脳筋に育ちました
「ヒ、ヒ、ヒ、ヒ」
不気味な笑い声ではない。火を出す呪文だ。相変わらず、小さな火だが、攻撃に使うわけではないから気にしない。
火に呼び寄せられて、ジャイアント・キラービーが向かってくる。人より大きいから流石に迫力があるし、羽ばたきの風が強い。
「おりゃ」
飛び上がり、真正面から剣で斬りつけようとすると、キラービーはお尻を向けてきた。発射された毒針を避け、次の毒針が発射される前に斬りつける。一閃。さらに一閃。そして、着地。
その後から、腹を斬られ、羽を斬られ、ジャイアント・キラービーが落ちてくる。俺は慌てて避けた。
「やった。やっと仕留めたぞ」
「マックス、よくやった」
騎士服をまとったベリタス隊長が褒めてくれた。
「隊長が褒めてくれたの、初めてじゃないですか」
「……そうかな。いや、辺境領に連れてきたのはいいが、正直、逃げ出すだろうと思っていた。それが一人でここまで戦えるようになるとは」
はい。自分でもそう思う。元々、マクシミリアンというのは甘やかされて育った子ども。無詠唱で魔法が使えないからと親から家を追い出され、八年。辺境領でみんなにしごかれ、立派な脳筋に育つなんて。前世の記憶のおかげ。いや、別に前世で脳筋だったわけじゃない。社畜だったので、忍耐力だけはあってね。無茶を言われても、黙々と従う習性もあって、逃げ出さず、頑張れたってわけ。
「これでひよこから卒業させてもらえるんですよね」
俺が所属しているのはベリタス伯爵夫人が隊長を務める第八小隊だ。騎士団に入団した者はまず、全員第八に入り、鍛えられ、強くなったところで、適性を見て、他の小隊に入れられる。つまり、初心者教育用の隊なのでひよこ隊と呼ばれている。
「ああ。もちろん」
渋い声に振り向くと、団長が来ていた。アストン辺境伯。領主でありながら、騎士団長なのは実力で辺境領最強ではないかと言われている。筋骨隆々で前世だったら、ボディビルダーの世界大会に出ても優勝だろう。
「アストン様! それでどこの隊に入ることになるんでしょうか?」
「ちょうど、その話をしようと思って来たんだ。マックス、お前は王都に帰れ」
「へ?」
何で今さら? もう、ここが俺の故郷なのに。俺を追い出した両親にも未練はない。辺境領では詠唱して魔法を使っても馬鹿にされない。魔の森と接しているから、魔獣を退治する力があれば、どんな手段でも許される。筋肉をつければ、それだけ褒められる。
前世の同僚が「筋肉は裏切らない」と言っていたのを馬鹿にしてごめん。お前の言う通りだった。
「嫌です。俺は辺境騎士団の一員です。ここから離れません」
「確かに立派な団員になった。しかし、だからこそ、国の決まりには従わねばならない」
「決まりって?」
「貴族は皆、王都の貴族学校に通わなければならない」
いや、それは知ってるけど。
「俺はフィッシャー家から追い出されたんですよ。平民になっているんじゃないんですか?」
ベリタス伯爵夫人に甥として、生活の面倒を見てもらってきたが、別に養子縁組したわけでもない。
「ザーク殿に目撃されたため、正式に縁を切る手続きは避けたようだな」
金飾りのついた封筒を手渡された。封蝋には王家の紋章が押されている。宛名はマクシミリアン・フィッシャー。確かにフィッシャーのままだ。
開けてみると、中身は入学許可証だった。
「遠慮したいんですが」
「許可証と言っても、ようは命令だからな。まあ、フィッシャー家に戻る必要はない。全寮制だ」
うーん、それなら、まだマシか。
「それにシモンもクラリスもいるぞ」
シモンは団長の三男、クラリスはベリタス隊長の娘だ。幼馴染でよく一緒に魔獣退治をしていたが、去年、学校に入った。その時、俺だけ平民だから、学校に入れないのだと思っていたが、単に俺が一つ年下だからか。
また、一緒に遊べるのは楽しみだ。
「命令なら仕方ないか」
学校に行かないことで反乱分子扱いされるのも嫌だし。
「行きます」
「よし、それなら、すぐに準備しろ。明日の早朝には出発だ」
「もちろん、今夜は送別会をするからね」
ああ、ベリタス隊長も入学許可証が届く日を知ってて、準備してたんだな。俺に黙っていただけで。
「間に合わないかと思ったが、入学前にひよこを卒業できてよかったよ」
うん、それはそう思う。
「団長、隊長、ありがとうございました」
俺は深々と頭を下げた。




