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5.1.4.向かうべきは

 アライソは北方将軍の墓へ下げていた頭を上げ、隣でしみじみと墓標を見詰める童子に言うとでもなく呟いた。


アラ「しかしこれで東西南北、四方の神軍は破られました。いえ東軍はトヨハタ将軍が後を継ぎ、西方ではソアラ将軍が残ってこそはおりますが」


童子「しかし東将シノノメ将軍は身罷(みまか)られ、軍が破られたのは事実。そして新将軍が就任したとて未だ立て直しは成ってはおりません。あちらを襲った龍が再来しないのがその証拠。


 ソアラ将軍の一人とても軍であるとの心意気は敬われるものではありますが、実態としては壊滅しているのも事実。


 四方の神軍は破られました」


アラ「龍どもは何がしたかったのでしょうか。神軍と戦うだけ戦って、それを破ればそれ以上は踏み込まずに立ち去るのみ。この世界を侵しに来たのではないのですか」


童子「いえむしろ立ち去ったことこそが侵しに参った何よりの証拠でありましょう。一つの軍だけ潰滅させようとも、そのまま入り込み他の三軍に迎撃されては侵略するのは難しい。だから各々が各個撃破をし、それから行動を始めようとしているのです」


アラ「ではこれからが」


童子「はい、神界を守護する者らは滅せられました。これからが彼らの動く時。本格的な侵略はこれから始まることでしょう」


アラ「私はこの世界を守らなければなりません。龍らを防ぐ盾とならねば。しかしではどこへ行けば。一体どこから来るのでしょうか。四方から? この身は一つ、四方へ分けることは出来ません」


童子「……どこから来るというにせよ、四方から来るというにせよ、世界を破滅させんとするならば、向かう場所は分かります。そこにいれば自ずと彼らは来るでしょう」


アラ「それは、どこに!」


童子「世界の中心、そこに大樹が立っております。その世界樹が神界を支えているのです。神界を破滅させるのならば世界樹を断ち切るのが必定(ひつじょう)。迎撃するとおっしゃるならば、そこでお待ちなさい」


アラ「ありがとうございます! 私はそこへ向かいましょう」


 と、立ち去ろうとする彼へ、


童子「お待ちなさい。いずれ龍は来るでしょう。しかしこの地を襲った黒龍は再び姿を現さず、未だ向かっておりませんから、急がずとも良いかと」


 と、引き留めて、


童子「貴方は、世界樹、菩提樹、そうしたものを見たことは」


アラ「ありません」


童子「ご存知でしたか」


アラ「初めて聞いたものでありました」


童子「ならば耳に入れても損はあるまい。……。この世界の女神は蛇身(じゃしん)であるとはご存知のはず。世界樹はあの蛇の胴体なのです。それで世界を支えているのです。


 地下で蜷局(とぐろ)を巻いて大地とし、もたげた首が、それが樹の幹。頭を白い月と()し、世界を見下ろしているのです。月には窪みがありましょう、それらが目」


アラ「月が女神の(うつ)()だとは存じておりましたが、そこまでは」


童子「あれは蛇でございます。白蛇の女神でございます。


 龍らはこの世界を侵したい、壊して我が物にしたいと願っております。そして同時に積もった恨みを女神にぶつけ、彼女を傷付けたいとも思っております」


アラ「何故そんな。恨みとは」


 童子は(うつむ)いてじっと何かを考えていた。それから面を上げてアライソの目をじっと見詰めて、話を()らすかのように言い出した。


童子「この地を襲った黒龍は(いま)だ姿を現さず、時間はまだまだありましょう。悠久の時が。その向こうが。少し、昔話をいたしましょう」


 アライソを目で(うなが)して先程までいた崖の(ふち)まで連れて行き、共に再び腰掛けた。宙に脚をぶらぶらさせて、それでも思い迷っていた。


 薄暗い沖合では混沌のように海が荒れて天と混ざり合い、灰色の天地は分けられていなかった。水天髣髴(すいてんほうふつ)。世界が始まるよりも前の景色を思わせた。


 童子はようやく決心が着いたのか、小さな口がゆっくりと開き始めた。


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