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白昼夢の秒針  作者: 朝霞
2/2

理不尽!

広大な黒染めの空間の中、ぽつんと二人分の影(影かどうかはわからない)が落ちていた。

突如告げられた『クイズ大会』。正直、ルリナは大困惑していた。


「エー…ット……ク、クイズ…大会…?」


「うん!だって君、知りたいことがたくさんあるんでしょ?」


「それは!そう…だけど!」


歯車なりのルリナへの気遣いなのだろうか。知らない場所に一人。孤独感と不安感が募ったルリナにとって誰かと話せただけでも万々歳だが、この状況についての情報を一気に飲み込めるかと言われれば怪しい。

故に歯車は楽しく理解するためにクイズ形式にした……ルリナはそう理解することにした。


「どう?やるぅ?」


歯車が…いや、歯車の中の人物がにやにやしながら言っているのがよくわかる。遊ばれている。完全に。

ルリナの中で先ほどの解釈は消え去り、歯車の挑発的な態度に対して、絶対中の人物と会ったらビンタしてやる!と思った。


「〜〜ッやるよ!やるやる!!」


「そうこなくっちゃ!」


ぬいぐるみが喋っていることも、なぜ上から降ってきたのかも、今は全ての疑問を横に置き、クイズに集中することにした。


「クイズは全部で三問!各問一回だけ俺に質問していいよ!答えを求めるのはナシね!」


「わ、わかった!」


「よし!じゃあ早速第一問―――」


歯車がそう言った途端、歯車の顔の部分が消えてドット文字が映し出された。


『第一問

 ココハナゼコンナ状態ニナッタデショウ?』


「制限時間は俺が暇になったらね!よーいはじめ!!」


「ちょっと!?暇になったらって!?っていうか1問目から全然わかんないし!!!」


はじめ、という合図のあとからチク、タク、と秒針の音がどこからともなく聞こえてきた。

ルリナは考える。考えるうちにぽつぽつと歯車に対する不満が湧いてきたが、とにかく可能性のあるものをあげていかねば。


(私は目が覚めたらここにいて、誰もいなくて、何にもわかんなくて……って、これ詰みでは??私何にもわかんなくない??)


自分の無知さが嫌になる、どころかこれは理不尽なクイズなのでは?とだんだんと腹が立ってくる。


「ねぇ!全然わかんないんだけど!?」


ルリナは寝転がって暇そうにしている歯車に向かって怒鳴った。

歯車はそれを聞くなり起き上がり、ルリナを見た。


「も〜〜だからぁ〜〜なんでも聞いていいって!一つだけだけど!ヒント有りって言ったでしょ!」


「どういうことを聞けばいいかもわかんないよぉ!!」


何も分からないルリナにとって、「一つだけ」というのはさすがに辛すぎた。

歯車は考える姿勢を取り、パッとルリナに顔を向けた。


「んー…例えば、『どういう系?』とか、『うんたらに関係ある?』とか…いろいろあんじゃん?」


「えぇ〜…どうしたら…」


静寂が落ちる。

必死にいろいろと考えてみるものの、どれもイマイチピンと来ない。

ルリナは思いつかなかったので歯車の例をパクることにした。


「じゃあ…どういう系なの?」


歯車は遊んでいた指から視線をルリナに向け、待ってましたと言わんばかりに駆け寄った。


「どういう系……かぁ〜。そうだなぁ、君たちの世界で言う、『異世界系』ではないね。ここは君の元いた世界だよ。はいッ!ヒント終了〜」


この歯車は煽るのがお上手なようで、ルリナの困っている姿をもはや楽しんでいるようにも見える。

ルリナは思ったより絞れない回答が来て、へなへなとその場に座り込んだ。


「そんなこと言われてもぉ〜〜……あ、」


ルリナの脳裏に一筋の光が刺した。閃いてしまったのだ。ここが元の世界の範疇であるという条件をクリアした、一つのアイデアが。


「ズバリ!!ここは『死後の世界』!とか!?」


「!」


歯車は小さな丸い目をさらに小さくした。

フリーズしたまま動かず、少し経ってやっと口を開いた。


「…なるほどねぇ……死後の世界、か…」


「当たってた!?当たってたでしょ!!」


ルリナは確信を持った。

歯車は手を掲げ……


「ぶっぶー!!違いまーす!!」


口の下で大きなばってんを作った。


「大体、質問の内容は『なぜここがこんな状態になったのか』だよ?君学校のテスト受けたことある?死後の世界だからは理由になってないよー?」


「う、うざ…」


ルリナはつい呟いてしまったが、ものすごく言い方がうざかった。

言うなればクソガキ。それ以外に形容するとすればガキんちょ。まるで論破王になったつもりの小学生だ。

ルリナはなるたけ顔と声に出さないように努めた。


「……ッそ、れで、答えはなんなの!?ほら!正解発表!!」


「まーまーそんなに焦んないでよ。正解はね…『時間が消えたから』だよ!!」

「…はい?」


一瞬、いや今も、理解ができなかった。

『時間が消えた』…確かに彼はそう言った。

そんな非現実的なことがあるんだろうか?いやそもそも証拠は?彼の言っていることは本当に正しいのだろうか?

