第二十九話 神が喋らせる
蝋燭の炎が、静かな部屋で小さく揺れていた。外はまだ夜明け前。窓の隙間から冷たい風が吹き込み、木の壁をかすかに鳴らしている。その風は冬の冷たさを運んでいたが、部屋の中の二人にはもう気にならなかった。
フランチェスコは膝をつき、静かに目を閉じた。その向かいには、少し緊張した面持ちのレオが座っている。彼の手は微かに震えていた。これから行われるであろう「朝課」が、普通のものではないことを彼は感じ取っていた。
(父のお言葉どおりに。)
レオは胸の中で何度も唱えた。
(今日は必ず、その通りにお答えしよう。)
修道士にとって従順は何よりも大切な徳である。父フランチェスコが命じた以上、その通りにしなければならない。自分の感情や考えは関係ない。ただ、父の言葉に従うこと——それが彼の務めだった。
レオは深く息を吸った。
「では始めます。」
フランチェスコが静かに口を開く。その声は、夜明け前の静けさに溶けるように低かった。
「おお、フランシスコ兄弟よ。」
その声には深い悲しみが滲んでいた。彼の全身から、何か——自己を責めるような気配が漂っていた。
「お前はこの世で数え切れぬほど多くの罪を犯した。」
レオは父の顔を見つめる。その表情は冗談ではない。本気で、自分を罪人だと思っている顔だった。自分を最も深い罪人のように語るその姿に、レオの胸は締め付けられた。
「お前は地獄へ落ちるにふさわしい者だ。」
部屋は静まり返った。蝋燭の炎が揺れる。レオは返事をしようと口を開く。
(その通りです。)
そう言わなければならない。父はそう教えた。しかし——。口から出た言葉は、まったく違っていた。
「神は……。」
レオ自身が驚いた。なぜこんな言葉が出てくるのか、自分でも分からなかった。
「神は、あなたを通して数え切れないほどの善を行われました。」
フランチェスコが目を開く。レオは止まらなかった。まるで誰かが彼の口を動かしているかのように、言葉が次々と溢れ出た。
「その功徳によって、あなたは必ず天の御国へ迎えられるでしょう。」
言い終えた瞬間、レオは両手で口を押さえた。自分の言ったことに、自分で驚いていた。
(しまった。また違うことを言ってしまった。)
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フランチェスコは苦笑した。その苦笑いは、厳しさではなく、むしろ慈しみに満ちていた。
「レオ兄弟。」
「……はい。」
「私は何と答えるよう教えましたか。」
レオは肩を落とした。自分の意志の弱さと、父への敬愛の間で揺れる心が、彼を苦しめていた。
「『あなたは地獄へ落ちるにふさわしい』と……。」
「そうです。」
フランチェスコは穏やかに頷く。その目には、レオへの理解が深く宿っていた。
「では、もう一度やってみましょう。」
レオは何度も頷いた。
「今度こそ間違えません。」
自分の心を固く決めて、彼は再び姿勢を正した。
フランチェスコは再び祈るように目を閉じる。その表情は真剣そのものだった。
「おお、フランシスコ兄弟よ。」
今度は胸を軽く叩きながら言った。
「お前は神に対してあまりにも多くの悪を行った。」
その声には涙が混じっている。彼は本当に、自分が神を裏切ったと信じているかのようだった。
「お前は神から呪われるにふさわしい者だ。」
レオは固く拳を握った。自分の心の中で、二つの声が戦っていた。
(違う。父はそんな方じゃない。でも従わなくては。)
(言え。でも違う。命令だ。でも神はそんなことを仰らない。)
その葛藤が、彼の全身を震わせた。彼は必死に自分を律しようとしたが、その努力は実を結ばなかった。
レオは目を閉じた。そして、また違う言葉を口にしていた。
「父よ。」
その声は震えていた。涙がこぼれ落ちそうだった。
「神はあなたを祝福された方々の中でも、さらに豊かに祝福されるでしょう。」
フランチェスコは思わず天を仰いだ。その仕草は、諦めと笑いが混ざったものだった。
「またですか。」
レオは青ざめる。自分の意志の弱さに、彼はほとんど絶望していた。
「申し訳ありません!」
深く頭を下げる。その声は泣きそうだった。
「本当に、そのように申し上げようと思ったのです。ですが——」
困ったように顔を上げた。
「どうしても。どうしても、その言葉が出てこないのです。」
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フランチェスコはしばらく黙っていた。部屋の中には、蝋燭の燃える音だけが響いていた。やがて彼は小さく笑う。その笑いは呆れたものではなく、どこか愛情に満ちていた。彼は何かを悟ったかのように、優しく微笑んだ。
「レオ兄弟。」
「はい。」
「あなたは本当に、不器用ですね。」
レオは耳まで赤くなる。自分があまりに不甲斐なくて、恥ずかしさでいっぱいだった。
「申し訳ありません……。」
「いえ。」
フランチェスコは優しく首を振った。
「もう一度だけ、やってみましょう。」
レオは真剣な顔で頷いた。今度こそ。今度こそ父のお望みどおりに。そう心へ固く誓いながら、再び静かに両手を組んだ。
彼は知らなかった。この後、さらに何度も同じことを繰り返すことになるとは。そして——そのたびに、彼の口からは父の教えた言葉ではなく、神の言葉が溢れ出ることを。それは彼の意志ではなく、彼の内側に住む聖霊の働きだった。
蝋燭の炎が揺れた。朝はまだ遠い。しかし、その部屋の中には、すでに新しい光が灯り始めていた。
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*この章は、「小さき花」の中でも特に温かく、人間味あふれる逸話である。レオ兄弟は従順を尽くそうとするが、どうしてもフランチェスコを呪うことができない。それは彼の心の正直さであり、同時にフランチェスコの真の姿を映し出している。フランチェスコは自分を罪人と呼ぶが、彼を見る者の目には、彼が神の祝福に満ちた存在であることが明らかだった。この対話は、謙遜と真実の間にある微妙なバランスを示している。自分を低く見ることと、神の恵みを否定することは別である。フランチェスコはその両方を、生涯を通じて体現した。*




