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すれちがい、恋初め、恋結び、 ~ほろ苦くも甘い初恋~  作者: 鯣 肴
第二章 彼が忘れて思い出した約束と、彼女が拘った約束は、すれちがって、結ばれる。

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第28話 通学路ゆっくりあるき、山岬町 Ⅰ

 女の子が駅を北側に出ると、周囲の人通りは皆無。自転車どころか車やバイクすら走っていない。どこの駅前にでもあるような各種飲食店のチェーン店などは、開店舗休業状態。ドラックストアやコンビニすら、同様の状態。


 それがこの、山岬町の、通勤通学時間帯を除いた平日のいつもの光景である。彼女はそれを、今日初めて体感し、知った。


 ナイーブな気分な彼女はそれを後ろ向きに捉える。


(ほんとに、学校と工場以外、何もない町……)


 歩き出すことなく、立って、ぼうっと眺めている。


(まるで、人なんていないみたい)






 フゥゥオッ。


 遮るもののない風が穏やかに吹き、暫くの間突っ立っていた彼女へ。


 その風は、彼女の髪型を乱さない位に、髪先揺らす程度にそよがせるだけ。スカートには、抑える必要のない位かつ穏やかに、ほんわりとした空気を送り込んでくる。


(う~ん、ちょっといいかも)


 割と心の移ろいが早い彼女は、基本的には割と単純なたちだった。気分で動くタイプだから。だから、そのときの気持ちは割ところころ変わる。


 そして、気分次第で物事の見方も割と変わる。


(相変わらず、誰も通らなくて静か。でも、悪くはないかも。だって、車もバイクも自転車も通らないし、生活臭無いし。まるで、この町には私だけしかいないみたいな。私だけしかいない町。ふふ)


 もう、彼女の表情から憂いはすっかり消えていた。


(偶になら、こういうのも新鮮でいいかも)






 彼女はゆったりとした気持ちで歩き出した。


(取り敢えず、彼のことは一旦置いておこう。どうせ学校行くまで何もできないんだし、二時間目を考える時間に回せばいいかな)


 コト。コト――


(ここですらこれってことは、学校に着くまで、誰ともすれ違わないなんていうのもあるかも。まるで、町の中に、私だけみたい、な。それでも、ゴーストタウンって感じはしなくて、何だか、時間が穏やかに流れてて落ち着く、みたいな。何なんだろう、これ? う~ん。分かんないや)


 山岬町は、駅周辺、駅北部、駅南部に分けられる。彼女が向かうべき学校は、北部にある。駅から彼女の通う学校までを繋ぐ道は、前半部と後半部の二つの部分に分けられる。


 前半部は、比較的緩やかな、直線状の一本の坂道で、東西に長く南北に短い住宅街地区を貫いて存在している。


 後半部は、前半部の北側へ抜けての数本に分かれた分かれ道の一番右を進んだ先にある小さな山の山肌走る登り坂である。山肌を削って作られた、右巻き螺旋状の、内側へ進んでいくにつれて勾配が大きくなっていくひたすら長く続く坂道。それを登り切れば、彼女の通う学校へ着く。


 歩くことになる距離は、直線換算で、前半部は約0.7キロメートル、後半部は約1キロメートルというところである。






 コト。コト―ー


(駅周辺の平地は抜けたけど、本当に誰とも会わなかったよ……。私だけの町、継続、っと。でも、幾ら平日のこの時間だからって、人、いなさすぎだよね。何で、かな?)


 通学路がそんなにもすっからかんであるのを見たのは、彼女はそれが初めてだった。


 コト。コト――


 周囲を見渡しながら理由を探す。


(いっつもと感じが違うなぁ。とっても静かで穏やかで。ド田舎って訳でもないのに閑静な駅前って風じゃないって、結構、新鮮かも。まぁ、どう贔屓しても、小都会とすらいえない小さな町だからっていうのもあるのかもだけど) 


 彼女の内心が示す通り、山岬町は決して大きいとはいえない、物凄くコンパクトに纏まった小さな町だ。人口は一万人程度。南端は海に接し、北端は山。町の中央を南北に分断するように山河鉄道が走り、町内に存在する駅は、町の中央に位置する山岬町駅のみである。


 東西に約5キロ、東西に約2キロ。10キロ立方メートルを少し超える程度の面積しかない。山岬町に接する町は、どれもこれも倍どころの面積では済まない。


 コッ!


 彼女は足を止めた。


(う~ん、)


 何度も脇道に逸れてぶらつきながら、駅周辺のチェーン店エリアを彼女は5分程度掛けてゆっくり抜けたところだった。


(やっぱり、あれのせいかなぁ?)


 コッ! スッ。


 彼女が後ろを振り向くと、これまで通り過ぎてきた各種チェーン店、駅、そして、駅の左右外側にある、線路に平行に沿って密に高く聳える林が見えた。そして、彼女が焦点を合わせて見ているのは、まさにその林である。


 山岬町では、北部と南部を行き来する為には、山岬駅を通るしかない。駅周辺線路沿いは、電車の車窓からの景色を植物色でびっしりと覆う、鉄道開通時に崩し切らなかった山林の残りが、南北を区切る壁のように存在しており、その壁の唯一の裂け目が駅なのだ。


 そもそもこの町は、海岸部以外、全てが山林だった。鉄道開通と同時に、それより南の部分の山林が平地へと変えられ、工場群ができ上がった。そうして、駅の北側も切り拓かれていったが、平地にする位までのメリットは無く、勾配を緩くする程度に留められた。というのも、駅の北側の地面は固かったからだ。


 特に、鉄道沿線北は酷く、南北の通り道は未だに駅だけしかない。つまり人口少ない町ではあるが、そこは人々が行き交う場となった。だから、駅付近とその少し北側に薄く住宅街が広がっていて、その後に、商店街や、どこの町にでもあるような各種チェーン店等、最低限生活に必要になりそうな店ができた。


 そんなであるというのに、平日のうち、通勤通学時間帯以外は、彼女が見たような有り様である。では、どうしてあのような店々が成立しているか。答えは簡単。人通りが駅周辺に恒常的に形成されるときがあるからだ。それは、通勤通学時間帯と休日祝日。


(それに、住宅街、たったあれだけだしね)


 スッ。


 再び前を向いた彼女の少し前方。一本の、徐々に傾斜を上げていく登り坂と、そこから枝分かれする短い道と、マンションなんてない、割と新しめの洋風の一軒家ばかりから成る住宅街が広がっている。そのエリアの道は、アスファルトでなく、煉瓦レンガで舗装されている。それも、アイボリーや、黄土色といった、明るめで優しい色合いをしている。


 因みに、この住宅街、今から彼女が昇ろうとしているこの坂道沿いにだけ展開されている、この町唯一の住居区である。


(まぁ、こういう日も、あるよねっ!)


 彼にように深くは考え過ぎたりはしない彼女は、程々に謎解きして、それなりのてきとーな答えを出して、適度に納得して、またゆったりと歩き出した。

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