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「私は妻を交通事故で亡くしているから、そういう関係で意見を聞きたいとか、わかり合いたいというお客様が多い。
だからか、精神的に不安定なお客様が多いんだよ。
大抵は運営側で調べてこちらでさすがに対応は難しいものははじいているいるようだけど、所詮書いてる内容だけでは女性の精神状況がどこまでの状態なのか判断できない。
僕たちは専門家じゃない。
医者でも弁護士でもない。
ただの茶飲み相手だ。
お客様もわかっていて感情が抑えられなくなったりと対応が難しい相手もいる。
そこはいつも悩ましい。
まぁそういう話は後で運営側とも話をするとして」
セイヤはヒロを見て軽く頷いた。
「今回対応した中で一番印象深かったのはまだ20歳くらいの子で、お姉さんが殺され、お母さんが自殺したという今まで私が対応した中でもかなり重い内容だった。
お父さんが早くに離婚して、父親ということを知らないと言うことで、家族ごっこのようなこともしたけど、いや、なんというか、結構対応していて辛かったね」
伏し目がちにヒロは思い出すように話す。
「たまたま私が対応していた時に酷い状況と改善する兆しが彼女に起きたが、その後の状況がわからないというのはいつも不安になるね。
自分が対応してこんなにも消耗している子をもっと苦しめていないだろうか、とか。
それでお客様にお願いしているアンケート以外にも、その後一方的でよければメールを一定期間受け付けるというシステムになってから、少し安心する部分も出来た。
今回も、その子から彼氏が出来た、というメールを本部が受け取ったと連絡があったときには、おめでとうとどんなに彼女へ直接伝えたかったか・・・・・・」
そのまま黙り込むヒロの様子を見て、セイヤが口を開いた。
「以前から、お客様からのその後の連絡を受け付けるのはどうかという意見がスタッフから多く、スタッフの品質向上のアンケートにコメント欄もありましたが、別途お客様の声としてメールを受け付けることにしました。
もちろん再度話をさせて欲しい、返事が欲しいという内容もございますが、一定程度の期間のみの受付ですので、スタッフとしてはその後の状況を知る機会も出来、モチベーションにも良い影響を与えていると思います」
「ほんと、一時期しか関われない分、その後がむちゃくちゃ気になるんだよねぇ。
地味に悶々とするときあるし」
「こればかりは正解が無いからなぁ」
いつも陽気なタクヤが少しため息をつきながらそういうと、オサムが同意した。
「妻の死を経てこんな形で外に広がれるとは思いませんでしたが、本当にこのカフェには感謝しています。
今回で最後ですが、本当にありがとうございました」
そういうと、ヒロは深々と皆に向けて頭を下げた。
「いえ、こちらこそ、ヒロ様からの意見は私ども運営も非常に勉強になりました。
どうぞ最後の会合も忌憚ないご意見を」
そういってセイヤが微笑むと、ヒロは困ったように笑った。
「さて次は、オサム様ですね」
「すみません、やらかしました」
「うん、是非詳しく」
セイヤがオサムに順番を振れば頭を掻いてそういうオサムに、笑顔でリュウが突っ込んだ。
「あー、うん、この会合はミスこそ共有すべきだから恥を忍んで言えば、さっきも少し話したけど、初めて気を許してしまった女性だったと思う。
それで彼女を不快にさせてしまったのに、彼女はまたこんな俺を指名してくれて、会いたい、みたいな事を言われて、その、舞い上がったというか」
最後は顔を赤くしながらぼそぼそと話しているオサムに、タクヤがヒュゥ!と口笛を鳴らした。
「非モテにそれはきついね!」
「タクヤ君みたいにもてる人間には、長年非モテで暮らす人間の苦悩などわからんだろうさ・・・・・・」
タクヤとオサムのやりとりを見て、イチロウが、あのーと声をかけた。
「オサムさんって非モテなんですか?
税理士さんなんですよね?
ここのスタッフもしてるんですし、モテないなんてただの思い違いでは?」
その言葉に他のメンバーはイチロウを見た後、皆顔を背け笑いを堪えた。
「あ、すみません、ずかずか失礼な事を・・・・・・」
「いや、良いんだよ、イチロウ君は始めた理由を知らないんだし。
本当に非モテだからこそ、ここのスタッフになったんだよ。
女性と話す機会がなかなか無いのに、仕事では嫌でも女性と話すわけじゃない?
これには仕事をしていく上でかなりのハードルだったんだ。
ここはスタッフとして現場に出る前にきっちり女性相手に研修あるし、慣れるためと仕事でのコミュニケーション能力向上のためにここのスタッフを始めたんだよ」
「ではもう慣れたのでは?」
イチロウの無邪気な質問に再度皆は笑いを堪え、セイヤは困ったような笑みを浮かべている。
それにオサムは特に嫌そうな顔もせず、ただ情け無さそうに話を続けた。
「そうだなぁ、わかったのは面と向かって話すのと、通話は雲泥の差ってこと、僕の場合」
そう言いきったオサムに、今度は皆が切なげな目線を向ける。
その視線に気がついたオサムは、恥ずかしさに耐えきれないように声を出した。
「もうここで勘弁して!
はい次!次リュウくんでしょ!」
「はは、了解です」
投げやり気味にオサムがリュウにボールを投げた。




