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選び直したこと(3)

 村の小さな酒場は、夜の入り口に差しかかっていた。


 店の奥では、任務を終えた冒険者たちが、それぞれの椅子に背を預け、湯気の立つ皿を囲んでいた。

 喧噪というほどではない。けれど、あたたかな声の往来と、皿が触れる音が交じって、賑やかさは確かにあった。


 その一角、壁際の席。

 リアとルゴルは、少しだけ間を空けて腰かけていた。

 いつものように、斜めに構えた体勢で。

 手元には煮込みの皿と、酒のカップ。


「……どうだった?」

 リアがカップを口に運びながら、小さく尋ねる。


 ルゴルは、少し遅れて応えた。

「静かだった。……やりやすかった」


「そっちはそうか。……こっちは、にぎやかだったよ」

 リアは頷き、少しだけ笑う。

「息が合わないわけじゃないけど、ちょっとズレるんだよね」


 返事はなかった。けれど、否定でも肯定でもない空気が、ふたりの間をやわらかく通り過ぎた。

 皿から立つ湯気が、ゆるやかに流れていく。


「ま、終わったなら乾杯かな」

 リアが言い、カップを持ち上げる。

 ルゴルも、特に何を言うこともなく、その手に応じる。


 ──コトン。


 ふたりのカップが、小さな音を立てて触れ合った。


「……また鳴らすのか」

「ああ。恒例だろ」


 さりげないやりとりに、どこかくすぐったさが混じる。

 夜の空気は冷えてきていたが、ふたりの席の周りには、少しだけあたたかさが残っていた。


---


 小さな酒場の扉が、背後で静かに閉じた。

 中にいた冒険者たちの声と笑いは、薄い木の壁に隔てられて、すぐに遠くなる。


 夜の空気は、澄んでいた。

 石畳には月明かりが滲み、足音が小さく返ってくる。

 ふたりは並んで歩き出す。言葉はない。けれど、それを気まずいとは思わなかった。


 ふと、リアが小さく息をついた。

 何かを思い出すように、空を見上げて、それから目線を戻す。


「……いろんな奴と組んでみても、やっぱり一番やりやすいのは、お前だった」


 ルゴルが歩みを止める。

 リアも足を止め、まっすぐに顔を向ける。


「“自然に隣にいる”だけじゃなくて、ちゃんと、そう思って選んでる」

「……それだけは、言っとこうと思って」


 ルゴルの目に、ほんのわずかな揺れが走る。

 それでも、その視線はリアをはっきりと捉えていた。


「……俺もだ。お前の隣が、一番やりやすい」


 しばらく互いに目を逸らさなかった。

 やがて、どちらともなく息が抜けて、ふっと笑い声がこぼれる。


 「なにこれ、青春?」

 「……飲み過ぎだ」


 笑いがとまらないリアに、淡々と返すルゴルの口元は、いつもよりわずかにゆるんでいた。

こういう告白は閉じないことが大事だと思うので、路上で宣言してもらいました。

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