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「楽しそうだね」
コピー機で書類のコピーを取っていたら、ふいに後ろから課長に声をかけられた。
違う意味で驚きそうなのを隠し、ちょっと驚いた振りをして普通に答える。
「そうですか?」
「例のおっかけのせいかな?」
後ろの方から、ぶっ!という笑い声がして振り向くと、先日更衣室でおっかけの話をした同僚達がいた。
「そ、それはあまりこういう場所では」
周囲を見回し戸惑い気味にそう言うと、課長はほどほどにねと言って、おかしそうに笑って去っていった。
「遊ばれてるね」
「あそこで吹き出さないで下さいよ。
というか課長にバラしたんですか?酷い」
私がそういうと、さっき吹き出した同僚がにやりと笑った。
「お気に入りの林さんが他の若い男に夢中で、課長も面白くないのかも」
「え?どうしてそうなるんですか!?」
思わず焦ってそう言うと、にやにやしつつ彼女は言葉を続ける。
「だって課長、林さんには優しい顔するもの」
私はすぐに言葉が出なかった。
そんな事知らなかったし、以前と課長が私対する態度なんて変わらないと思っていた。
まさか他の人からそんな風に思われていたなんて。
どうしよう、変な勘ぐりを周囲がしだして課長の迷惑になってしまったら。
私は内心もの凄く焦ってきた。
「まさか!課長は誰にだって優しいじゃないですか」
「そうかなー気のせいかなー」
「からかって遊んでますね?」
「うふふ、じゃぁそういう事にしておいてあげる」
面白そうに私を見ると、彼女は仕事に戻り、私は印刷物を持ってその場を離れた。
自分の席に戻り未だ心臓がどくどくしている。
不倫がバレてしまう恐怖が襲ってきて妙な汗が浮かんできた。
早く彼と話がしたい。
こんな不味い話、すぐに伝えなければならないのでは無いだろうか。
しかし彼はここの所仕事が忙しく、次のデートの予定も立てられなかった。
会社内で二人だけで会うのはどの場所であったとしても禁止にしていたし、連絡は専用のSNSを使っていたが使う時はかなり気を使っていた。
とりあえず私はお昼に外に出た時に、こういう指摘をされ、心配している事をSNSで伝えた。
その夜家に居るとSNSで彼から連絡が入り、今電話が出来ないかとの事だったので、すぐにOKのスタンプを押して返す。
彼から電話がかかってきてすぐに出る。
「お疲れ様です。もしかしてまだ会社?」
『お疲れ様。
そうだよ。まぁここは会議室で誰もいないから安心して』
「あの、ごめんなさい、あんな内容送って」
『いや、これは俺の失態だ。
無自覚にやってたんだろう、今後は気をつける』
「うん、こっちも気をつける。
でもその、実はそんなこと聞いてまずいと思いつつ嬉しかったりしたの」
『そうか、この頃会えていないからね。
なら今度会うときには思い切り甘やかしてあげるから』
「・・・・・・うん。
まだ仕事があるんでしょ?
早く済ませてお家に帰ってあげて」
『ここの所ずっと0時過ぎだったからなぁ、そうするよ。
気遣いありがとう。じゃぁ』
通話が終わっても顔がにやけてしまう。
こんなことがあって幸せだと思わない訳が無い。
私は早くリュウさんにこの話がしたかった。
『言うねぇ、その彼氏』
彼との電話での事を報告したら、楽しそうにリュウさんは答えた。
「まずいことだなと思いつつ嬉しくて」
『それはそうだろうね、特別って事だから』
特別。
その言葉を口に出し、顔がだらしなくなってしまう。
会社の話をして、リュウさんのお相手はどんな女の子だろうかと聞きたくなった。
いや以前から気になっていたけれど。
「リュウさんの彼女さん達は会社の人ですか?」
『はは、まさか。
自分の雇ってる子達には絶対手は出さないよ。
面倒なことになるからね、それこそ君達のように』
「そ、そうですよね・・・・・・。
じゃぁ、その彼女さん達とはどうやって知り合ったんですか?」
『色々かなぁ。
こういう仕事してると色々な人と会うから』
「そうだ!前回聞けなかった相手の女性達の話を是非詳しく!」
『おや、覚えていたか、残念』
リュウさんの声は全く残念そうじゃない。
むしろずっと私を面白そうに観察している感じだ。
「やっぱりモデルとかそういう美人な方々ですか?」
『先に言っておくと、僕はイケメンとかでは無いからね?』
急に真面目な声で言われ、私は思わず吹き出した。
想像ではきっと格好よくスーツを着こなし、どんなときでも余裕在る表情で社長室にいそうな気がする。
『ということで僕の外見目当てでは来ない。
要は中身で勝負というとこかな』
「社長さんなら近づく女性は多そうですね」
『それは否定しない。
けどね、僕の彼女たちは、そういうのに興味のない子達ばかりなんだ』
「そうなんですか?」
『そう。
そういう肩書きに興味のない子を落とすのが僕の楽しみの一つ』
「なんか悪趣味ですね」
思わず呟いて、しまったと思った。
段々張っていた緊張が解けて、するする口に出てしまっている。
失礼なことをして嫌がられたのではと思ったのに、向こうからは軽い笑い声が聞こえた。
『強いて言えば、狩りをする男の本能だとでも思って欲しいかな』
「うわぁ」
『そういう君も狩られた獲物でしょうに』
「えっ?」
リュウさんの突然の言葉に驚く。
駆られた獲物、宿り木カフェに行き着いたことだろうか。
それとも彼とのことを勘違いしているのだろうか。




