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第二話「Ability」

5話と言ったな、あれは嘘だ。

長くなりそうなので能力についての話を分割しました。6話で収まるかな……

 私達が突然勇者召喚された日から二日。


 私達側の自己紹介もそれぞれ終わり、この世界の基本的なことを一通り聞き終えてある程度心に余裕が出来始めた頃。


 宰相から前日に能力確認兼戦闘訓練を行うといわれていた私達は、当日になって馬車に乗せられ訓練場へ行くことになった。


 舗装技術があまり進歩しておらず、サスペンション等も当然無い様で、道中の馬車の乗り心地は最悪といっていいくらいだった。


 そうして着いた訓練場だけど、地面が平らに整地されているだけで、屋根もなくめぼしいものは中心にある幾何学模様程度。三百六十度を城壁に囲まれた殺風景な所で、お世辞にもあまりよい場所とは思えなかった。


 訓練場で待機の指示が出たので、吐き気を誤魔化す意味もかねて春と明の三人でお喋りしながらしばらく待つと、連結された馬車が訓練場に入り、一方から銀色のアーマーで全身が光り輝いている巨躯の騎士が現れて私たちの前に立つ。


 騎士は兜を脱ぎ捨て、その明らかに日本人離れした彫りの深く体毛の濃い顔を露出し、クラスメイト達の後ろの方にいる私でも聞こえる程大きく息を吸い込むと、眼をカッと見開き、耳をつんざく様な猛々しい声で演説を始めた。


「本日から勇者の戦闘訓練を務めることとなった、王国軍近衛部近衛隊、指揮官のプロトだッ!

 さて諸君、残念だが私は勇者だからといって貴様らの訓練内容に一切妥協はしない。

 何故なら、貴様らは能力はあっても心持が新兵そのものッ! 血におびえ、死の臭いに慄き、狂乱を起こして逃げ出す新兵そのものだッ!

 断言する。これから貴様らの能力、素質について調べるが、貴様らにたとえどんなに強力な力……使いようによっては単騎で戦況をくるりと覆す様な圧倒的な力が宿っていたとしても、戦場に赴けば数瞬たりとも持たないだろうし、敵の前に立てば赤子を捻るより容易くねじ伏せられるだろうッ!

 だからッ! 私は貴様らを『戦士』として育てる! 血におびえず、死の臭いをものともしない、屈強な『戦士』として!」


「うへぇ……なんかあの人やばそうじゃない?」


 プロトがそれからしばらく雄弁をふるっていると、不意に隣にいた明が小声でそう呟く。


「うーん……否定はできない、かな」


 訓練と聞いていまいち思いつくものがなかったけど、教官がこれなら想像以上にきついかもしれない。野性的な顔からいかにも体育会系って感じはしてたけど……あの様子を見るに、その第一印象もあながち間違ってないさそうだ。


 ……まあ、大軍でかかっても全く敵わなかった魔王軍を相手にするのだ、むしろ楽な方がおかしいと思うけど。


「うちの中学の根性論大好き系顧問に似てるわ……」

「見た目からして精神論とか好きそうだよね~」

「体罰とかも普通にやってそう」


 明と春が同調して頷き合ってるけど……実戦になると冗談抜きで命のやりとりをする軍隊? の訓練を、競技として安全が保証されている部活と履き違えるのは少し違う気もするので、口を挟む事にした。


「まあ、動物も殺したことない私達が戦場なんか行っても役に立たないだろうし、精神論にしても日本の体育会系の部活よりかは意味あるんじゃない?」

「ああ、確かにうち、目の前で人が死んでいくとかメンタル的に耐えられる気しないわ……」

「私も絶対即P何とか? あの、戦争から帰ってきた人がよくなるやつ発症してうつ病になると思う」

「明が言ってるのは確かPTSD、だっけ? 確かに目の前で人が死ぬのは想像以上にメンタル削られるだろうし、精神とは言わずとも、少なくとも血を見て取り乱さない程度の慣れみたいなのは必須、かな」


 そこまで私が喋り終えると、どうやらプロトさんもひとしきり演説を終えたようで、話は訓練の説明に移っていた。


「まずは手始めに、貴様らの能力について調べるッ!

 戦闘の基本は自分の実力を把握することだッ! 勝利に味を占めて無謀な戦闘を続け死んでいくものは多いッ! ましてや貴様ら勇者達は『魔王』という絶対的強者に挑むのだ、他の戦士よりも余程理解を深めるべきだろうッ!

 それにあたり、貴様らにはあの魔法陣で召喚されたゴーレムと一人一体ずつ戦ってもらうッ!

 無論、武装は自由ッ! 私が用意した中から自由に選ぶがよい。ゴーレムに攻撃されても死ぬ事は無いから安心しろッ!」


 プロトがそう叫ぶと、先程の連結馬車から乗っていた騎士によって大量の武器が運び出され、私達の前に並べられた。


「よし、ではまずは自分の得物を決めるが良いッ!」


 その言葉を聞くと、クラスメイトの主に男子が我先にと武器の方に移動し始めた。


「どうした! 早く選ぶのだ。決められないのならば、槍がおすすめだぞッ!」


 しばらくその様子を伺っていた私達だったが、プロトの発破をかけるような言葉で、他の女子と共に武器の方に移動することにした。


「うーん……武器って言われても、どう選べばいいのかわかんないわ。二人はどうする?」


 いまいち弾まない足取りの中、春がそう聞いてきた。


「私は武器なんか触ったことないし……プロトさんおすすめの槍でいいかな。ミクは?」

「私は中学まで剣道やってたから一応剣にするけど、リーチの長い槍の方が基本的に強いって聞いたことあるし、私みたいに習ってない人は多分それがいいと思うよ」

「じゃあ、ここは素直に槍を選んどこうかな」


 そうして、私は刃渡り一メートル位の剣を取り、明と春はどちらも長さ二メートル位の槍を選んだのだけど。


(この剣……なんだか想像以上に軽い?)


