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第十二話「ギルド、そしてそのメンバー」

 ギルドに入ることを承諾した俺は、ロンに連れられて美しく、また賑やかな街を歩いていく。


 どこまでも続くような赤茶色の屋根、そして街の周囲の城壁と中央方向にある大きな城がこの街の大きさを物語っており、もしかすると街というよりは都市と言った方が語弊がないのかも知れなかった。


 歩く人々の服はそれほど汚れておらず、生活水準はスラム暮らしの一部を除いて悪くないらしい。確か地球の中世から産業革命前にかけての時代はもっと生活水準が悪かった気がするし、多分魔法があるお陰で独自の発展を遂げているのだろう。


 改めて見るとこんな場所で現代日本の常識が通用するわけないし、気が動転して聞き洩らしたこともある。


 イアさんの知識との齟齬を確認する為にも後日、もう少し一般常識について聞いてみることにしよう。


「さて、ここがギルドの本部兼宿舎だ」


「うわぁ……」


 そうして俺が案内された場所に建っていたのは、黒っぽい色の木が白い壁の中で骨組みを作り、正面にはいくつか小窓が開いている家。


 他の建物より明るい色の屋根も相まって、それは周囲の美しい欧風の建物と共にまるで映画のワンシーンの様な存在感を放っていた。


「こういう建物は初めて見るかい?」


「はい! すっごく綺麗ですね!」


「それは良かった。ここは僕の彼女であるマリーがデザインした家だからね。僕達ギルドの象徴とも言える物だよ」


 ロンは懐かしむように言う。彼女とか最早俺には性転換でもしない限り一生縁の無い言葉だ……。


「そうなんですか……あ、そういえば、あの屋根近くにある時計の秒針止まってませんか?」


 俺は針の止まった大きな古時計に気付き質問する。もちろん建物の雰囲気とマッチしてはいるが、それでも止まった時計をそのままにしているのはその利用価値を全否定しているようなもので、俺には不自然に感じたのだ。


 するとロンは少し頭を掻きながら返答した。


「ああ、あれね。僕らも使いたいんだけど、古物商で取り扱ってたせいか動力がよく分からないんだ。こんなギルド名だし、マリーの推しもあって今はオシャレってことで飾ってるよ」


「あ、そうだったんですか。でも、うーん……」


 ロンはそんな風に言うけれど、マリーさんが飾る事を後押ししたというこの古時計には他の意味が込められてるのかも知れない。


 いつまでもこのギルド、そしてロンとの関係が変わらないで欲しい……そんな願いが。


「……さて、立ち話も何だしギルドの中に入ろうか」


「はい!」


 ◇◆◇


 ロンが扉を開けると、そこにはギルドメンバーらしき人が数人、テーブルに座って飲み物を飲んでいた。


「ただいま」


「おう、ロン。帰ってきたか……ってお前、アルが見つかったのはいいがその女の子は誰だ? 傷はお前が直したのかもしれないが洋服に刃物で切られた様な跡が沢山あるし、まさかスラムから拾って来たんじゃないよな?」


 ロンの言葉にその中の一人、二メートルはありそうな大男が野太い声で返事をした。


「もちろんそんな訳ないよ。彼女はギルドの新しいメンバー、トラシア。旅をしているから一時的な加入になるけど実力は僕の折り紙付きだよ」


「うーん……いや、ロンの事は信頼してるけど、流石にその歳の女を見せ付けられてもな……」


「まあまあ、いくら言っても押し問答だろうし、実戦で確認してみな」


「うん、確かに口でごちゃごちゃ言うだけじゃ実力は分からない。よし、トラシア。期待してるぞ」


「あ、ありがとうございます」


「じゃあ、まずはギルドメンバーの紹介をしようか。ええと、魔術学校行ってるミスラナは後でするとして、ひとまずここにいる人だけでやろうか。じゃあ、モーガンから適当にやっていって」


 すると、ギルドにいた人達は先程の大男から順に自己紹介を始めた。


「俺はモーガン。ここのギルドでは専ら戦士をやってる」


 その次に隣にいた金髪で背の高い痩せ型の男が自己紹介する。


「エレリックっス。飛び道具とか、ちょっとした付与魔法が得意ッスよ」


 その向かいにいる白色の修道着を着た笑顔の女性が自己紹介する。


「私はアナスタシア。回復魔法を得意としているわ。身体の方で困ったことがあったら頼ってくださいね!」


「……マリー。よろしく」


 そして最後にその隣にいた、絵画に出てきそうな美しい女の人が悲し気な表情のままそう言った。


 おしゃれで明るい家のデザインからは想像もつかなかったが……どうやら彼女がロンの彼女であるマリーらしい。


 しかし俺はマリーの方を見ると、ふと不自然なことに気付く。


「あの……マリーさんですよね? なんで周囲を魔力が包んでるんですか?」


 なんと、彼女は周囲をまるごと魔力で覆っていたのだ。それも、反射魔法結界などそれらしい魔法も展開せずに。


 魔力というものはいわば空気を濃縮した様なものであり、魔法陣や詠唱、人体等の「入れ物」が無いとすぐに霧散してしまう。その為、この様に意味もなく魔力を維持するのは相当骨の折れる行為の筈なのだ。


