を見つけたんですから」
アヴェリンはしばらく彼を見つめた。
「ありがとう、ジュンペイ」
青年は、その率直な返答に少し驚いたようだった。
それから頷いた。
「どういたしまして」
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二人は、埠頭を見渡せる小さな広場で足を止めた。
そこには青銅製の街灯が一本立っており、その下には帰りを待つ人々のための石のベンチが置かれていた。数人の子供が荷物の木箱の周りを走り回り、焼き菓子を売る女性が彼らに戻ってくるよう呼びかけている。
アヴェリンは天文図を開き、黒いインクで印をつけた位置を探した。
「西方の海域を通る船は、一年のうち、いつ頃航行することが多いのか教えてもらえる?」
ジュンペイは地図を覗き込んだ。
「西方諸島へ向かう航路のことですか?」
「そうよ」
「秋から初冬にかけては、強風の吹く海域を避けるために航路を変更する船がいくつかあります。その地域を通ったことのある船乗りを探すなら、港の北側にいる船主たちに尋ねるといいでしょう」
「紹介してもらえる?」
「ええ。ただ、海中の光を調べている学者に、彼らが時間を割いてくれるかどうかは分かりませんが」
「なら、自分で説得するわ」
ジュンペイは彼女を見つめ、その答えに満足したようだった。
「三番倉庫の近くにある商会を訪ねてみてください。西方航路を管理している知人がいます」
アヴェリンは場所を書き留めた。
「今日はずいぶん助けてもらったわ」
「もう記録を手に入れたでしょう?」
「まだ返していないもの」
「それなら、また会う理由ができたということですね」
その言葉に、アヴェリンのペンがわずかに止まった。
しかし、ジュンペイは特別な意味を込めた様子もなく、ただ未払いの荷物について話すような調子で続けた。
アヴェリンは地図を畳んだ。
「あなたはどれくらいの頻度でアウレリアン・ポートに来るの?」
「荷物の予定次第ですね。数か月で戻ることもあれば、ほぼ一年かかることもあります」
「もし私があなたの出港前に結果を見つけたら……」
「ドロウンド・コンパスに伝言を残してくれればいいですよ。オズウィンなら、私の居場所を見つけてくれます」
「分かったわ」
ジュンペイは船の方へ目を向けた。
「あなたは? ここにはどれくらい滞在する予定ですか?」
「数週間くらいかしら。もう少し証言を集めてから、ヴァルドレンへ戻って資料を照合するつもりよ」
「一人で来たんですか?」
「ええ」
「指導者はいないんですか?」
アヴェリンは革袋の留め具を閉じた。
「自分の研究に責任を持つには、もう十分な年齢よ」
「あなたの能力を疑っているわけではありません」
「では、何を心配しているの?」
ジュンペイは、荷車が次々と行き交う埠頭へ目を向けた。
「マーチャント・キーは、いつでも平穏な場所というわけではありません。善良な人もいますが、他人から金を巻き上げることしか考えていない連中もいる。若い女性が書類や地図をたくさん持ち歩いていれば、こそ泥の標的になるかもしれません」
アヴェリンは彼を見た。
「気をつけろと言いたいの?」
「そうです」
「忠告に感謝するわ」
そう言うと、彼女は倉庫街へ続く道へ向かって歩き出した。
ジュンペイはその場に残り、声をかけた。
「ダスクリンさん」
アヴェリンが振り返る。
「ここに滞在している間、誰かの助けが必要になったら、オズウィンに尋ねてください。彼は私を知っていますから」
「覚えておくわ」
「それと、研究が終わったら、私の質問に答えるのを忘れないでください」
「忘れないわ」
ジュンペイは片手を上げて別れの挨拶をした。
アヴェリンは再び歩き出し、黒いコートの姿は荷車の列の向こうへと消えていった。
青年はしばらくその場に立っていたが、やがて埠頭へ戻った。
日が沈む前に、まだ片づけなければならない仕事がいくつか残っていた。
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それから数日間、アヴェリンは頻繁にマーチャント・キーへ姿を現した。
