表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

第九話 王宮での茶会


「痛かっただろう?」


 馬車が走り始めてすぐ、ヘンドリック様はそう言った。

 最初、なんの事か分からず首を傾げると、ヘンドリック様はスッと頬の継母に叩かれた部分を撫でられた。


「あぁ、まぁ、最初は痛かったですが平気です」


 侍女さんたちが上手く化粧で消してくれたので王子たちに勘付かれる事もないだろう。


「そうか………」


 ヘンドリック様は、眉を寄せ少し怖い顔をしている。


「ヘンドリックさ……」

「旦那様、着きましたよ」


 ヘンドリック様の名を呼ぼうとしたところ、御者の者がコンコンと窓を叩いて到着を報せてくれた。


 御者の言葉にヘンドリック様はひとつ頷くと、馬車の扉を開け、私に手を差し伸べる。


「第二王子殿下には、会場までは私がエスコートすると言っているから心配しなくていい」

「そうでしたか。……何から何まで本当に申し訳ありません」

「君のその姿を見れたのだから、やった甲斐があるというものだ」


 サラッと言い切ったヘンドリック様に頬が熱くなってしまった。

 たったそれだけの言葉だったのに、この人に言われると、どうにも胸が高鳴って仕方がない。



 王宮内に入ったところで、見知った侍女が待っているのが見えた。


 侍女は、私を見るとすぐに美しい礼をした。

 

「本日はお越しいただきありがとうございます、アルミリア姫様。早速ですが、殿下方がお待ちでございます」


「では、私はここまでです。お気を付けて」

「感謝いたします。ロンジャー卿」


 さすがに人前だから他人行儀になるが、ヘンドリック様は柔らかな笑みを浮かべて去っていった。


「お久しぶりにございますね。姫様」

「えぇ、本当に。元気だった?ルーナ」


 実は彼女、第一王子と第二王子の乳母も務めたこの王宮でも一、二を争うほど地位が高い侍女である。


 王宮に来るといつも私の世話をしてくれていた。


「もちろんですよ。まだまだ老いぼれとは言わせませんわ。ほほほ」

「ルーナはまだまだ若々しくいて頂戴ね。わたくしの結婚式にはルーナに手伝ってほしいの!」

「あらあら、姫様は本当にフィオーラ王女殿下にそっくりになられましたね」

「お母様に?」


「えぇ、姫様のお母様もいつも言っておられました。『ルーナは私が結婚するまで側にいてね。花嫁の準備はルーナに手伝ってほしいの!』と。その後、お約束どおり、王女様の結婚式の日は、髪結いから着付けまで全てわたくしにお任せくださったんですよ」


「ルーナは、お母様の側近だったのよね」


「えぇ、そうですの。……王女様が三歳の折、学友として召し上げられ、それからずっとお側に侍って参りました。……まさか、あんな早く旅立たれるなんて思いもしておりませんでした」


 辛いことを思い出させてしまっただろうか。ルーナの目には薄っすらと涙が浮かんでいた。


「さっ、着きましたわ、どうぞ、姫様」

「えっ、ここって……」

「いらっしゃい、愛しのロサ!!」


 私と同じ金の髪に青い瞳の従兄弟が部屋から飛び出してくる。


「どうして、会場が、ベルお兄様の居室の庭園なのですか……」

「え?別にいいじゃないか。昔もよくここでお茶をしていたじゃないか」


(昔は良くても今は駄目だろ!!)


 未婚の令嬢が伴も連れずに王子の部屋に入るなんて、周りがどう思うかなんて想像に容易い。


 この城の人間は、基本的に私がこの第一王子と結婚すればいいと思っているものばかりであるため、このような普通ではありえない事が起きてしまうのだ。


「……畏まりました」


 渋々了承の言葉を述べた所で颯爽とベルお兄様に手を引かれ庭園に連れて行かれてしまった……。


 茶会のために用意された席には、既に第二王子レオンハルトの姿があった。


「ごきげんよう、レオンお兄様」

「やぁ、ロサ。元気になったのかい?」


 多分この人は、今回の件が仮病だと言うことを分かっている……


 私のことに関してだけポンコツになるベルお兄様とは違い、レオンお兄様は、常に腹黒な知略家だ、これしきの事とっくに把握しているだろう。


「えぇ。お陰様でこのように元気になりましたわ」

「そうか、それは良かった。まぁ、立ち話はこれくらいにして席に着きなよ、ロサ」

「ありがとう存じます」


 さて、この方は何が望みだろうか……。


 お父様の失踪に王家が噛んでいるのは確かだ。

 ベルお兄様は、私のためを思いすぐに口を割ってしまうだろうから、今回のことには関与していないと見える。


(となると、後は………)


「レオンお兄様も最近はお忙しいご様子ですが、いかがお過ごしでしょうか」

「兄上ほどではないよ、ロサは心配性だね」


 にっこりと細められた青い瞳がこちらを探るように見ている。


 昔からだ。昔から、レオンお兄様が私に嘘をつくときはこんな風に笑っていた。そう、私を試すように……。


(これだから、腹黒は!!!!)




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