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宿り木カフェ  作者: 桜居かのん
Case5 美人故に結婚が難しくなった29歳
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「そういえば、松本さんって何の研究してるんですか?」


無言でお互い食べているのが辛くなった私は、一応話題を振ってみた。

私の質問に少し彼はきょとんとして口を開いた。


「天文学です」


「あー、星とかですか?」


「まぁそうですね」


「宇宙人っているんですか?」


私は唐突に聞いてみた。

なにせ天文だの星だの言われてもよくわからないので、興味本位で投げてみただけ。

しかし彼は私の質問を受けた後、顎に手を当てて考え込んでいる。


「今の質問はナシで良いです」


「いや、宇宙人という概念をどうしようかと思っていたのですが、おそらく一般の人が言う宇宙人ということであれば、いると思います」


「え?」


「えっ?」


私が予想外の答えに驚いていると、彼も驚いた。


「あれ?そういう質問だったのかと」


「あぁ、そうなんですけど、科学者の人ってそういうの否定するのかと」


そう言うと、彼は、あぁ、と納得したようだった。


「まだ宇宙の解明なんてほとんど進んでいないんです。

それが地球だけこういう人類が発達したなんて、確率論からしてありえませんね」


さっきまで見ていたぼんやりしていた顔では無く、引き締まった顔になった彼を少し驚いてみた。


「亡くなられましたが、イギリスのホーキング博士って知りませんか?車椅子の」


「あぁ、テレビで見たことあります」


「彼は理論物理学者なのですが、人間がいわゆる宇宙人に積極的に接触を持とうとすることに反対しています。

我々は何故か無意識に外からのものが善で来ると思っていますが、ホーキング博士の主張は、地球は侵略されるという考えです。

私も同感ですね。

今の興味本位のやり方は非常に危険で幼稚な行為だ」


つらつらとビールのジョッキを持ちながら話す松本さんを、私はぽかんと見ていた。


「・・・・・・・あ!すみません、つい」


「あぁ、いえ」


なんか気まずい。

その後なんとなくぎくしゃくして、もうそろそろと私から切り出して会計することになった。


「あ!」


彼は自分の服を触っていたが俯きながら声を出した。


「どうしたんですか?」


「財布を忘れてしまいました・・・・・」


「・・・・・・」


この人わざとなんじゃないかしら?

でもこの人なら本当に忘れたような気もする。


「いいです。

そんな大した金額じゃないですし、私が払いますから」


ため息をつきながら言うと、彼は再度必至にポケットをいじっているが出てきたのは、スマホと電車のICカードのみだった。


「名刺があればと思ったんですが日頃持ち歩かないもので・・・・・・」


「もう、いいですから」


なんだか面倒だ。

そわそわしている彼に席を立ちながら、


「松本さんはこの後は家に帰るんですか?」


「いえ、研究所に戻ります」


多分そうだろうと思った。


「なら先に帰って下さい。私は会計を済ませますので」


そういうと、本来この場で会計できるのに、私は伝票を持って立ち上がり、おろおろとしている彼を放置して会計に向かった。

今日はなんか散々だった。

三度目の投げやりに会って見た彼は、男性としてどこにも魅力を感じられなかった。

あげく財布を忘れるとかどうかしている。

その時点でどれだけこの顔合わせにやる気が無かったのかわかる。

普通なら失礼のないように持ち物くらい確認するだろう。

それだけ私を適当に思っていたのだと思うと、会計をしながらどんどん腹が立っていく。


会計を済ませ店を出ると松本さんが立っていて、慌てて私に頭を下げた。


「本当にすみません!」


「いいですから」


私はそれだけ言うとその場から立ち去ろうとした。


「あの!」


私は無言で振り向く。


「後でサイトの方にメールしますので!」


彼がまた頭を下げるのを、私は冷めた目でみていた。





家に帰り、腹立たしさが消えないまま風呂を済ませベッドに倒れ込む。

婚活サイトで会った男性は皆最低だった。


そして今まで交際した男性を振り返る。

皆、紳士にエスコートしていた。

お金なんて私は一度も払わなかった。

彼らは私をきっと腕時計感覚で見せびらかしていたのだろう。

でも私だってその価値があると思って、当然だと思っていた。

それが歳がもうすぐ30というだけでこの扱い。


「あー若い頃に戻りたい」


私は心底そう思いながら眠りについた。




翌朝、だいぶ腹立たしい気持ちも収まってきたので婚活サイトを開いてみた。

そこには色々なメールに紛れて、松本さんからのメールが来ていた。


『先ほどは失礼しました。

食事代を振り込みたいので、口座を教えてもらえないでしょうか』


私はその文面を見て固まっていた。

口座?!聞くのは口座なの?!

ここは普通、今度は僕が奢りますからご予定どうですか?とかでしょう?!


私はまたこのメールを見てふつふつと怒りが湧いてきた。

だってこれは、貴女に興味はありません、と言っているのと同じだ。

こちらが振るのはわかる。

でもあんなオタクに振られたのは、私のプライドを酷く傷づけた。



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