第三話「Revelation」
4か月ぶりです。本当に申し訳ないです。
思ったより話が長くなってしまったのでまた分割。
「さいせい、のうりょく?」
口からそんな間抜けな声が漏れる。常識の範疇外の事態に頭の中が真っ白になった私はその場で固まり、猛々しいプロトさんの説明も、とぼけた意識を覚醒させるには至らず。
「何、これ」
横から聞こえた明の呟きでようやくハッとして我を取り戻し、相変わらず続いていたプロトさんの話を聞くことにした。
「……とはいえリュウノスケ、お前が傷を負っていいのは戦場、あるいは実戦に近い訓練のみの筈ッ! 能力を試す訓練等で怪我をさせてしまったことは申し訳ない。武具には飛び切り上等な『リネルデュ』と金属を使っていたのだが……どうやら我々は勇者の能力を過小評価していたようだッ!
一先ず武器を回収し、刃から柄まで金属製の得物を持ってこさせようッ! 暫し待つがよいッ!」
そう言うと、騎士達がプロトさんの指揮の下武器を回収していった。
騎士たちの作業が一段落したところで明が話しかけて来る。
「……再生能力って何? もしかしてあのおっさんはこんな超能力が『天恵』なの?」
「超能力……ね。私的にはそのおっさんが『万物よ、停止せよ』って言った後にできた青い膜も気になるんだけど……あれが昨日言ってた『魔法』なのかな」
超能力。全くもっていい例えだ。私達が目の当たりにした光景は正にその通りなのだから。
春がそこに付け加える。
「回復魔法、とかも言ってなかった? もしかしなくてもそういう系の魔法もあるってことだよね」
「うん……それにひょっとしたら訳分かんない筋力も、淡路君の再生能力も、もしかしたら召喚された時にかけられた魔法の効果じゃない?」
魔法。召喚されてから数日かけて教えられたこの世界の常識では、現代における携帯電話(又はスマホ)のレベルで必需品であり、元の世界にないと伝えると随分驚いていたのが印象的だった。
「ああ、確かに全部魔法なら辻褄が合うし……いや、でも何でもかんでも魔法のせいにするのもなんか違うっていうか、テレビの都市伝説とか陰謀論じみた感じがしてなんだかなぁ……」
というわけで魔法が滅茶苦茶万能だということは認めざるを得ない。……得ない、けど、目の前の不可解な現象全ての原因が魔法っていうのも思考停止してる感じがしてどうかと思う。……何だかんだでそれが一番説得感があるのがやるせないけど。
「でも……じゃあ何だっていうの?」
「それは……」
案の定明に問いただされた私は、答えられずに口ごもるしかなかった。
明はそんな私の様子を見かねたようで、謝ってきた。
「……ごめん、責めてる感じになっちゃって」
「大丈夫、全然気にしてないから」
そんなやり取りがあった後、春が先程の魔法陣に視線を向ける。
「ところでさ……やっぱりアレ、どうしてもやらなきゃいけないのかな……。うち、あんなの見せられたらやりたくない……」
その意味を理解すると、私と明は揃って苦い顔をする。
「ああ……。淡路君は再生能力があるお陰で助かったけど、春が力持ちじゃ無かったみたいに全員がそういう訳じゃ無いだろうし、下手したら死んでたもん」
「この状況で続行とか、普通あり得ないしね……」
そう、今しがた淡路君が行っていた、泥人形を使った能力の確認だ。
「でしょ!? 幾ら持ち手を金属にして対策するとはいえ強度計算とかはやってないっぽいし、また事故る可能性あるじゃん!」
まあ、ある意味では当然だし、何よりリスクを避ける点では賢明な判断とも言えるだろう。でも……
「うーん……やっぱり私は、少し危険だろうとやっておきたいなぁ」
「え、もしかしてミク、自殺願望あるとか言わないよね……?」
「ミク、冗談でも言っていいことと悪いことがあるよ!? 何でみすみす危険に突っ込むの!?」
血相を変えて詰め寄ってきた明と春に理由を説明する。
「ま、まあまあ二人とも、落ち着いて。私も何も考えずに突っ込んでいくわけじゃないから」
「じゃあ、なんで?」
「ほら、二人ともさっきの淡路君の戦いとその結末は見たでしょ?」
二人がこくりと頷く。
「見たところ淡路君は、斧をふるうその瞬間まで自分が怪力になったことに気づいてなかった」
「それがどうしたの?」
「となると、私達は知らない内に怪力とか超能力を与えられてるってことになるじゃん。そんな、いつどこで淡路君みたいに暴走するかわからない状態で普通に生活しろといわれたって、私は怖すぎてできない。むしろ淡路君みたく騎士の監視下で暴走してくれた方が、多少のハプニングとか怪我なら何とかなりそうだし」