三番倉庫へ足を運び、西方航路の管理者に会い、さらに何時間もかけて西方諸島を航行したことのある船乗りたちに聞き取りを行った。港の北側にある宿屋にも足を運び、ハーカー爺さんについて尋ねたが、はっきりとした手がかりは得られなかった。
あの老船乗りは、すでにアウレリアン・ポートを離れていたのだ。
それでも、アヴェリンはいくつか興味深い情報を手に入れた。
ある船乗りは、海が穏やかな夜に青い光を目撃したことがあった。ある機関士は、現象が現れている間、船の羅針盤の針がしばらくの間回転し続けたと証言した。別の船乗りは、水中の光の帯が、海流が変化しても一定の方向へ動いていたように見えたと主張した。
証言の内容は、完全には一致していなかった。
しかし、一つだけ共通点があった。
その光は、晴れた夜、海面が穏やかで、特定の星座が水平線近くに位置している時に現れることが多かったのだ。
アヴェリンは大半の時間を、証言と天文図の照合に費やした。座標を一つずつ記録し、海域間の距離を計算し、現象が発生する可能性のある時期に印をつけていった。
時には、古い書店の上にある小さな借家で、深夜まで作業を続けることもあった。
彼女の机には常に書類が山積みになっていた。オイルランプの隣には天文図や専門書が数冊、そして計算の時間を測るための砂時計が置かれている。
新しい情報がまったく得られない日もあった。
だが、船乗りの何気ない一言が、それまでの仮説を根底から覆すこともあった。
アウレリアン・ポートに到着してから六日目の午後、アヴェリンのもとにオズウィン・バーリーフォードから短い手紙が届いた。
中には、わずか数行の文章が記されていた。
「学者さんへ。あなたが尋ねていたシュアンタールの商人が港に戻ってきた。今はドロウンド・コンパスにいる。追加の情報が欲しいなら、今日はちょうどいい日だろう」
アヴェリンは読み終えると、手紙を机に置いた。
机の上に積み重なった書類を見渡し、それから丁寧にそれらを革袋へと収めていく。
結局、発光現象の答えはまだ見つかっていない。
それでも少なくとも、彼女には力を貸してくれる人物が一人増えていた。
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アヴェリンがドロウンド・コンパスに到着した頃には、空はすでに夕暮れに近づいていた。
酒場は前回よりも賑わっていた。一日の仕事を終えた船乗りたちが木製のテーブルを囲み、数人の商人は翌朝の出港を前に、輸送予定について話し合っていた。
ジュンペイは窓際の席に座っていた。
テーブルには航海図が広げられ、その隣には数枚の請求書と小さな手帳が置かれている。彼はオズウィンと、倉庫へ運び込まれたばかりの香辛料の荷物について話していた。
「ジュンペイ!」
アヴェリンに気づいたオズウィンが、大きな声を上げた。
「お前の客が来たぞ!」
ジュンペイが振り返る。
「ダスクリンさん」
アヴェリンはテーブルへ近づいた。
「戻ってきたのね」
「今日の午後に着いたばかりです。研究で忙しいと思っていましたが」
「今も忙しいわ」
「それなのに、ここへ来たんですか?」
「いくつか聞きたいことがあるの」
ジュンペイはテーブルの書類を片づけ、彼女のために場所を空けた。
「ちょうどいいところに来ましたね。東方から戻ってきた船について、新しい知らせを受け取ったところなんです」
アヴェリンはすぐに席に着いた。
「発光現象に関係があるの?」
「その可能性はあります」
ジュンペイは上着のポケットから小さな紙片を取り出した。
「船長の話によると、東方諸島の近くで青い光の筋を見たそうです。奇妙なのは、今回は霧のかかった夜に現れたということですね」
アヴェリンは紙を受け取った。
「正確な位置は分かる?」
「おおよその座標なら。記録してあります」
「時期は?」
「先月の十二日目の夜です。ノーマン暦で」
アヴェリンは手帳を取り出し、計算表と照らし合わせた。
しばらくして、彼女は顔を上げた。
「私の予測した周期とは、完全には一致しないわね」
