王女
九条さんが書類をバラまきながら去っていった後、私は案内役の兵士さんに連れられて、仕立て屋さんのような部屋へと案内された。
そこで用意されていたのは、いかにも「異世界の始まりの装備」といった感じの服だった。
白いスマートなブラウスに、動きやすそうな頑丈な革のビスチェ。そして、病室では絶対にはけなかった、軽やかなミニ丈のキュロットスカート。
「わあ……軽い。それに、どこも突っ張らない……!」
鏡に映った自分の姿を見て、思わずその場でぴょんぴょんと跳ねてしまう。
これならどれだけ走っても大丈夫だし、何より「病人っぽさ」が完全に消えているのが嬉しかった。着替えを手伝ってくれた侍女さんたちが「勇者様、おいたわしや、よほどお喜びで……」と感動の涙を浮かべていたけれど、勘違いさせたままにしておこう。
「では勇者様、陛下と王女殿下がお待ちです」
再び廊下を進み、ついに城の最奥にある巨大な扉の前にたどり着いた。
兵士さんがゆっくりと扉を押し開けると、そこは高い柱が並び、奥の玉座にきらびやかな衣装をまとった人たちが座る、本物の「謁見の間」だった。
部屋の中央まで進むと、九条さんがすでに直した書類を抱えて、借りてきた猫のように大人しく端の方に立っているのが見えた。目が合うと、彼は気まずそうに小さく手を振ってきた。
「よくぞ参った、異世界の勇者よ」
玉座から声をかけてきたのは、立派な王冠をかぶった王様――ではなく、その隣に座っていた、息をのむほど美しい金髪の少女だった。彼女がこの国の王女様らしい。
「私はアルカディア王国第一王女のフローラ。そなたをこのような戦乱の渦中に巻き込んでしまったこと、まずは深く詫びさせてほしい」
王女様はとても真剣な表情で、深々と頭を下げた。
周りの貴族や魔法士たちも、一斉にシリアスな顔で私を見つめている。
(うわ、めちゃくちゃちゃんとした王女様だ……。私のポンコツっぷりがバレたら、今すぐ病室に強制送還されちゃうんじゃ……)
内心で冷や汗をかきながら、私は精一杯の真面目な顔を作って一歩前に出た。
「あ、いえ! 頭を上げてください、王女様。私、元の世界ではやることがなくて退屈してたんで、こうして動ける身体をもらえただけで、むしろお釣りが出るくらいですから!」
直球すぎる私の言葉に、謁見の間が一瞬でしんと静まり返った。
あ、やばい。またちょっと口が滑ってふざけた感じになっちゃったかも。
端っこで九条さんが「おいおい……何言ってんだあいつ……」という顔で、完全に額を押さえて絶望しているのが見えた。
そんな静寂の中、王女様はパチクリと瞬きをした後、ふっと緊張を解いたように優しく微笑んだ。
「ふふ、頼もしいお言葉、感謝いたします。そなたのような前向きな方を勇者として迎えられたこと、我が国にとって最大の幸運かもしれませんね」
王女様の懐の深いフォローのおかげで、なんとかその場の空気は丸く収まった。
端っこで九条さんが「ふぅ……」と盛大に胸をなでおろしている。私の異世界での本格的なお披露目は、良くも悪くも強烈な印象を残してスタートしたみたいだ。