暴走する危険があるのは何も能力確認の時だけじゃないし、これから先のことを考えると早いこと自分の力に慣れ親しんだ方がいい気がしたのだ。
「まあ、そうとも言えるかもしれないけど……でも、みすみす普段しない動きをして能力を暴走させるリスクを侵す必要は無いんじゃない? 与えられた能力によっては一回で死ぬかもしれないんだよ?」
「そう、そこがネックなんだけど……でも、魔王討伐ってことはこれから先沢山戦わなきゃならないかもしれないし、自分の力を把握しておくのは重要だと思う。いざとなった時に自分の力がわからないと何にもできないから」
「そっかあ……私達、これから怪物と戦わなきゃいけないんだっけ。うーん……いやぁ……それでも送り出す気にはなれないわ」
「ミクの考えは分かったけど、それでもうちはこんな危険なこと反対だからね!」
一応考えは理解してくれたみたいだけど、それでもなお二人は私の能力確認に反対のようだ。
「大丈夫! 私中学の頃剣道やってたって言ったでしょ? 未経験者とは違って剣を力任せに振り回したりしないし、素手の泥人形くらい何とかなるよ」
「……本当に行くの?」
「止めておきなって……」
二人の執拗な制止でなんだか不安になってきた私は……
「絶対大丈夫。うまくいく」
そう心の中で反芻したのだった。
それから少し経つと、馬車が武骨な音を立てて入場し、それと同時、プロトさんも立派な馬に乗って現れた。
「皆の者、待たせたなッ! 新しい武器だ。飛び切りの金属を使った、最上級の得物だッ!」
その言葉と共に、訓練場には騎士達によって硬質感のある武器がずらりと並べられる。
「一部金属以外の部位もあるが、これは炎や氷に対して余りに弱いからだッ! しかし今回は持ち手のつくりも特に頑丈なものにしたッ! もし手からすっぽ抜けても我が魔法で受け止める、安心して振り回すがよいッ!」
その時。
「あ、あの!」
「むっ?」
一人の女子生徒がプロトに声をかけた。
「その者は……フジハラ……カノン、だったかッ! どうしたのだ?」
確かに彼女は藤原 花音で間違いない。
プロトさんがクラスメイト一人一人の名前をちゃんと憶えていることに感心しながらも、私は事の顛末を見守ることにした。
藤原さんはプロトさんの迫力に気圧されてか、精一杯声を振り絞って叫ぶ。
「こ、この訓練見学してよろしいでしょうかっ!」
するとプロトさんは驚いた様子もなく、言葉を返す。
「丁度その話をしようとしていたところだッ! 先の件もあったし、実戦と比べると著しく劣るが『色』で大まかな『天恵』を見出す方法もあるッ! 今回受けないものは、そちらに回すか後日同じことを行うとしようッ!
能力確認を受けたくない者は後日今日と同じ、もしくは他の方法で執り行うから名を確認するッ! あの騎士の周辺に集まれッ!」
声が響き渡ると、結構な人数がプロトさんが指さす騎士の方へ歩いて行く。私と同じく受けることを決めた人は、大体半分かそれより少ないくらいだった。
「では、残った者は武器をとれッ!」
武器を取り、周囲を確認してから、拾い上げた剣を軽く振ってみる。先程よりかは重量があるように思えたが、それでも見た目とのギャップはぬぐい切れなかった。
「……まあいっか」
相手は泥人形。剣はおろか物差し程度でも簡単に崩れるだろうし、別にこの凶器を本気で振る必要はないのだ。
動きも生身の人間より緩慢だし、経験者からしてみれば良い的。感覚を取り戻す気分で脳天へ唐竹割をお見舞いすればすぐに動かなくなるだろう。
……まあ、かといって油断は禁物、かな。
私は気を引き締め直し、剣に落としていた視線を魔法陣へ向け直す。
「では、改めて能力確認を開始するとしようッ!」
こうして再開した能力確認。その内容は、淡路君の物に負けず劣らず壮絶であり、『天恵』の異常さを再確認させるものだった。
何もないところから突然ガラスの様な物を出した人がいたかと思えば、殴りかかった泥人形が反対側に猛烈な勢いで吹っ飛んだ人、中には武術の型がないにもかかわらず私の顧問よりも明らかに鋭い動きをしており、剣のみの勝負であっても勝てそうにないと思えるような人もいた。
それと、この召喚された泥人形。相手の油断しているところがわかるのか、とても嫌らしい動きをしている。先程正面ばっかり警戒してた男子が流体に変化した泥人形に股の下を潜られ、後ろから奇襲された時は流石にびっくりしたけど。
しかし、そんな変則的な動きをした後は大抵土壇場で『天恵』を発現させたクラスメイトにぼこぼこにされていた。もしかすると『天恵』は危機が迫った時に咄嗟に発露する、謂わば火事場の馬鹿力みたいなものなのかもしれない。
そうこう考えているうちに時間は過ぎていったらしく、私の番は想像以上に早く訪れた。
