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【完結】皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第1部『隠れ家の監査役』

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採寸という名の尋問、あるいは損害評価

「違う!  これも違う!  こんな布きれ、私の体に合うわけがないでしょう!」


ガシャン、と。

鼓膜を突き刺すような、重厚な金属の破砕音が石床に炸裂した。

貴妃の宮殿へと足を踏み入れた瞬間、私のつま先を(かす)めるようにして、磨き抜かれた青銅の鏡が滑り抜けていく。


室内は、理性を剥ぎ取られた嵐の後のようだった。

床を埋め尽くしているのは、鮮血のような紅、夜を切り取ったような紺、そして毒々しいまでの極彩色の絹織物。

尚服局の若い女官たちは、血の気の引いた顔で肩を寄せ合い、震え声さえ出せずに立ち尽くしている。


「申し訳ございません、貴妃様!  ですが、寸法通りに仕立てておりまして……」


「言い訳はおよし!  見てご覧なさい、この胸元の緩みを。私が貧相に見えると言いたいの!?」


王貴妃が、仕上がったばかりの豪華な礼服を、蛇の抜け殻でも引き裂くような勢いで指差した。

私は散乱する絹の波を慎重に(また)ぎ、静かに前へと進み出た。


現場介入トラブルシュートの時間。


「……失礼いたします。尚服局より、再採寸の担当として参りました」


私の声は、熱り立った室内の空気を冷徹に断ち切った。

王貴妃は、充血した目で私を射抜くように睨みつける。

その瞳の奥には、周囲を圧する権威とは裏腹な、剥き出しの神経が脈打っていた。


「またあんた?  ……ふん、いいわ。私の体が『規格外』に美しいことを、その無能な目で確認しなさい」


彼女は翻るようにして衝立の向こう側へと入り、両手を傲然と広げた。

私は絹製のメジャーを手に、彼女の背後へと回り込む。


至近距離で捉えた彼女の背筋は、眩いほどに白く、そして――薄氷のように(もろ)かった。


指先が、わずかに彼女の肌に触れる。


ビクリ、と。

彼女の華奢な肩が、電流を流されたように跳ねた。

指の腹から伝わってくるのは、ひどく乾燥した、水分を失った肌のざらつき。


「……失礼します」


事務的にメジャーを回す。

アンダーバスト。ウエスト。ヒップ。

絹の紐が彼女の輪郭を締め上げるたび、私の脳内で確信が数値へと固定されていく。


(……前回のデータより、全体で五寸も減っている)


これは「仕立てのミス」などではない。

短期間で行われた、劇的な痩身。


美意識に基づいたダイエット?

いや、違う。


この痩せ方は、磨き上げられた機能美ではなく、ただひたすらに生命力を削り取られた、壊滅的な「資産の消耗」だ。


メジャーを巻き取りながら、私は鏡越しに彼女の貌を覗き込んだ。

分厚く塗り込められた白粉の層。その下で、紫色のクマが痣のように透けて見えている。


(拒食の兆候……あるいは、過度なストレスによる自律神経の失調)


原因の特定デバッグは容易だった。

実家である王家――最大級のスポンサーからの、天井知らずのプレッシャー。

不可能なKPI(重要業績評価指標)を突きつけられ、精神の摩耗を隠して立ち続ける、哀れな中間管理職の姿。


「……どうしたの?  早く数字を言いなさい」


不自然な沈黙に耐えかねたように、彼女が苛立ちを露わにした。


ここからは、採寸ではない。

コンサルティングのための、核心を突くヒアリングだ。


「貴妃様。……最近、よく眠れていらっしゃいますか?」


「は?  何を……」


「この数字は、美しさの証ではありません。悲鳴です」


私は彼女の耳元、髪の毛一筋の距離まで近づき、誰も聞いていないことを確認してから、冷徹な真実を囁いた。


実家(スポンサー)からの要求水準(ノルマ)が、高すぎるのではありませんか?」


その瞬間。

鏡の中に映っていた「完璧な仮面」が、音もなく粉々に砕け散った。

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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