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私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~  作者: MARUMI


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206/211

後日談-初夜

こちらの話を執筆するにあたって、R-15指定追加させていただきました。ご注意願います。

⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆


 挙式と披露宴を終えると、既にすっかり日が暮れていた。


 ドレスを脱いで、髪を解き、湯浴みを済ませた私は、鏡台の前に腰掛けた。


 サーシャがまだ肩までしか伸びていない髪にゆっくりと櫛を通してくれる。


「……エリシア様、ご結婚おめでとうございます。

 少し前まで、神殿で御子をされていたのが嘘のようです」


「本当に……」


 ここ数年の出来事を思い返すと、本当に色々なことがありすぎて、あっという間のようで凄く昔のように感じる。


「緊張されていますか?」


 サーシャの言葉に私は鏡越しに赤くなった頬を隠す。


 結婚式の後の夜、何があるのかは初心な私でも知っている。

 それに、いつだったか熱の篭った眼差しでノアに言われた言葉を思い出す。


『この先は……あなたが私の妻になってから』


 それは、きっと、今夜のことだ。


 サーシャがくすりと笑い、ネグリジェを整えながら言った。


「とてもお美しいです。

 公爵……いえ、今は“旦那様”でしたね。

 きっと、心を奪われますわ」


「そ、そんなこと………!」


 サーシャは微笑みながら、肩にショールをかけてくれた。


「エリシア様、心配はいりませんよ。

 旦那様はエリシア様を傷つけるような方ではありませんから」


 私は目を伏せ、指先をぎゅっと握る。


「わかってる。

 けど……今日のことを考えると……」


 声が小さく震える。


「だって……初めてだから……」


 その言葉に、サーシャは柔らかく目を細めた。


「大丈夫ですよ。

 旦那様は誰よりもエリシア様を大切にされている方です。

 ……きっと、優しい夜になります」


「……うん」


 本当にその通りだ。

 ノアはいつだって優しくて、温かくて、まるで壊れ物のように大切に大切に扱ってくれる。


 それでも、胸はずっと落ち着かず、ふわふわしたままだった。


 サーシャが退出し、部屋が静かになると、私はそっとベッドの縁に腰を下ろした。


 心臓がやけに早い。


(……ノア、もうすぐ来るのかな……それとも、まだ誰かに捕まってるのかも……?)


 指先を胸元に当てると、自分自身の大きな鼓動が伝わる。


 ノアのことを思い浮かべると、いつもは落ち着くのに、今は思い出すだけで、鼓動がぎゅっと跳ねた。


(ノアが来たら……何て言えばいいの?

 “お疲れさま”……? “来てくれてありがとう”?

 それとも……もっと、その……)


 考えるほど顔が熱くなる。


(だって……今日、ノアと……)


 そこまで考えて、私は両手で顔を覆った。


「もう!無理……恥ずかしい……!」


 でも、逃げたくない。


 ノアと結ばれるのが、嬉しくて、怖くて、幸せで。

 胸いっぱいの感情が渦巻いて、もうどうにかなってしまいそうだった。


 そんな時、廊下からこちらに向かう足音が聞こえた。


 ドクンと大きく胸が跳ねる。


(……来た?)


