第十一話「時に翻弄されし旅人」
お久しぶりです。ちょくちょく更新するとか言ったのに相当間が空いてしまいすみませんでした。
3/4ギルドの人数についての描写を削除、他少々修正
「未来で起きることを夢に……予知夢!?」
「そう、予知夢だよ」
予知夢……確かにそうだ。子供の投げる石も来る場所が分かっていればどうとでもなるし、実力以上の力を俺に見せていたことにも合点がいく。何より俺が「この世界でかなり強い」イアさんの元で習得した技術を満遍なく使った一撃を易々と受け止めたのだ。
むしろ、来る場所が分かっていたとしてもあの攻撃を防げるのか疑問な位。予知前提で達人レベルの技能を持って初めて突破の糸口が掴める程の攻撃だった筈だ。
するとさっきアルがロン、とか呼んでいた、やけにニコニコした青年は、湛えた笑顔を崩す事もせずに話し始める。
「……ああ、自己紹介がまだだったね。とは言っても名前はアルが言ってしまったけど。
僕はロン。これでもアルが所属してるギルド、『時に翻弄されし旅人』のリーダーをやってる」
「……トラシアです」
俺の自己紹介に、ロンは相変わらず愛想の良い笑みを浮かべたまま話を続ける。
「これはご丁寧な自己紹介、ありがとう。
……と、傷の手当てをしてなかったね。回復系の魔法は苦手なんだけど丁度アルも近くにいるし、みんなまとめて治癒しちゃおうか。《サンクチュアリ・ヒール》」
そうしてロンから勢いよく放たれた魔力はアルも含めて周囲一帯を神々しい光で満たし、俺の身体の傷は急速に再生していく。
……実はスキル《超速再生》で内側の傷は常時回復していたので傷自体大したことは無かったし、交渉がある場合に備え表面上の傷は意図的に残していたのだが。
(この超速再生が曲者で、再生、とは言ってもあくまで自然治癒の延長線上らしく四肢を切断されたら断面の傷を塞ぐだけの上、再生速度も自然治癒と比べたら異常なのだが、戦闘には使えない程度の遅さ。切られたそばから新しい腕が生える、なんて風な能力ではなかったのだ)
しかし、この範囲の広さ、それに治癒のスピードから考えるに恐らくこの魔法は聖属性古代級……基本魔法と言ったところか。これよりも強力な治癒魔法はイアさんの下でごまんと習ったが、現在の俺なら使うだけで魔力が枯渇するであろう、中々に強力な範囲治癒魔法だ。このレベルで「苦手」というのなら、得意な方面の魔法は戦略兵器レベルの破壊力を持つ「超級」魔法でも可笑しくはないだろう。今は敵対していないが、もし敵にしたら厄介極まりない。
俺がロンを頭の中の要注意人物リストに書き加えると、ロンの方も魔法の発動を完全に終えたようで、話を再開する。
「っふぅ……やっぱり治癒魔法は性に合わないね。さて、体も完全に癒せたことだし、本題に入ろう。
どうやらうちのアルが迷惑をかけたようだね」
ロンはそう言い、まるで親子の様にアルに謝罪を促す。
「その節は本当にすまなかった。ほら、アル。お前もここに来てこの嬢ちゃんに謝れ」
するとさっきまで号泣していたはずのアルは、頭を犬の様に振って涙を散らし尽くしてからロンの側により。
「……ごめんなさい」
そんな風にボソッと呟きながら頭を下げたその姿はさっきまでの張り詰めた「死地に赴く様な」決意はどこへやら、さも歳相応の少年らしいものとなってしまっていた。
「……はぁ?」
俺は思わず呆気に取られ、自分でも知らないうちにそんな声が漏れる。
先程まで親の仇とばかりに殺意ビンビンで戦ってた奴の態度が一変、懇切丁寧に謝られたのだ。白々しいにも程があるだろう。
こんな見え透いた芝居、幾らでも反論は可能だ。
……しかしこちらはレジストされた事によってロンに迂闊にステータス魔法を使えない上、下手に使って失敗したら今の穏便な雰囲気を台無しにしかねない。
先程のアルも俺の想定を遥かに超えてきたし、俺がロンについて知っている事はかなりの魔法を使える、という事だけ。相手の技量が分からない以上、迂闊に怒らせる事は愚策としか言いようがない。
つまり、俺の前でロンとアルが繰り広げる演劇がたとえどんな茶番であろうと、俺はご機嫌取りに付き合うしかなかったのだ。
しかし、ロンはそんな俺の不満を吹き飛ばす様に言葉を続ける。
「うん、これで一応形式的な謝罪は住んだ訳だけど……アルが全力で暴れた以上、今回の件は子供の喧嘩なんてとうに通り越してるだろうし、お飯事の謝罪なんてむしろ困惑が増すだけだろう。何より僕達『時に翻弄されし旅人』は、一員がやらかした事に対してケジメを付ける程度には統率の取れた集団だよ」
