暗闇でSOS
走っても走っても走っても、辺りに見えるのは闇。
助けを求め続けて、かれこれ何時間走っているだろう。
どうして…
どうして私がこんな目に!!!
ここでルリナは、今まで起きたことをもう一回整理することにした。
––目が覚めると、ルリナは暗闇の中に立っていた。
見渡せば黒、黒、黒。彼女はどうしてここにいるのか理解ができなかった。
どこに立っているのかもわからず、ただ月明かりの届かない深海に立っているような__そんな感覚がした。
ただ地面らしきものはあるらしく、歩くことはできるみたいだ。
ザッザッと、特に音がしたわけではないが地面を蹴り、地盤の安定を確認してから私は助けを求めて…否、誰かいないか確認するために走り回ってみることにした。
「誰かー!いませんかー!!」
そんな大声を発して、誰かの返事を期待しながら今まで走り続けた。
もし誰かがルリナを見たなら、その人の印象に残りやすい外見だと言えるだろう。
月白に染まった髪は腰まで伸びていて、前側と後ろ側で分けて前側ではゆるく赤いリボンで結んでいる。
首元の青いリボンに、薄暗い紫からやさしい色のピンクへ変わるグラデーションのかかったチョッキのようなものをワイシャツの上に着ている。肩にかけられたベルトが腰のコルセットに繋がっていて、下にはチョッキと同じ色をしたロングスカート。靴は茶色のロングブーツを履いていた。
前髪は特徴的で、左から右にかけて逆階段のように斜めっている。ところどころ後れ毛が出ていて、自分で切るのに失敗したかのようだ。彼女の瞳は朱色に近い赤で、綺麗に澄み渡っている。
そんな彼女は月白の髪をぶんぶんと揺らしながら、暗闇の中を突っ切っていくのだった……。
そして現在に至る、数十分後
「はぁっ…はぁーっ…はぁ…ふー…おえ、さすがにっ…疲れたっぁ…」
ぜえはあと息も絶え絶え走り続けたルリナの体はさすがに悲鳴をあげていた。
ルリナはどさっとその場に倒れ、体力の回復を図った。
元々体力はなくはない程度だったので、マラソン程度のものでも何十分も続けていれば早かれ遅かれガタが来るのは当然のことだった。
「どう…しよっ…本当に人見つかんないしっ…ここがどこかもわかんない…」
少しずつ息が整ってきたところで、ルリナは焦りと不安に渦巻かれていた。
「このまま誰も見つからなかったら」、「ずっとここに閉じ込められたら」…など、16歳の少女を不安にさせるには十分すぎる条件が揃っていた。
「どうして私がこんな目に〜!!!!」
やけになって叫んだ。
瞬間。
こつ、
すぐそばで、靴の音がした。
ルリナは咄嗟に起き上がり、辺りを見回した。
もしかしたら、誰かいたかもしれない、自分の呼びかけを聞いた人が来てくれたのかもしれない、と、大きな期待を抱いて。
結果的に、それは裏切られることになった。
振り返っても誰もいない。さっきの靴の音は幻聴であったと言わざるを得ない程に、全く変わらない暗闇がルリナを見ていた。
もし誰かいたならば、絶対に見逃すはずがない。障害物などはなく、見晴らしだけはいいからだ。…いや、この闇は空間的なものではなく視覚的なものなんだろうか?だとしたら話が変わってくる。
つまり、自分がいる場所が黒い箱の中ではなく、自分の視覚自体に闇がかかっているとしたら人が見えないのも説明がつく。
ルリナはそう考えたが、すぐにその説は否定された。
自分の手が、足が、服が見えるからだ。しかもかなりはっきりと。
「じゃあ…さっきのは幻聴……!?それとも、ゆ、幽霊…とか……!?」
ルリナはそれを想像して身が縮んだ。
考えてみれば、ここが自分が元いた世界と同じ基準で存在しているという保証はどこにもなかった。
つまり、俗に言う幽霊、怪異、妖怪…それらがいる可能性は大いにある。それを、ルリナは無意識に思った。
「誰かいるなら返事して!!!ください!!!!」
それでも、懸命に叫んだ。
声は反響せず、虚空に消えていく。
(無駄なのかな……、やっぱりさっきのは幻聴…?)