 胸がいっぱいで、息まで詰まりそうだ。

 けれど、扉が開く瞬間だけは――そっと背筋を伸ばした。


 扉が静かに開くと、ノアが部屋に足を踏み入れる。


 ゆったりとしたシャツ姿だと、引き締まった体が余計に目立って色っぽく感じられて、目のやり場に困った。


 そして、その青い瞳がまっすぐ私を捉えた瞬間――胸が痛いほど高鳴る。


「……ノア?」


 少し震えた声が、静かな寝室に落ちる。


「エリー」


 ノアが私の名前を呼ぶ声は、どこかぎこちなくて。

 いつも誰より落ち着いているノアが、迷っているように見えた。


 そんな彼の姿に、胸の奥がじんと温かくなる。


「ノア、その……」


 立ち上がろうとした瞬間、ノアは首を横に振り、そっと隣に腰掛けた。


「今日は、疲れましたか?」


「ううん。大丈夫。

 それより……ノアこそ」


 ノアはそっと私の手を取った。


「……今日、とても綺麗でした」


「え……」


 突然の褒め言葉に耳まで一気に熱くなる。


「今も、とても綺麗です……」


 それは、囁きに近い言葉だったけれど、胸の奥まで深く響いた。


「ありが……とう。

 ノアも、凄くかっこいい」


 二人の視線が絡む。

 ただそれだけなのに、胸の奥で何かがふわりとほどけていく。


 甘い沈黙がふたりの間に落ち、空気がそっと色を変える。


「ノアと結婚できるなんて、今でも夢みたいで……私、幸せです」


 その瞬間、ノアの瞳が揺れる。


 私の手を取る指に力が入り、彼はほんの一瞬だけ視線を落とす。


「……エリー」


 彼は、恥ずかしそうに、けれど逃げずに言葉を続けた。


「愛しています」


 胸が熱くなる。涙が出そうなくらい嬉しくて、苦しいほど愛しくて。


 そっと、ノアの頬に触れた。


「私も、愛しています」


 ノアが息を飲むのが分かった。


 彼の腕が私の身体を強く抱きしめると、ゆっくりと私をベッドに寝かせた。


 ノアの唇が吐息と共に落ちてくる。

 そこから、静かに夜が深まっていった。


「……エリー」


 名前を呼ばれる声が、いつもより低く、耳の奥まで震えて全身が熱を宿す。


 ノアの指がそっと頬へ触れ、滑るように首筋へ落ちてきた。


 そのまま薄いショールを外すと、胸元に残る傷跡が月明かりを受け、淡く浮かび上がった。


(幻滅……してないかな……)


 ノアがそんなことを思わないのはわかっているけど、やっぱり心配だった。


(こんな身体に傷のある女、やっぱり嫌……だよね)


 ノアはそんな私の気持ちを汲むように、頭を撫でて頬にキスを落とす。


「……触れても、いいですか?」


 私は震えながら小さく頷いた。


 ノアは片手を私の手に絡め、そっと胸元の傷に唇を寄せる。


 柔らかい感触が触れた瞬間――胸がふわりと浮くような感覚が走る。


 ノアは傷の上を端から順に、丁寧に、まるで癒やすように唇を落としていく。


 そのたびに息が浅くなり、胸の奥が熱く満たされていく。


「エリー」


 耳元で名前を囁いた後、ノアはそっと私の耳に唇を寄せた。


「……っ」


 甘い感覚に思わず吐息が漏れる。


 初めてなのに、怖さよりももっと触れて欲しくて。

 ――この人になら、全部奪われてもいい。

 そう、本気で思った。


 口付けがゆっくり、頬から喉元、鎖骨へ落ちるたび、吐息が漏れる。


 唇が離れると、ノアは眉を寄せて私を見つめた。


「怖くないですか?」


「……ノアだから大丈夫」


 それだけで、彼の瞳が溶けるように柔らかくなった。


「ノアになら、何をされても――」


 言いかけた私の声を遮るように、ノアがそっと唇を押し当てた。


 口付けが深くなる。

 息が絡んで、頭がぼんやりしてくる。


 潤んだ瞳でノアを見つめると、彼は苦しげに笑った。


「……そんな可愛い反応されたら……

 優しくできなくなりそうです……」


「うそ……ノアはいつも優しい」


「今の私に、そんな余裕はありません」


 彼の囁きに全身が熱くなる。


 ゆっくりと衣をはだけさせて、彼の手が素肌に触れた瞬間、体が小さく震える。


 ノアの指が私の体の線を辿るたびに、そこだけ熱が灯るようだった。


「ノア……っ」


 ノアは安心させるように私に口付けると、優しくそっと私を甘い刺激に溺れさせていく。


 自分のすべてがノアに満たされていく。


 夜は深く、静かに更けていく。

 逃げ場のないほど甘くて、

 名前を呼び合うだけで涙が出るような――。


 ただただ、幸せな夜だった。


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