「つまり、仮説が間違っていたんですか?」
「まだ分からない。現象が複数の要因に左右されているのなら、発生時期がずれる可能性もあるわ。その夜の海域における法力の状態を知る必要がある」
ジュンペイはテーブルに手をついた。
「商人にも分かるように説明してもらえますか?」
アヴェリンは彼を見た。
「いいわ。海面を大きな網だと想像してみて。法力の流れは、その下を走る糸のようなもの。何らかの要因が網に作用すると、その糸が揺れ動く。揺れが十分に大きくなれば、人の目に見える現象が起きるの」
ジュンペイは考え込んだ。
「つまり、あの光は法力の流れが変化している兆候だということですか?」
「その可能性はあるわ。でも、原因はまだ分からない」
「そして、その変化には星座が関係している?」
「それを証明しようとしているところよ」
ジュンペイは頷いた。
「ずいぶん複雑ですね」
「とてもね」
「でも、面白い」
アヴェリンは否定しなかった。
ジュンペイはさらに別の紙を取り出した。
「もう一つあります。ある船乗りから聞いた話ですが、光が現れる夜には、船体からかすかな振動を感じることがあるそうです。波がぶつかる音とは違う。まるで、はるか深い海の底で何かが動いているような感覚だとか」
アヴェリンはそれを書き留めた。
「その振動は、発光現象によって生じたものだと思う?」
「分かりません。ただ、私自身も東方の海域を航行していた時、似たような音を聞いたことがあります」
「詳しく教えてくれる?」
ジュンペイは椅子の背にもたれた。
「数年前のことです。シュアンタールから南方の商港へ向かう商船に乗っていた時でした。ある夜、海の底から鐘の音が聞こえてきたんです」
アヴェリンのペンが止まった。
「鐘の音?」
「ええ。とても遠く、低い音でした。どこから聞こえてきたのか、誰にも分かりませんでした」
「別の船から聞こえた可能性は?」
「船長も最初はそう考えていました。でも、近くに船影は一つも見えなかった」
「それから?」
「特に何も起きませんでした。鐘の音は何度か響いた後、消えてしまったんです。翌朝、年老いた船乗りが、あの海域には沈んだ寺院にまつわる伝説があると話していました」
アヴェリンは注意深く耳を傾けた。
「その話を信じているの?」
「さあ。ただ、記録には残してあります」
「あなたはいつも、そんな話まで記録しているの?」
ジュンペイは笑った。
「どうやら、少し変わった癖があるようですね」
「いいえ。良い習慣だと思うわ」
その言葉にジュンペイは少し驚いたようだった。
彼はしばらく黙っていたが、やがて上着のポケットから小さな木箱を取り出した。
「これを見てみませんか?」
アヴェリンは箱を見つめた。
「それは何?」
「シュアンタールから持ち帰ったものです」
ジュンペイが蓋を開ける。
中には、古い赤い紐で持ち手を結ばれた、小さな青銅の鈴が入っていた。表面には古代文字が刻まれている。オイルランプの光が当たると、鈴の表面に刻まれた模様がより鮮明に浮かび上がった。
アヴェリンは身を乗り出して観察した。
「魔導具なの?」
「そう考えてもいいでしょう。ただし、戦闘に使うものではありません」
ジュンペイは鈴を手に取り、軽く回した。
「私の故郷では、古い儀式にこうした鈴を使う人々がいます。その音には、人の集中力を高めたり、周囲のごく小さな変化を感じ取ったりする助けがあると信じられているんです」
「仕組みは分かっているの?」
「詳しくは知りません。一般的な使い方を知っているだけです」
「見せてもらえる?」
ジュンペイは鈴を掌に乗せた。
そして、そっと揺らす。
澄んだ音が響いた。
音は大きくなかった。しかし、不思議なことに、普通の青銅の鈴よりも長く余韻が続いているようだった。響きはテーブルの上を伝わり、酒場の話し声の中へゆっくりと溶け込んでいった。
アヴェリンはじっと観察していた。
「音に法力の揺らぎがあるわ」
「分かるんですか?」
「ごく微弱だけれど、確かにある」
ジュンペイは鈴を見つめた。
「なら、まだ機能しているということですね」