「では、次ッ! トキミヤミクよ、魔法陣に触れ能力確認をするがよいッ!」
私は早足で魔法陣へ駆け寄り、一つ大きく深呼吸をしてから静かに魔法陣へ片手を添える。
瞬間、体を名状しがたい感覚が襲い、目の前がまばゆい光に覆われる。
私が数回瞬いて目の調子を確認した後、前回の人と同じ様に奇妙な音を立てて泥人形が表れた。
「さあこいッ!」
私が自分自身へ発破をかける意味も込めて放ったその言葉を理解したのだろうか。
泥人形の答えは、体を傾けこちらに突っ込んでくる、というものだった。
◇◆◇
突っ込んでくる泥人形を横に躱し、体勢を崩したところを軽く剣で薙ぎ払う。
クラスメイトの能力確認を見るに、この泥人形の強さは一人一人違うっぽいし、もし全力の一撃で剣が通らなかったらそれこそ手の打ちようがない。ひとまずは今の私の攻撃力でダメージが入るか確認したかった。
私の剣は泥人形の背中に吸い込まれるように向かっていく。絶対に躱せない、視覚外からの一撃。
入った。そう思った。
が、しかし。次の瞬間、私はすぐさまその考えを捨て去ることになる。
「ッ!?」
自信を持って攻撃を繰り出した私の目に映ったのは、泥人形がまるで軌道を予期していたかのように、頭を地面に擦れ合わせるようにして剣を躱した光景だった。
それだけではない。泥人形は、その頭部でしっかりと大地を踏みしめたかと思うと、腰のあたりから新しく胴体を餅でも伸ばすかのように素早く形成し、横にいる私に襲い掛かってきたのだ。
「ミクッ!」
外野から明の叫び声が聞こえるが、今はそれどころではない。
「くッ!」
咄嗟に背中を大きく反らせながら剣をかざして打撃を殺すが、想像以上に泥人形の一撃は重く、私は地を思いっ切り蹴って後ずさった。
すると私という支えがなくなった泥人形はそのまま落下して地面に自身の拳を叩きつけ、その拳を足として再度襲い掛かってくる。
「まずッ……」
無茶な離脱をした私は、その追撃の余りの速さに体勢を整えることも出来ず。
泥人形の拳が今にも私を捉えそうになった――その時。
「!?ッ」
時が、止まった。
そして迫りくる、あの、忘れもしない不快感。あの時の心を揺さぶるような、ジェットコースターに乗ってるような――それでいて発狂してしまいそうな心のざわめきを覚える、あの、感覚。
(……あの時?)
どうやら覚えてはいないものの、私はこの感覚を以前、確かに感じたことがあるらしかった。そして、それを実感するや否や、私の中に蔓延るもやもやとした何かは思考と記憶の認識の齟齬など気にも留めず、曇天に貫く一筋の光の如く昇華され……。
「――!!」
瞬間、何度も泥人形の拳が顔を捉えて頬を抉った……そんな鋭い痛みをクリアな思考に幾重も感じて。
気が付けば、斜め後ろに体を傾けていた。
……なんとなく、しかしはっきりと。私はそこが目の前の打撃を躱せる最良の場所だと確信して。
すると、止まっていた時間は氷のように溶けだし……。
私の体は、糸を針の穴に通すかのように、泥人形の拳を躱したのだった。
そしてその直後、勢いのままやったこともないバク転を体の感覚に任せて行い、距離を取る。
泥人形は再びこちらへ向かってくるが、体制を整えた私には何の脅威も感じられなかった。
「ハァッ!」
先程感じた感覚を頼りに泥人形の拳の合間を縫って懐に入りこみ、剣を叩き込む。すると、その部分だけ、無理矢理に変形を行い泥人形は何とか剣を躱す。
しかし、無理な変形をして体勢を崩した泥人形を、切り返した二撃目が抉り。
「ううううああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!」
私は数えきれないほどの剣を叩き込む。ただひたすら、体の命ずるままに、イカれた機関銃の様に。
「終了だッ、トキミヤッ! お前の勝ちだッ! もうやめてよいぞッ!」
「ミクーッ! もうやめてッ! もう終わってるからッ!」
もう何も聞こえなかった。それどころか、何も感じなかった。しかし、今の私にはその感覚がなんとも愛おしく思えた。
「アハッ、アハハッ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
脳みそを丸ごと快楽物質に漬け込んだかのようなたまらないエクスタシーに全身が支配されてから永遠に等しい数瞬が流れて。
「アハハハハハハハハハハハッ……ぁ……」
私の意識は、何の前触れもなくコンセントを引っこ抜いたかのように、プツンと途切れた。
最近聞いてるのは「Longinus」とか「Rhuzerv」とか。完全にdeemoにハマっとる……




