プロローグ
「マックス! 頼む」
「わかった」
戦いの最中、俺は小っ恥ずかしい魔法の呪文を詠唱し始める。
「我が命、我が物に在らず。我が命、そは天の為。我が身体、そは地の為。我が心、そは人の為。我は天地人を繋ぐ楔なり」
「何だ。無詠唱もできない魔術師か。身の程知らずが。死ね」
敵は俺を嘲笑った。きっと、勝利を確信したのだろう。詠唱魔法の欠点は時間がかかること。その間、攻撃されたら、普通の魔術師はイチコロだ。だから、この世界で無詠唱の魔術師は尊敬され、俺のように詠唱しないと魔法が使えない人間は馬鹿にされる。
ただ、その欠点は普通の魔術師の場合。
弓矢であろうと、魔法であろうと、大抵のものは剣で切れる。前からの攻撃に対応している最中に背中から切りかかって来られても、気配を察知し、避ければ大丈夫。八年間、辺境領で鍛えられた俺の力を見よ!
と、言いたいところだが、口は呪文の続きを唱えるのに忙しい。
「……天よ、応えよ。雷鳴よ、歌え。閃光よ、踊れ。さあ、断罪の時間だ。堕ちろ!」
稲妻が光る。雷鳴が鳴り響き、激しい音と共に一斉に落ちた。消毒薬のような匂いはオゾンの匂いか。敵の呻き声がかすかに聞こえる。戦うことのできる者はもういないようだ。
「さすが、師匠!」
いつのまにか、俺の呼び名が師匠になっている。
「やっぱり、師匠の呪文はかっこいい」
かっこよくなんかない。俺は恥ずかしい。前世で厨二病の頃に作った呪文をまさか、使うことになるとは。
できれば、筋力だけで全てを解決したいのに、なぜか、俺の魔法は呪文の厨二病を拗らせれば拗らせるほど、威力を発揮する。
そのことに気づいてからは恥を忍んで呪文を唱えている。
「厨二病を拗らせた方が威力が上がるなら、もしかして、外見にこだわったら、さらに威力が上がるのでは? 仮面とか、マントとか」
ふと思いついたが、その思いつきは危険すぎる。顔の半分を髪で隠し、黒マントで髑髏のついた杖を振る自分を想像してしまった。
「師匠、いい考えですね。私たちからプレゼントさせてください」
やめてくれ。お願いだから、やめてくれ。
思わず、祈ったが、俺の願いは通じない気がした。