 すると、やはり理由があった様でロンはそれについて話し始める。


「マリーは喋るのが難しい状態だから、僕が説明するよ。

 うん、彼女は説明しにくいんだけど……体の制御が効かない状態にあるんだ。それも治癒魔法を受け付けない、ね。

 だから、今は魔力を使って体を動かしてる。丁度、ギプスとか松葉杖と同じような感じかな。魔力を纏ってはいても決して敵意を持ってる訳じゃないから安心して。僕の大切な彼女だよ」


 そう言ってロンはマリーの方を向くが、マリーはそれに幾分の反応も示さず、相変わらず俯いて今にも涙を残して消えてしまいそうな表情をしていた。


 しかし、治癒魔法を受け付けないか。この世界の魔法は相当万能であり、しっかり構築さえ出来れば精神疾患から部位欠損、はたまた現代では致命傷となる重大なけがでさえ直せるはずなのだが……もしかするとこの文明では治癒魔法が発展途上であり、イアさんの下で学んだ治癒魔法よりも効能が限られているのかもしれない。


「改めて自己紹介するけど、僕はアル。このギルドでは大抵斥候役を担ってる。人数がいないときは前衛として戦ったりもしてるよ。さっきはその……ごめんなさい。僕は、もう君を襲ったりしない」


「……」


 俺は失礼とはいえ、どうしてもジト目を隠しえなかった。


 口ではこう言っていても、いつ寝首を掻かれるか分かったもんじゃない。俺を襲った理由も得体が知れないし、戦闘能力も高い。それに、アルと戦った後、もしくは一緒に他の手練れが現れたらそれこそイアさんの魔法を解く程度には追い込まれるだろう。襲った理由がはっきりしない限りは現在最も脅威的で関わりあいたくない人物だ。


「後はミスラナだけど彼女は聞いての通り学生で、追跡魔法を得意としてるよ」


「最後にリーダーの僕だけど、名前は判ってるだろうから省略するね。得意な事は物を動かす魔法で、いつもは後衛でみんなの指揮をしてる。

 さて、軽く全員の自己紹介も終わったことだし、君もアルに襲われて疲れたろう。今日は軽く歓迎会をやってから寝て、本格的な依頼は明日から受けることにしよう」


◇◆◇


 そこから少し時間が経って。


 現在俺は自分に割り当てられた寝室で、今日一日の反省をしていた。


 ロンお手製の豪華な料理を中心として盛大に始まった歓迎会。最後は当然の様に酒盛りとなったのだが、俺やアルは幼いからと言った理由で払いのけられてしまった。


 俺の歓迎会で俺が居ないって、もうそれ酒飲みたいだけだろ……。


 俺は苦笑いしたが、気を取り直して反省会を始めた。


 まず、本来俺はこんなところにいる筈がない。幸運が重なってこのギルドに入ることが出来たが、本来この幸運も歓迎するものではなく、こんなイレギュラーな状況は出来るだけ避けたかったのだ。


 それなのにここにいるそもそもの原因……それは勿論城門での注意不足だ。


 しかし、言い訳させて貰いたい。俺も、決して理屈もなしにあれほど危険な行動を行っていたわけではない。あの時の俺はごく普通に、イアさんの元でやっていた時と同じ様にスキル《並列思考》と《思考加速》を使っていた筈だ。


 その証拠にあの時の俺は相当思考能力が高くなってたし、二つ程度の物事を並列的に考えていた。


 にも関わらず、いつしか俺の思考は危険に対処する方法のみを考える様になり、結果門兵にぶつかってあわや捕まってしまいそうになってしまった。


「って事は……スキルも身体能力減少の影響を受けてるって訳だ」


 つまり、本来より大幅に機能が大幅に制限された俺は、スキルの力を十分に発揮出来なかったのだ。


 言葉にするとわかりづらいが……例えてみれば今の俺は、昔のパソコンで今のパソコンのソフトを動かそうとするような状態。本来の機能を発揮できる事は高望みだし、動いただけでも僥倖と言えるレベルだろう。


 その結果、集中力が持ってるうちは並列思考を維持できていた俺だが、ひとたび集中力が切れたら最後、脳が目の前の光景に割くリソースを強制的に思考能力に回してしまった。


 この部屋で試せるものを試した結果、どうやら制限が大きいのは《思考加速》、《肉体変化》、《不死》、《並列思考》、《超速計算》の五つ。何なら《魔力暴走》と《無詠唱魔法》も元々魔力関連のステータスに依存するスキルなので入れてもいいだろう。《完全記憶》は効果は変わらないものの、記憶をアウトプットしにくくなっていた。


 ……身体能力制限の思わぬ弊害だ。能力の制限に加えステータス魔法の使用不可等、ただでさえきつい状況の中、この縛りの追加は相当厳しい。


 今後の立ち回りもこれを前提とした物に変更しなければならない。というか、もうスキルは無いものとして扱ってもいいだろう。


 それと、実践前は魔法を極力使わずに武術で立ち回る、なんて言っていたがこれも変更。


 アルと戦ったりロンの話を聞いたりした限りではこの世界の住民は想像以上に魔力が多いらしい。その為、今後は相手の魔力を利用して最低限の魔力で魔法を発動していくことにする。