「……と、言うと?」
「金でも、情報でも、食事でも何でもいい。僕達のギルドに協力出来る事があれば何でも言ってくれ」
「いいんですか?」
「もちろんだとも。ただし、無茶な要求はお断りだよ」
「ありがとうございます!」
これは幸運。だがしかし、ここで油断してはいけない。そもそも油断した結果、アルとかいう訳の分からない少年に襲われてしまったのだから。
与えられた情報を鵜呑みしないのは勿論の事、そこから情報を類推、それにアルの件もあるし俺を取り巻く状況の把握をしていこう。
何はともあれ、そうして俺が得た情報は大きく分けて三つだ。
一つ目は、ロンが先程から何度も言っていた『ギルド』について。
ギルド、というのは主に傭兵が集まってチームを組んだ様な物で、一人では難しい仕事を大人数でこなしていくのが目的だ。
ギルドなんて言うとある程度の決まりがありそうに思えるが、一緒に仕事をこなす集まりならギルドでいい程度にはアバウトな定義だとか。基本は王公認の斡旋所で依頼を探すが、個人的な依頼もたまに来るらしい。
武力を持った集団がいると王にとって脅威になりうるのでは、なんて思う人もいるかもしれないが、そこは安心。非常時はギルドの活動を停止して強制的に徴兵がかかる上(拒否すると投獄)、「近衛軍は尋常ではない強さ」とまことしやかな噂が流れてるので、そこら辺はうまく均衡を保っているようだ。
二つ目は魔法。この世界の魔法がどれ位の水準なのかは生死に直結する為知っておきたかった……のだが。
流石にロンレベルとなると少ないそうだが、残念な事にアルの魔法は王都では普通らしく、あれ以上の化け物なんて幾らでもいるとか。
……という事は、当然アル以外も魔力を隠している筈だし、ステータス魔法もアルと同じくレジストと考えていい。それに仮に使ったとしてもアルの言う通り、使われた側の心証は最悪。
何が言いたいかというと、早い段階で俺の切り札の一つが使用不可能になったってわけだ。
そもそも相手の能力が全て分かるってチート前提の状態がおかしかったのかもしれないが……それでもこれは大きな痛手だろう。
しかし、悪い事ばかりではない。身体能力はアルが異常なだけで、アル以外の人の魔法の強化無しの身体能力は精々地球よりも少し高い程度だとか。〝魔法の強化無し〟という言葉に不安を感じるが、これには安堵。毎度の如くあんな化け物相手に戦うなんてやってられんわ。
ちなみにロンはアルよりも魔法に特化しており、空間魔法すら使う事が出来るんだとか。それってつまり「次元断」みたいな技を使える可能性もあるって事で……なんというか、うん、下手にステータス魔法とか使わなくて良かった。
三つ目は、アルについて。
唐突に殺す気で襲ってきたこいつが現状一番厄介なのだが、ロンさんもアルについてはよく分からないらしく「予知夢」が使える以上の事は聞き出せなかった。なんでもアルはギルドに入った時以来、予知夢の内容を教えてくれないそうだ。
ロンとアルが結託して俺を騙そうとしてる可能性についても検討し、厨二病を患っていた時に覚えたボディランゲージも注意深く観察したが、彼らの動きには決して嘘を付いている様子も無い。結局この質問で分かったことは一切無かった。
そして最後に、この街の主要な施設や宿、それにこの周辺の国の様子や貨幣について教えてもらおうとしたのだが。
「うーん……その事だけどさ。君、うちのギルドで働かない?」
「えっ?」
「だから、うちのギルドで働いてみないかい?」
ロンの突然の提案に俺は思わず聞き返してしまう。なにせ、どんなに強くとも俺の体は幼女。ここが異世界だと言うことは重々承知だけど、俺の頭に染み込んだ日本の常識は長年たった今も健在で……俺が聞き返してしまうのも無理はないだろう。
「いや、別に強制なんかしないけど、ギルドに入った方が手っ取り早く色々と教えられると思うんだ。百聞は一見に如かず、なんて言うだろう?」
「……」
アルが働いてることで薄々察してはいたが……この都市、おそらく魔法の影響だろうが児童労働が別におかしくはない模様。ギルドについての話で王が斡旋所を管理している話も有ったので、割と最初の方に想定していた戦場に駆り出される流れは当たりだったのかも知れない。
「見た所外見は華奢だけど、腕っ節はうちのメンバーと張り合えそうだし、現に襲ってきたアルを打ち負かしてる。うちも最近は忙しくてね」
「はあ……でも、色んな所を旅して強くなりたいんですよね」
悪くない提案ではあるが、生憎俺はこの旅の目的を忘れてはいない。