ありえない、と言うしかなかった。


「あっははは!信じられない〜って顔してるね!まあそりゃそうか。そんなこと、考えたことがないもんね。」


歯車は声のトーンを一つ落とした。

ただ、それは一瞬のことに過ぎず、ルリナが言葉を反芻している隙に煽り歯車の口調へと戻っていた。


「さあ次行くよ〜!じゃあ第二問……」


「ちょっ!ちょっと待って!!!説明してよ!?どういうこと!?」


「えー?これ以上は俺もよく知らないしぃ…専門家に訊いた方が早いんじゃない?」


「専門家……?って何!?誰!?どこにいるの!?」


「今の君に説明してもなぁ…信じてくれないだろうし……。まずは基本情報を頭に入れることが大事!でしょ?」


「それは…そう、だけど……」


確かに、今のルリナに説明したところでルリナは信じないだろうというのは正しかった。

案外自分のことを見られているんだな、と思いながら、とりあえず歯車のクイズを進めてみることにした。

歯車はそんなルリナの様子を見て進めてもいいと判断したのか、また歯車の顔が消え、問題が映し出された。


「じゃあ第二問!

『君ハ何故ココニイルデショウ?』」


歯車の腹の部分にまた問題が表示された。

『君』というのは間違いなくルリナのことだろう。

自分がなぜここにいるのか…それは、ルリナ自身が訊きたいことでもあった。


なぜ私はこんな場所にいるんだろう?


考えれば考えるほど、頭が痛くなってくる。

思い出したくない記憶が、記憶の深海から浮かんできていた。


「…それ、は……私の何に関係があるの?」


「おっ!早速ヒントの時間だね!?だんだん聞き方がわかってきたじゃん~」


緊迫したルリナの表情と相反して、歯車はからかうように上から目線の発言をした。


「そうだな~…俺も、君のことはあんまりよく知らないけど、言うなれば体質?ってやつかもね。それがいいもんか悪いもんかは知らないけど。」


「あなたは…私の何を知ってるの?」


ルリナはこの質問をするのが怖かった。冷静に考えれば、この得体の知れないものが何をしたのかも、何のために自分に親切にしているのか、わからなかったからだ。

歯車は少しきょとんとしてから、ルリナに真剣な眼差しを向けた。


「何も。」


たった一言。

それだけだが、ルリナは少しホッとした。だが疑問が残った。

歯車が何も知らないと言うなら、どうして自分のことを問題に出すのか。

ルリナがそう思っていることも知らず歯車は続けた。


「君のことはほぼ、何も知らない…名前でさえもね。でも、俺の中に断片的な情報が残ってるんだ。その情報を今、君に教えてる。」


「…よくわかんないけど、私のこと知らないのに親切にするなんて、案外親切だったんだね!」


「案外ってなんだよ案外って!!俺はずっと優しかったじゃんか!!」


いつもの調子が戻ったのか、歯車はぷんすかと足踏みをした。

自分の心を読まれたかのように答えを出され、理解はできないもののなんとなくわかったような気がした。


「それで?答えは?」


歯車が答えを催促してきた。

明確な答えは出てきていないが、ルリナは少し答えを言ってみる決心がついた。


「答えは…

『私が、特別な体質だったから!』」


静寂が落ちた。

ルリナは自分の発言を反芻しながら、少し恥ずかしい気持ちになった。自意識過剰だったかな…と。

フリーズしていた歯車が、ぷるぷると体を震わせ始めた。


「ぷっ…」


そして、


「あっはははははははは!!!」


盛大に吹き出した。


「なっ…なんで笑うの!?!?」


「だって…ふははっ!君が自分のこと『特別』だって言うんだもん!あっははは!すごい自信があるんだねー?」


ルリナは顔を赤くして、歯車に対して恥ずかしさがたくさん混じった怒りを抱いた。


「ちっがうし!?!?それで!正解なの!?不正解なの!?」


「正解だよ正解。大正解さ…やっぱり、俺のヒントがわかりやすかったのかな??」


歯車は笑いを抑え、でも抑えきれていない震えた声で正解を発表した。

ルリナは正解すれば嬉しいものだと思っていたが、思っていたより嬉しくはない。だが漫才のような楽しさは感じていた。


「それで!?ほら!第三問はなんなの!?」


「おっ!積極的になってきたね~!じゃあ、最後の問題!!」


そうして、歯車の腹に表示された文字は、


『君ハ、時間ヲ取リ戻シタイ?』

カクヨムにも同作品を投稿しています。

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