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デイブレイクサーガ  作者: 鬼容章(きもりあきら)
閑話 日本消滅後 埼玉スラムの旅
58/72

第17話-1 日本列島は今日も曇り

 和中5年7月末、関西が海になった前後だ。

 日本が1か月後、国として破産する前に、話をいったん戻す。


 同年6月の大災害により、関東圏の首都機能が壊滅した。

 その結果、交通網が集まる場所だった2か所、北関東地方の高崎や南東北地方の郡山では、急に人口が過密状態になった。

 このエリアの政治機能は、当時の日本における一般的な地方都市である。

 大規模な都市運営を行った経験は、幕末の潘政以降、約150年間もなかった。

 これにより都市機能は停止寸前になり、食糧や仕事、生活などの諸問題を巡り、住民と被災者との間で血が流れる争いが起きた。


 そうなると、自衛軍頼りになるのだけど、実際に動いたのは陸上自衛軍のみだ。

 突発的な大災厄により地点同士の通信網が途絶え、陸海空軍の機動力ある連携が出来ない状態だった。

 海上自衛軍は広島へ、航空自衛軍は青森県の三沢へ、それぞれの本営を移転していたという距離の問題もあった。

 腹をくくった陸上自衛軍は、高崎へ新規の本拠地を置くことにした。

 そうして、軍は高崎と郡山の民衆暴動を無理やり抑えたんだ。

 鎮撫する時間が足りなかった弊害として、自衛軍による統治が及ばない地域が発生した。

 利根川を挟んだ埼玉方面の治安維持は、各地の自警団任せになっていた。


 その後、関西地方や九州北部の大災害、名古屋の自衛軍の反乱、新潟での民衆蜂起、日本の破産宣言、と立て続けに日本国内での騒動が重なった。

 結局、和中5年9月から国連軍が動くまでのしばらくの間、残った日本の各地域では誰が統治権を持つか、かなり曖昧な時期になっていただろう。

 軍の通行手形も効果がない。まるで日本列島全体が戦国の世、違法スラム街状態だった。


 日本列島は、もう何日間も曇り空だ。

 どんよりした気持ち、人が作った不安はいつまでも隣にいた。

 怒り、悲しみ、複雑な感情が連鎖になり、大きな負の感情が悪臭を出して、地上のどこでも漂っていた。

 たとえ軍人であろうとも、精神を病む者もたくさんいたし、苦しみの余りに命を絶った者もいた。

 そこにあった安心できる場所が今ないんだ。これから自分の生きる場所はどこだ。

 失くした後で日本人としてのアイデンティティとは何か、と生き残った人たちはそれぞれに考えていた。

 元日本人たちは、空虚な心を日々埋めながら、薄暗い世界で懸命に生きていた。


 俺の妹、東雲有奈(シノノメユウナ)も生きる価値観を見失っていた。

 彼女の場合は、個人的な理由だった。カシマノゾミは劇的な愛憎の果て、実兄の手によって倒された。

 あれを見てから、ずっと彼女の心はモヤモヤとしていたようだ。

 今まで信じていたはずの本当の愛が分からない。ただ今の彼女自身の心は強烈に「私は生きたい」と反発していた。

 すでに彼女による兄への愛は、弱く千切れそうな1本の糸のような状態であった。

 それでも彼女は気力を振り絞り、仙台まで兄の折れた刀を取り返しに行って、ようやく高崎へ帰ってきたところだった。


 先ほどナガトから情報をもらい、北群馬郡の自衛軍駐屯地に来た。

 ここで、変わり果てた兄の姿を見て、ついに彼女の心は折れた。

 心が枯れると、お互いが近くに立っているのに、お互いが視界に入らなくなる。

 それほどに、魂同士の距離が遠いんだ。

 ユウナの言葉は宙に浮かんだまま、そこにいたはずの兄が掴むことがなかった。


「私、お兄ちゃんを本当に愛しているか、分からなくなっちゃった。あなたの刀はここに置いておくから。さようなら」

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