1977年2月、多摩川にて part1
1977年2月 二子玉川・多摩川河川敷 夕方
2月ということで、風は穏やかだが、寒さは厳しく、二子玉川・多摩川河川敷には、そのせいか人はまばらだった。
親子連れや、子供たちが、草野球場でキャッチボールをしたり、歩道を軽装でランニングしている中年男性の姿が見える。
近くには、東急多摩川橋梁があり、橋梁の上を、東急の電車がゴーッと音を立てながら通過していく。
そんな、都民の憩いの場である二子玉川・多摩川河川敷の川のほとりの土手に、2人のがっしりとした体格の男が座っていた。
1人は、学生服を着たパンチパーマの男。
身長は見るからに大きく。遠くから見てもそのガタイの大きさは非常に目立った。
少し離れた場所をランニングしてる若い女性が、そのガタイに思わず目を見張った。
ワン・ヨンチョル。
東京チョーコー3年。
東京チョーコーで一番喧嘩が強い男である。
身長は193cm、体重110kg。
恵まれた体格で、校内や都内で敵なしの男であった。
学生時代、繁華街で暴れていたワンに目を付けた某指定暴力団が、ワンをスカウト。
チョーコー卒業後は、某指定暴力団にお世話になることをワンは決めていた。
「キムヒョンニム(兄貴)、来月、本当に行くんですか?」
ワン・ヨンチョルは、隣にいる私服の男に話しかけた。
スクッ。
キムと言われた男は、立ち上がると、川に向かって歩き出した。
名前は、キム・ブントク。
年齢は21歳。
東京チョーコー3年時に、校内のハッセン(生徒)達全員を統括していた男である。
学生時代、パンチパーマだった髪型は、七三寄りのオールバックになり、
茶色のジャケット。
開襟シャツ。
濃紺ジーンズ。
革靴。
という、キム・ブントクいつものオキニな服装で、学校帰りのワン・ヨンチョルと、この多摩川で待ち合わせしていたのである。
ジャラ。
キム・ブントクは、多摩川沿いの砂利の小石を一つ取った。
ブンッ!
小石を多摩川に向かって力強く投げた。
バチャ!
小石が、多摩川の中央辺りで水しぶきをあげて沈んでいった。
「ああ、万景峰号で朝鮮へ行く」
キム・ブントクは、ワン・ヨンチョルへ振り返りながら、そう答えた。
ちょうどその頃、夕日が辺り一面、多摩川を赤色に染め上げていた。
夕日が、キム・ブントクの背後から沈もうとしていた。
その夕日の輝きが、多摩川をバックにして立っているキム・ブントクを縁取るかの様に、包み込む。
その姿を、ワン・ヨンチョルは、まるでキム・ブントクが、夕日そのものを背負っているかのように見えた。