そう思い、また走り出そうとした。
瞬間。
頭に強い衝撃が加わった。
ゴンッッッ!
「いったあ!!!!!!」
ルリナが尻もちをつくのと同時にカランッと金属が落ちる音がした。
「これ…は……?」
じんじんと痛む額を抑えながら、空から落ちてきたであろう球体に手を伸ばす。
見た目は何の変哲もない歯車。結構厚みがあるが、金属部分はよくある歯車とほぼ同じだ。
だがルリナの知る歯車と一つ、決定的な違いがあった。
顔と手足があるのだ。
歯車の穴の中にすっぽりとハマった、ボールのように白くて柔らかい球体の上に、簡易的な顔が描いてある。目は2つの点で、口はにっこりとした曲線。そして、3時、9時、5時、7時の方向の歯車の突起から紐のようなものがついており、その先に柔らかいボールのようなものがついている。おそらくこれが手足なのだろう。
言ってしまえば、歯車のぬいぐるみだった。だがぬいぐるみにしては歯車の部分がしっかりしすぎているし、歯車にしてはいらないものが多すぎる。
ルリナは自分の鼻先に歯車に描かれた口がつきそうなほど近くでまじまじと見ていた。
これはなんなんだろう、そもそもなぜ上から?
そんなことをぐるぐると考えて、答えが出ず立ち上がろうとしたその時だった。
「近い」
「!!!?!?!?!?」
フリーズした。
喋ったのはルリナではない。確実に、歯車の口が動いていた。
「しゃ、」
ルリナは盛大にのけぞった。
「しゃべったああああああああぁぁぁ!?!?」
「喋るよー」
ルリナの驚きに反して歯車はひどく冷静だ。まるで当然だと言わんばかりに。
よく聞けば、歯車の声は12歳くらいの、まだ声変わりが始まっていないであろう歳の少年の声だった。
「君、さっきまで路頭に迷ってたっぽいケド…ぷっ…大丈夫ー?」
「だっ大丈夫って…!!聞こえてたなら返事してよ!!てか何笑ってるの!!!」
「あっははは、ごめんごめん。君が無計画に走り回ってるのがあまりにも滑稽で!」
歯車は煽るように笑った。
歯車の放った言葉がところどころぐさぐさと刺さる。間違いではないのがさらに苛立たしさを増幅させていた。
(感じ悪ぅ〜〜〜〜!)
ルリナは強く思った。
「そ、それで、あなたはなんなの?妖精?」
ルリナは話を逸らすことにした。あのままでは自分の無骨さがさらに言語化されると思ったからだ。
歯車は少し考えてから言った。
「う〜〜ん、妖精ってのは、あながち間違いじゃないかも。『コイツ』にとってはね。『俺』にとっては多分違うけど。」
「『コイツ』…?」
歯車は両手の平サイズの小さい体を縦に曲げた。
「そう。『俺』は今別の場所にいるんだ。だから『コイツ』は俺の声を通すための歩く通信媒体みたいなもんさ。」
「ふうん……って、いやいやいや!全然なんにもわかんないんだけど!!」
一瞬理解した気になった自分を叩き、目の前の状況について理解を得ようと努める。
「そもそも!ここはどこなの!?そしてあなたは誰!!ていうか、あなたはここのこと知ってるの!?」
「わぁーあるあるな質問攻め〜」
歯車はそう言うと、ルリナの数歩先でステップを踏み、手を広げてルリナの真正面に立った。
「普通に教えるのもつまんないから〜〜クイズ大会を開催しよう!!」
「はい????」
歯車はふふんと鼻を鳴らして手を腰に当てている。
一方ルリナは何も理解できてない、まぬけヅラを披露していた。
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