アヴェリンは手を伸ばしかけたが、触れる直前で止めた。
「研究のために貸してもらえないかしら?」
ジュンペイは笑った。
「あなたはまだ、私の記録を借りてからそれほど経っていませんよ」
「どちらも必ず返すわ」
「あなたのことは信頼しています。でも、この鈴は家族にとって大切なものなんです。手放すわけにはいきません」
アヴェリンはすぐに手を引いた。
「分かったわ」
ジュンペイは箱の蓋を閉じた。
「ですが、もう少し観察するくらいなら構いません」
「ありがとう」
二人は酒場の客が少なくなるまで、話を続けた。
アヴェリンは東方の魔導具について、シュアンタールの人々がどのように護符を使っているのか、そして天文学に関する考え方について尋ねた。
ジュンペイは神秘術を専門に研究する学者ではなかったが、航海の途中でさまざまな儀式を目にしてきた。
彼は山の斜面に建つ寺院について語った。そこでは道士たちが星空を観測し、儀式を行う日取りを決めているという。月の明るい夜に川へ流される灯籠の話や、赤い墨で書かれた護符、風向きの変化を知らせるために家の門に吊るされた小さな鈴の話もした。
アヴェリンは、珍しく強い好奇心を見せながら耳を傾けていた。
ジュンペイの語る話は、ヴァルドレンで教えられている神秘術の体系とは完全には一致しない。一部の概念は法力共鳴の原理に近いように思えたが、その説明は古代の哲学的な思想に基づいていた。
「シュアンタールでは、天文学が人の運命に影響を与えると信じられているの?」とアヴェリンが尋ねた。
ジュンペイは少し考えた。
「信じる人もいれば、そうでない人もいます。ただ、祖父はよくこう言っていました。人間は空を観察することと、自分の人生に答えを求めることを、よく混同してしまうのだと」
「お祖父様は学者だったの?」
「いいえ。道士でした」
「道士?」
「修行や護符、そして一般的な理解を超えた現象について研究する人です。子供の頃、祖父からいくつか教わりました」
アヴェリンは彼を見た。
「あなたも神秘術を使えるの?」
「少しだけですよ。特別な才能があるわけではありません」
「でも、魔導具については詳しいのね」
「理解できないものには、むやみに触れるべきではない。それくらいは知っています」
アヴェリンは笑った。
「なかなか良い心得ね」
ジュンペイは水の入ったグラスを持ち上げた。
「祖父には、もう一つよく口にしていた言葉があります」
「どんな言葉?」
「『人は道を探すために天を見上げる。だが、自分がどこに立っているのかを知るには、地を見なければならない』」
アヴェリンは、その言葉を心の中で繰り返した。
「どういう意味なの?」
「おそらく、どれほど遠いものを研究していても、最後には自分の目の前にあるものを理解しなければならない、という意味でしょう」
アヴェリンは天文図へ目を落とした。
彼女は何か月もの間、星々の周期や法力の流れ、そして大洋の彼方で起こる現象を研究してきた。
しかし、もしかすると数字ばかりに集中しすぎて、自分が必要としているデータの大半が、普通の人々の証言の中にあることを忘れていたのかもしれない。
天体の軌道を計算できない船乗りたち。
神秘術の方程式を理解できない船乗りたち。
それでも、彼らは光を見た。
そして、それを自分の言葉で語ることができる人々だった。
「お祖父様は、興味深い方だったようね」
「話好きな人でしたよ。同じ話を百回は聞かされたんじゃないかと思うこともありました」
「全部覚えているの?」
「いいえ。でも、いくつかの言葉は今でも覚えています」
ジュンペイは言葉を切り、窓の外へ視線を向けた。
「祖父はこうも言っていました。人は、自分がどこで生まれるかを選ぶことはできない。どこで死ぬのかを知ることもできない。けれど、その二つの場所の間を歩む道のりで、出会った人々にどう接するかくらいは、自分で選べるのだと」
アヴェリンは、その言葉を書き留めなかった。
ただ、静かに心へ刻み込んだ。
