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宿り木カフェ  作者: 桜居かのん
Case4 思春期の子供達に悩む主婦43歳
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こんなはずではなかった。

一生懸命愛情をもって育ててきた。

なのに何故こんなにも冷え切った夕食をしているのだろう。

目の前に家族がいるのに。




私、鈴木恵子はそろそろ40も半ば近くになった。

子供は二人。

上が高校生の男の子、下は中学生の女の子。

夫は大手銀行勤務、私は専業主婦。

駅から少し距離はあるものの戸建ての持ち家もある。

端から見えれば、素晴らしい理想的な家庭に見えるだろう。


私はもともと看護師だった。

高校卒業後看護系の専門学校に通い、中規模の病院に就職した。

まだまだ駆け出し、失敗を重ね日々一生懸命だったそんな時、受け持った入院患者の一人が今の夫だった。


彼はごく初期のガンだった。

手術で切除すればほぼ根治出来るというこちらからすれば幸運な状況だったのだが、当時の夫はまだ若く相当なショックを受けたようだった。

それをまだ患者との距離感もわかっていなかった私は、彼に根気強く励ました。

同僚達から窘められたが、どうしてもあそこまで落ち込んでいる人を放置できなかった。


手術は無事成功、それも短時間。

数え切れないほど手術している医師達からすれば、彼に説明したとおり簡単に終わった。

彼はすぐに退院が決まったのだが、そこで彼は私に結婚を前提に交際して欲しいと言い出した。

相手は大手銀行マン、大学も一流大学出身。

本人も生活には苦労させないと私を説得してきたが、ようやく看護師という資格と仕事について間もなく、私はありがたい話だと思いつつも断った。


周囲からは、もったいない、こんな薄給で大変な仕事より専業主婦になれるほうが良いのにと言われた。

確かに専門学校卒の私がそんな一流の人に交際を申し込まれたというのに、それを断ったのは早まったかなと思ったりもした。

だがまだ看護師の仕事をしたい私はそれで良いと言い聞かせていたのに、彼は退院してもめげなかった。

ことあるごとに病院へ来て、私を口説いた。

きっとあの時期が一番幸せだったのかも知れない。


私は彼の熱意に負け、交際を承諾した。

だがすぐに彼は転勤の話が出て、そのまま結婚を申し込まれた。

これからも支えて欲しい。

彼の私に対する願いを受け入れ、転勤前にと急ぐように結婚式を挙げた。

そして、あんなに頑張って憧れの看護師になったのに、転勤のために辞めることになった。


彼は、君は資格を持っているんだ、転勤先でもすぐに仕事は見つかるよと言い、私はまだそんなに経験もしていないのに大丈夫だろうかという不安を抱え引っ越した。


転勤先で彼は私が家で待ってくれていることを望み、忙しい彼の支えになるのならと看護師の仕事はパートで入ることにした。

転勤先は大都市では無かったものの、小さなクリニックでは常に人手不足ですぐに仕事は決まったのはホッとした。


だが一年して転勤の辞令が下りた。

一年だ、まさか一年で転勤するなんて。

それも近くでは無い、全く気候すら違う場所。

私は彼がそういう職業である事を理解していなかった。

銀行に勤めていると聞けば一見収入が高く気楽なイメージもあるが、転勤が頻繁で想像以上に大変であることをそれから思い知る。

せっかく慣れてきたクリニックを辞め、また違う土地に行く。

次の場所も二年も居ないで転勤になったときは愕然とした。


まだ夫婦二人だけでいるなら転勤するのも身軽で良かった。

子供が出来ての転勤は本当に大変だった。

こんなに転勤が多く、仕事もままならない私に、彼は家族が増えることを望んだ。

兄弟のいない彼は子供は二人欲しいと常々言っていたが、転勤をしながら二人の子供に恵まれた。

その時には看護師のパートも既に辞めざるを得なかった。

パートなのに育児休暇が取れるわけも無い。

どこも人手不足、すぐさま人を補充しなければならないのは当然。

育児、そしてまた妊娠。

私が看護師の仕事に戻ることは無かった。


私も転勤の度に大変だったが、それは子供達も同じ。

上の子は通った小学校が4つある。

子供達はそれでも適応能力があるのか、その場その場で友人を作れた。


しかし私はそうはいかなかった。


転勤する時、基本社宅に入るわけだが、これがまた他の奥様方との付き合いが大変だった。


毎回どの人がボスなのかチェックし、夫の地位が私の地位になり、奥様達の間ではほとんど一番年の若かった私は、いつも社宅の面倒事を押しつけられた。

貴女の評価が夫の評価に影響させるのよといわんばかりの圧力と、子供達が仲間はずれにされるのが恐ろしくて、私は笑顔で必至に付き合いと雑用をこなした。

しかしそんな事を相談しても、夫は忙しいからと真剣に聞いてはくれず、まともに相手にもしなかった。



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