 何の変哲もない金属製の剣。当然重さはそこそこあるだろうし、習ってたとはいえ高校生の女子に軽く振り回せるものではないはず。しかし、見た目に反してこの剣、重さがなんと同サイズの竹刀程度にしか感じられなかった。


 宰相の言ってた召喚された勇者に宿る〝尖った戦力〟? 単純に素材が異世界の低重量高耐久の優れた物だから?


 そう考えたところでふと横を見ると。


(!?)


「あれ、なんか軽い?」

「ええ!? そんなに軽くないよぉ……明、筋トレでもしてたの?」

「してるわけないって! ……ほんと、どうなってるの」


 春は持ち上げるのでやっとって感じだけど、驚くことに明が自分の身長以上の見るからにごつい形をした槍を軽々と振り回していた。


「え、やっぱり明も軽く感じる?」

「うん。なんか鉛筆でも振り回してるような感じ。ミクもそうなの?」

「うん」

「二人ともおかしいでしょ……うちは持ち上げるだけでやっとの重さなのに」


 試しに明と春が槍を交換してみたけど、状態は変わらず。ということは……


「私達、召喚された時に筋力が上がったってこと?」


 私がそう呟くと、ちょうどタイミングよくプロトの声が響き渡る。


「勇者たちよ、己の得物の具合はどうだ。重いと感じているものもいれば、存外軽く感じているものもいるだろうッ! 今から武器の重量が軽く感じる理由を教えてやろうッ!

 貴様らは召喚に当たり、大なり小なり天恵ともいえる能力を授かっている! 武器が想像以上に軽く感じる者は、おそらくこの天恵で身体能力を強化されたのであろうッ!

 身体能力強化がされていない者も悲観するな! 身体能力以外の能力も強化されるのだからッ!」


「これが、召喚された勇者の能力……」


 確かにこれなら、戦いに縁のなかった人でも十分戦力として数えるに値するだろう。何しろ、強くなった膂力で長い棒をふりまわすだけで厄介なのだ。もちろん今言った方法には色々無理があるけど、今までろくに戦術とかを考えたことの無い私でもこの程度思いつくわけだし、専門家なら生かす方法なんて幾らでも挙げられるはず。


 ずっと宰相の言葉に疑念を感じていた私だけど、この無茶苦茶な怪力を見ると、勇者を尖った戦力とした事にも納得した。


「では順番に能力確認を始めるッ! そこの者……リュウノスケ、から魔法陣に手を付けてゴーレムを召喚し、模擬戦をせよ!」


 だけど。この時の私は思ってもみなかった。


 ……この筋力が異常な〝能力〟の、おまけ程度の存在だということを。


「あ、はい!」


 呼ばれた男子(淡路 龍之介)である淡路あわじ君が返事をして、幾何学模様もとい魔法陣の方に来て手を付けると、魔法陣が一瞬鮮やかに光り輝き、ずずずっと音がして泥人形が表れる。


 泥人形は淡路君の存在を確認するや否や、中々の速度で彼に襲い掛かった。


「う、うわぁっ!」


 彼は突然の襲撃に半ば悲鳴を上げながら、自身の得物である戦斧を大きく振りかぶった。


 ――その瞬間のことだ。


「危ないッ! 《万物よ、停止せよ》ッ!」


〝ズシャァッ!〟


 プロトさんがそう言ってこちらに何か青い膜の様な物が張られたと同時、淡路君の体がぶれ・・、戦斧が一瞬でゴーレムを両断していた。


 そればかりか、彼の武器である戦斧は舗装もされていない柔らかい土にたたきつけたにもかかわらず、木でできた柄が途中でボキリと折れていて。


「え?」


 壊れた拍子に跳んだ刃が彼の肩を深く切り裂き……鮮血がどろどろと流れ出していた。


 淡路君はその様子を恐る恐る見ると、どうやら痛みがやってきたようで。


「う、う、うああああぁぁぁぁぁぁぁっ!! 俺の、俺の肩がぁぁっ! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」


 恐怖と苦痛に顔を歪め、絶叫を上げた。


 それを見ていた人から続け様に悲鳴が上がり、私達はあっと言う間に恐慌に陥った。


「ひっ」


 悲痛な叫びに、私も例外なく悲鳴を上げて思わず視線を逸らす。周囲を見ると明や春も同じように視線を逸らしていた。


 しかし、直後に更なる驚愕が私達を支配する事になる。


「落ち着けッ! 今回復魔法を……って、どうやらその必要はなさそうだ。リュウノスケよ、もう一度自らの肩を見るがよいッ!」

「あ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……って、あれ? き、傷は?」


 淡路君がそんな間抜けな声を出したので恐る恐る逸らした視線を元に戻すと。


「……は?」


 傷が、消えていた。


 勿論血の流れた跡は残っているけど、その源流であるはずの遠目から見ても十数センチはあろうかという大きな傷が、跡形もなく消えていた。


「うーむ……過去の例から見ても明らかに筋力が高い。それに、その様子を見るにリュウノスケ、お前は相当優秀な再生能力持ちだろうッ!」


 訓練場には呆然とした私達を措いて、プロトさんの声だけが高々と響き渡っていた。

最近は「Censored!!」とか「PUPA」も聞いてます。


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