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二度目の出会いをきっかけに、アヴェリンとジュンペイは頻繁に情報を交換するようになった。
時間がある時、ジュンペイは船乗りたちから新たに集めた記録を持って、彼女の借家を訪れた。時にはオズウィンを通じて小さな紙片を届けるだけのこともあった。そこには、帰港したばかりの船の名前や、奇妙な現象を目撃した人物の居場所が記されていた。
アヴェリンもまた、彼から助けを受けるばかりではなかった。
彼女は最新の研究結果を説明し、天文図をジュンペイに見せながら、各報告の間に見られる共通点を指摘した。
最初のうち、ジュンペイは単なる好奇心から話を聞いていただけだった。
しかし、次第に彼も、彼女が取り組んでいる研究の一端を理解し始めていた。
青い光は、いつも同じ形で現れるわけではない。数分間だけ瞬く夜もあれば、一時間近く続く夜もある。水中に長い光の帯を作ることもあれば、何千もの小さな光の粒が海流に沿って漂うように見えることもあった。
また、アヴェリンが特定の星座とその現象の間に、何らかの関係を発見したことも知っていた。
一方、ジュンペイの話を聞くことで、アヴェリンもまた、海が地図上に引かれた線によって区切られた、ただの広大な空白ではないことを理解し始めていた。
それぞれの航路には、それぞれの歴史がある。
島には島の物語がある。
そして、海を渡る者たちは皆、自分が見てきた世界の一部を携えているのだ。
ある日の午後、二人がドロウンド・コンパスで話をしていると、ジュンペイが小さな布袋をテーブルに置いた。
「あなたに」
アヴェリンは袋を見た。
「これは何?」
「お茶です」
彼女が袋を開くと、中には乾燥させた茶葉が入っていた。ほのかに甘い香りが漂う。
「シュアンタールに、こんなお茶があるの?」
「ええ。知り合いの商人が送ってくれたんです。あなたなら気に入るかもしれないと思って」
「わざわざ贈ってくれなくてもよかったのに」
「高価なものではありませんよ」
「そういう問題ではないわ」
ジュンペイは椅子の背にもたれた。
「あなたは何度も夜遅くまで、私には理解しきれないことを説明してくれたでしょう。これくらいのお茶なら、十分に釣り合いの取れたお返しだと思います」
アヴェリンは彼を見つめた。
「それなら、ありがたくいただくわ」
「仕事をする時に飲むといいですよ。コーヒーを飲みすぎないように」
「そんなに飲んでいないわ」
「それなら安心です」
アヴェリンは茶葉を革袋にしまった。
しばらくして、彼女は一枚の紙を取り出した。
「私からも、あなたに渡したいものがあるの」
ジュンペイはそれを受け取った。
天文図の写しだった。そこには、発光現象が記録された三つの海域が印されている。それぞれの地点の隣には、日付と天文周期に関する注記が書き込まれていた。
「何か分かったんですか?」
「まだ最終的な結論ではないけれど、かなり明確な相関関係を確認できたわ」
アヴェリンは地図上の三つの地点を指した。
「これらの発光現象は、ある特定の星座が天空の南側を通過する時期に発生しているの。毎回完全に一致するわけではないけれど、ずれの範囲は説明できる程度に収まっている」
「それは、どういう意味なんですか?」
「海上の法力の流れが、天体の共鳴による影響を受けている可能性があるということよ」
ジュンペイは地図を見つめた。
「自分の仮説を証明できたんですか?」
「研究を続けるための十分な根拠は得られたわ。でも、まだ一つ問題が残っている」
「何です?」
「三つの地点だけでは足りないの。特に南方と東方の海域から、独立した報告をもっと集める必要がある」
ジュンペイは頷いた。
「それなら、私にも手伝えるかもしれません」
アヴェリンは顔を上げた。
「何をするつもりなの?」
「そろそろ荷物を運ぶためにアウレリアン・ポートを離れなければなりません。今回の航路では、東方の商港をいくつか通る予定です。機会があれば、あの現象を見たことのある人を探してみますよ」
「そこまでする必要はないわ」
「分かっています」
「あなたの航海は仕事でしょう?」