色々な所に行き経験を積む事で、魂の保護なしで界渡りに耐えうるまで精神を鍛える……それがこの旅の目的だ。ギルドなんかに縛られると色々と厄介になりそうだし、この提案にはイマイチ賛成できない。
しかし、ロンはそんな俺の心を読んだかのように的確に断る理由を潰していく。
「それだけど、見たところ目的も急ぎでは無いし、お金は僕達が援助するとしても、行く先々の情報なんて僕らにも予想出来ないから安全な旅は保証できない。
それに、僕の想像以上に利口で強いことは分かるけど、魔物については僕達も分かっていないことが多いし、全てを教える事なんてとてもじゃ無いけど不可能だよ。僕達が把握してない狡猾な魔物の集団に出会ったら苦戦は必須だし、旅を続けるのは相当厳しいんじゃないかな。
ああ、別にずっといてくれって訳じゃない。うちも徐々に個人依頼が増えてきてはいるんだけど、いかんせん人手が足りなくてね。特に最近は少し厄介な依頼が集中して、少人数だと厳しくなってきたんだ。君は準備を終え次第、ギルドから脱退していいよ」
「それは確かにそうですね……」
確かに、ロンの言っていることはあながち間違ってはいない。装備や金はロンに用意してもらうとしても、経験が少なすぎるし、一人行動は一つのミスが命取りになりやすい。どんな狡猾な魔物がいるかもわからない現状、初見殺しなんて食らったら目も当てられないだろうし、ギルドに入ってある程度慎重に行動するのがベターなのかも知れない。
「丁度いい事に、今ギルドの宿舎は一部屋空いてる。もしギルドに入るのなら、いる間はそこを君の部屋として使っていいよ」
仕事に住居、それに多くの情報と経験を得られる中々に良い提案。実際イアさんに期限を言われた訳でも無いし、乗ってもいいように思える。
……が、しかし。この提案、大きすぎる欠点がある。
「あの、別にギルドに入ってもいいとは思うのですが……アルについてはどうするのでしょうか。
私は自身を殺そうとしてきたアルの事を信用できません。ギルドでは集団で仕事をこなす、という事ですが、そんな時仲間同士の信頼関係は非常に重要だと思います。
それが絶対的に欠けている現状、私は入ってもギルドに貢献できないでしょう」
そう、アルだ。例えば集団で魔物討伐なんかをするとしよう。そんな時、俺はアルの裏切りを完全に否定出来るだろうか。そんな奴と一緒に仕事をすることは疎か、背中を預けるなんて正気ではない。
事実、ロンもアルについては得体がしれないらしく、これについては首を傾げながら手を頬に当て、困ったように返答する。
「うーん、確かに難しい問題だ。
そうだね……ひとまずアルはギルドの宿舎から出入り禁止。元のパン屋から通ってもらうよ。それに、基本的にアルと君は一緒に仕事はさせず、もし一緒に仕事する事になっても僕が護衛になろう。どちらにせよ、君とアルは最大限隔離する事を約束する。
……これ位で大丈夫かな?」
「うーん……」
入った時の問題は無くなったように見えるが、それでもアルについては一応の警戒は必要だろう。
まあ、アルのような人が他にもいるかもしれないのでギルドに入らない場合も同じ警戒は必要なのだが。
そう考えると、この提案は大分こちらに有利な内容。これ程の好条件はそうそう無いだろう。
迷いや疑問はあれど、メリットに比べればちっぽけに見える。それに、この弱体化した体についての検証も、ある程度腰を落ち着けてからやっておきたかった所だ。
「どうだい、入る気になったかい?」
「では……これからよろしくお願いします」
「ありがとう! じゃあ早速ギルドの宿舎に案内するよ。メンバーにも新しい仲間について紹介しなくちゃならないからね」
「はい」
「……ああっと、言い忘れてた。
僕達のギルド、『時に翻弄されし旅人』にようこそ!」
こうして俺は、ギルド、『時に翻弄されし旅人』に加入する事になった。
しかし、思い返すと不自然な程事が上手く進んで加入してしまった様に思えるが……
もしかすると……この時点で俺は、無意識の内にこのギルドが自身の運命に大きく関わって来ることを予期していたのかもしれない。
今回はそれこそこの小説書き始めてから一番と言ってもいいほどの難産な話でした。
人によっては蛇足な解説
忘れてしまった方もいるかもしれませんが、魔法には初級〜神級の段階があり、級の中でも基本〜最上位と段階があります。
それほど重要でもありませんので、覚えなくても構いませんし、覚えるとしても頭の隅に置く程度で結構です。