 この方法、相手の魔力量に強く依存するので魔力量が分からない内は戦術として使えなかったのだが、こうすることで相手に魔力切れと魔法攻撃の二つの打点を手に入れることが出来るし、魔力量が少なく出来るだけ魔力攻撃を受けたくない俺にはいいことづくめなのだ。


 何だか現実世界でやると某乱闘ゲームでフルボッコする並みに友達がいなくなりそうなコンボだけど、相当な弱体化を喰らってる今四の五の言ってられる状況じゃない。


 あれこれ理屈を付けているが……ぶっちゃけあんな化け物、魔法無しじゃ相手にしたくないというのが一番の理由だ。


 魔法無しでアレを相手にするとか、徒手空拳で象を倒すレベルの無理ゲーだろう。


 基本の立ち回りはアルの時と同じでいいだろうが、もしかするとあの方法が通用しない相手がいるかもしれない。次回の戦いでは他の立ち回り方も考えていこうと思う。


 それに今回の出来事で痛感させられたが……俺には情報が致命的に足りない。


 これは流石に身体能力制限を喰らってる俺の頭でもわかる。なにせ、俺は現状自身を取り巻く状況すら未だ掴めていないし、よく考えたら俺は今いる都市の名前すら知らないのだ。


 勿論そんな事知らずとも生活できないことはないだろうが、次起きることを想定することが可能になってこの旅の意味不明な難易度も飛躍的に下がるだろうし、情報収集は絶対にした方がいい。


 ああ、情報といえば現在の俺のステータスはこれだ。

 

【名前 トラシア

 5歳 女 

 種族及び性質 精神生命体

 適正属性 毒 水 氷 火 風 土 電 闇 聖 無 増 動 止 静 反 変 空間 時

 可能性 理の可能性 僅かに振の可能性

 体力    115/123(+3) ERROR

 魔力    25/56(+11)  ERROR

 攻撃力   131(+1)    ERROR

 防御力   69(+1)     ERROR

 魔法攻撃力 194(+7)    ERROR

 魔法防御力 124(+4)    ERROR

注意

素質値の測定に障害が生じました。自身にかかっている魔法やその他の能力上昇効果を全て解除して再度試行して下さい。

 能力及び技能

《完全記憶》《思考加速》《肉体変化》《不死》《不撓不屈》《ポーカーフェイス》《整理》《理解》《並列思考》《超速計算》《魔力暴走》《無詠唱魔法》《覚醒》

 祝福及び加護

《気まぐれな神の加護》《転移者》《界渡り》《傍観者》《たけyzばっybwかいるにa》《eつhasnもu》《チめぇアぺr》】


 他の能力値も悪くない伸びを見せているが、アルとの死闘では主に魔力攻撃を使っていたせいか、魔力方面の伸びが著しい。一見それ程の数値には見えないが、能力が数パーセント上昇したと考えるとむしろ出来すぎな位だ。


 しかし、上がったとはいえそれでも少なすぎる。他の能力値はともかく、魔力は生存に直結するので少なくとも200は欲しい。


 今後あんな死闘はこりごりだが、もしかするとあの状況を再現したり、魔循環をする事で魔力量や魔力方面のステータスを上げることが出来るかもしれない。そちらの方も後日確認する事にしよう。


 当面の目標は魔力の上昇、情報収集(特に常識面について)の二つ。


 今日はいかんせん旅行気分で緊張が緩んで、普段では想像もつかないような馬鹿をやらかしてばかりだった。明日からはもう少し緊張感を持って行動していこう。


 ……おっと。


 一番大事な疑問を忘れていた。


 一番大事で、一番どうすればいいのか分からない、一番厄介な疑問を。


 絶望の連鎖? 訳が分からない。夢から覚めて思った?・・・・・・・・・・ それではまるで、この世界が夢であるように聞こえる。それにあの強さ、どう考えてもあの歳の子供の物とは思えない。それに、不意に訪れたあのデジャヴ(既視感)……。


 俺は……アルに対して何をしたんだ?


 


 ◇◆◇


 歓迎会も終わり、皆が寝静まって吐息を立て始めた真夜中のギルド。その一角に、まるで死者を送る灯篭の様なぼんやりとした明かりが一つ、灯っていた。


 ふと、明かりが因縁を抱えた怨霊の様に揺れ動く。その中には二つの影……ロンとマリーの姿。


 影の一つ、ロンはマリーの方をずっと眺めていたが、ある時、決意したように言葉を紡いでいく。


「マリー……僕は、僕は今度こそ君を……


……終わらせてみせる」


 それはそう、確かに決意だったのだが……どこか悲鳴を伴う祈りにも似ていた。


 しかし、マリーはそれに答える素振りも見せず、相変わらず無表情のままで……長い夜は、明けていった。

毎度毎度更新遅くてすいません。

20180320

自己紹介の場面で人物の特徴について追記

他、文を少々調整

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