「海の物語を記録することも、私の仕事の一部ですから」
アヴェリンは、それ以上反論する理由を見つけられなかった。
彼女は別の紙を取り出し、必要な情報を書き始めた。
「では、青い光を見た人に出会ったら、発生した時刻、天候、位置、そして船の進行方向について尋ねて。できれば、その時に見えていた星座の位置も記録してほしい」
ジュンペイは紙を受け取った。
「分かりました」
「現象が現れても、近づこうとしないで。私が必要としているのは証言とデータだけよ」
「私の船乗りたちを心配してくれているんですか?」
「研究データを心配しているだけよ」
ジュンペイは声を上げて笑った。
「もちろん、そうでしょうね」
アヴェリンはそれ以上説明しなかった。
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アウレリアン・ポートの秋は、彼女が思っていたよりも早く過ぎ去った。
北方から吹きつける冷たい風は日ごとに強くなり、船は航海予定を変更し始めた。悪天候を避けるため、一部の航路は一時的に運航を停止している。マーチャント・キーは依然として賑わっていたが、到着したばかりの頃のような暖かな午後は、もう訪れなくなっていた。
アヴェリンは、当初の予想を上回る量の資料を集めていた。
そして、ヴァルドレンへ戻る準備も始めていた。
ジュンペイが港を離れる前の最後の約束の日、二人はドロウンド・コンパスの窓際にある、いつものテーブルに座っていた。
外では帆が引き上げられようとしていた。大きな商船が翌朝の出港に向けて準備を進めている。
ジュンペイは小さな手帳をテーブルに置いた。
「これは、直近の航海で集めた記録です」
アヴェリンはそれを開いた。
中には新たに二つの海域についての記録が収められていた。ある船乗りは諸島付近で水中の光を見たことがあり、別の人物は現象が現れた夜、船の羅針盤の針が異常に揺れ動いたと語っていた。
どちらの報告にも、日付とおおよその座標が記されている。
アヴェリンは一つ一つ丁寧に目を通した。
「全部記録したの?」
「彼らが覚えていたことは、できる限り」
「いくつか、非常に興味深い点があるわ」
「そう言うと思っていましたよ」
アヴェリンは手帳を閉じた。
「ありがとう、ジュンペイ」
「その言葉を聞くのは、もう何度目でしょうね」
「あなたには本当に助けられたもの」
「それなら、研究が終わった時に食事をご馳走してくれればいいですよ」
アヴェリンは彼を見た。
「前にも私がご馳走したでしょう?」
「あれは私が代金を払った食事でしたよ」
「では、次は私が払うわ」
ジュンペイは満足そうに頷いた。
「約束ですね」
二人はしばらくそのまま座り、これからの輸送計画や、天候によって影響を受ける可能性のある航路、そしてヴァルドレンへ戻った後のアヴェリンの研究計画について話した。
ジュンペイは、数か月間ノーマンを離れることになるかもしれないと話した。シュアンタールには荷物を待っている取引相手がおり、家族にも片づけなければならない用事がいくつかあるという。
アヴェリンは、それ以上詳しく尋ねなかった。
ただ、もし彼がアウレリアン・ポートへ戻ってきたなら、港務局を通じて自分を探すか、ヴァルドレン王立大学へ伝言を送ればいいと伝えた。
「研究は続けるんですか?」
「もちろんよ」
「答えが見つからなくても?」
「見つからないからこそ、続ける必要があるわ」
ジュンペイは彼女を見つめた。
「あなたは本当に学者らしい人ですね」
「それはもう聞いたわ」
「なら、もう一度言わせてください」
アヴェリンは首を横に振ったが、その口元には笑みが浮かんでいた。
---
翌朝、ジュンペイの船はアウレリアン・ポートを出港した。
アヴェリンは埠頭まで彼を見送りには行かなかった。ヴァルドレンへ戻る前に仕上げなければならない資料が残っていたし、何より、ありふれた商船の出港を大げさな別れにする理由もなかった。
しかし、船が港の視界から遠ざかる前に、ジュンペイはドロウンド・コンパスから届けられた一通の封書を受け取っていた。
