第17話-4 日本列島は今日も曇り
そうそう。
狭山のじいさんは、風変りな刀工だった。
確かに、このまま折れた日本刀を俺が持つわけにも行かない。
あの仏頂面のじいさんなら、俺がどう刀を供養するべきか教えてくれるだろう。
当然、軍服を着たまま、仕事休みへ入るわけに行かない。
面倒だけど、部屋で寝るだけの服はやめて、旅に出る恰好をしないと。
高崎市内で、俺たちは適当に服を選んで買う。
黒いパーカー、黒いTシャツ、黒いボトムス、黒い靴。
俺が黒色の衣服ばかりを選んでしまうのは、特別警務高校時代の感覚が残っているせいだった。
「あっはっは、真っ黒じゃないの! 服のセンスが中学生から進歩なしね!」
「……悪かったな」
俺の服のセンスに、ナガトは爆笑していた。
そのナガトだって中性的な服装で、女の子と間違われてしまうぞ、と俺は思うだけにした。
今、俺がそう思うだけでも、どうせ彼の右瞳から伝わるだろうさ。
幸いなことに、覚醒能力を発動しておらず、ナガトは上機嫌で自分の衣服の会計をしていた。
ややあって。
着替えた俺たちは荷物を少し背負い、群馬の地を南下して、自衛軍の駐屯地にいた。
「クモミネ曹長は、あれ……男性ですよね?」
「そうよ」
「ここに来たということは、あなた方、もっと南へ行くんでしょう。ならず者どもに襲われても知りませんよ。奴らは男女問わず、弱そうな奴は食っちゃいますからね」
「わぁ、それは私が世界一可愛いってことよね!」
「どんだけ、ポジティブなのですか。では、行ってらっしゃいませ」
ナガト節に、その駐屯地の壮年軍人もタジタジだった。
念のため、彼はナガトの意志を確認してから、通行許可を俺たちに出した。
群馬南部の駐屯地より先に、軍の検問所があり、いよいよ利根川を越える。
つまり、軍人であっても、これよりは生死が保証されない自警団の埼玉スラム街だ。
もちろん、軍の武器は持ち出せなかった。
折れた刀が1振り、覚醒能力がない俺、そして他人の心が読めるナガト、こんなんじゃ今の埼玉の地を歩くには命がいくつあっても足りない。
でもさ。
あの夏は、今持っていないもので悩むよりも、今ある時間をどう使おうかで、俺は悩んだな。
危険な旅となるだろうけど、童心を思い出した俺には楽しみだった。