中には、小さな紙片が一枚入っていた。
「あなたから受け取った記録を改めて確認しました。天文周期と興味深い一致を示す点がいくつかあります。帰港したら、結果をお知らせする手紙を書きます。
航海の無事を祈っています。
アヴェリン・ダスクリン」
ジュンペイは読み終えると、手紙を折り畳んで上着のポケットにしまった。
彼は船の甲板に立ち、次第に遠ざかっていくアウレリアン・ポートの屋根並みを眺めていた。
海風が吹き抜け、濃い茶色のコートの裾を揺らす。
若い船乗りが彼の隣へ歩み寄った。
「バイ様、間もなく停泊区域を抜けます」
「分かっている」
「お手紙を読んでいらしたんですか?」
ジュンペイは手紙をポケットにしまった。
「ああ。港にいる知人からだ」
「知人ですか?」
「学者だよ」
若い船乗りは興味を引かれた様子だった。
「学者ともお知り合いなんですね?」
「それほど多くはいないがな」
「どんな研究をしている方なんですか?」
「海の底に現れる光についてだ」
船乗りは目を丸くした。
「人々が噂している、あの光ですか?」
「そうだ」
「本当に存在すると信じていらっしゃるんですか?」
ジュンペイはすぐには答えなかった。
前方に広がる海を見つめる。小さな波が船腹にぶつかり、白い泡の筋を残しては、すぐに消えていった。
「すぐに信じる必要のない話もある」
彼は言った。
「ただ、急いで否定するべきでもない」
若い船乗りは頷いた。もっとも、その意味を完全に理解できたわけではなさそうだった。
ジュンペイは操舵室の方へ向き直った。
「帆の綱を確認してこい。まだ長い航海が残っている」
「はい!」
船はそのまま港を離れ、東方の海へと進んでいった。
---
それから数か月後、アヴェリンはヴァルドレンへ戻った。
彼女が持ち帰ったのは、何百ページにも及ぶ記録、無数の印が書き込まれた地図、そして王都を出発した時よりもはるかに分厚くなった資料の束だった。
彼女の研究には新たなデータが加わり、天文学と法力の流れの関係について、これまでとは異なる視点から考察する道が開かれた。
学院で開かれる研究討論会では、アヴェリンは自分の仮説を発表し始めた。
興味を示す学者もいれば、結論を出すにはまだ早すぎると考える者もいた。
彼女は激しく議論を交わすことはしなかった。
ただ自分が持っているデータを示し、計算方法を説明し、証明できていない部分については率直に認めた。
それは、彼女がいつも実践してきたやり方だった。
ある夜、最初の報告書を書き終えたアヴェリンは、一人で研究室に座っていた。
机の上には、旅の間ずっと彼女と共にあった革表紙の手帳が置かれている。
彼女はそれを開き、ジュンペイ・バイについて記したページを探した。
彼の名前の隣には、航海した船や訪れた海域、そして発光現象に関する報告がいくつも書き込まれていた。
アヴェリンはペンを取り、さらに一行を書き加えた。
「情報提供者は観察能力に優れ、記録も丁寧であり、独立した情報源を数多く持っている。今後の研究でも、引き続き情報交換を行う必要がある」
彼女はペンを止めた。
しばらくして、その下にもう一行、小さな文字で書き足した。
「次に会う時は、きちんとした食事をご馳走した方がよさそう。彼は見た目以上に多くのことを知っている」
アヴェリンは手帳を閉じた。
窓の外には、月明かりに照らされたヴァルドレンの夜空が広がっていた。街のゴシック様式の尖塔が、夜の帳の中に黒い影となって浮かび上がっている。
さらに遠くでは、ヴェイル川が静かに王都を流れ、川沿いに灯る明かりを水面に映していた。
アヴェリンには、次にジュンペイと会えるのがいつになるのか分からなかった。
数か月後かもしれない。
一年後かもしれない。
あるいは、まだ語られていない物語と、次々に運ばれてくる荷物の間で、どこか遠い商港にて再会することになるのかもしれない。
それでも、彼女はいつかジュンペイが戻ってくると信じていた。
そしてその時には、自分が発見したことを彼に語れるだけのデータが揃っているはずだった。
第29章・完




